短編1
私は屋上で煙草を吸っていた。
場所は高校。私は生徒。時は授業中。
無論、校則違反である。立派な法律違反である。
なぜこんなことをしているかというと、私が不良だから。
なぜ不良かというと、みんながそう思っているから。
原因は目つきが悪いから、地毛が茶色いから、口数が少ないから、態度が若干粗野だから、いつも制服を着崩してるから、等々。
どれもありふれた理由。だからこそ、どうしようもない理由だった。
目つきと地毛は生まれつきなんだから、最もどうしようもない部分だ。ただ、先生に注意された時に「あぁ?」と睨んでしまったのは良くなかった。
元々嫌いな先生だったうえ、いきなり一方的だったからついイラっとしてしまったのだ。
ただでさえ目つきが悪いのに睨んじゃったものだから、なかなか凶悪な表情になっていたというのは後から聞いた話。
無口なのは喋るのがそんなに好きじゃないからってだけだし、制服を着崩しているのはこの絶妙に小さい制服が悪い。ちゃんと来ていると窮屈で仕方ないのだ。
態度だって、横柄に努めているわけじゃなくそういう骨格なんだから、私にどうしろってんだ。
そんなわけで、私は不良だ。
どれだけ自分に否も自覚もなくても、みんながそう言えばそうなる民主主義社会に私は生きているのだ。
他人の評価なんて気にしちゃいけないとは言うけど、他人の評価だけで私という存在を決定されてしまっているのだから、どうしようもない。
頭の中で悪態を吐きつつ、ぷはーと煙を吐き出す。煙草は‥‥言い訳しようがないな。
不良っぽいアイテムといえば一番に思い浮かんだので手に入れてみたワケだが、これじゃあホンモノの不良だ。よろしくない。
だが喫煙は常習ではないし、自分で買ったわけでもないとだけ言い訳させてもらおう。
先日学校をサボって街を歩いていたらヤンキーっぽいニーチャンたちに声をかけられたので、咥えていた煙草を見て「私にも分けてよ」と言うとニヤニヤしながら箱から出した1本を差し出してきたので、何気なく箱のほうを奪って逃走したのである。おや、買うよりタチが悪い気がしてきたぞ。
しかし突発的なナンパは正直言って非常に心臓に悪く、有体に言ってめちゃくちゃ怖かった。そして二度とあの辺りには近づくまいと心に誓ったのであった。小心者で悪かったな。
10本ほど残っていた煙草を今日までに3本ほど消費してみたワケだが、なかなかどうして臭いし苦いし、良いところを探すのが難しい。
肺には入れず、口の中に溜めた煙を吐きだす。口の中がイガイガして気持ち悪い。初めて吸った時は煙を吸い込んだ瞬間に思わず、およそJKとは思えないような聞くに堪えない咳を漏らしてしまったものだ。
それでも、やさぐれたい時にはちょうどいいと思った。悪いことしてる気分に浸れて、思考が半分止まって、他になにもしていなくても気が紛れる。三度の喫煙によりようやく見つけ出した数少ないメリットだ。
とはいえ、今後も常習的に吸おうとは思えない。なんたってこんなものが一つ、500円近くもするそうじゃないか。それならカフェオレを5本買ったほうが絶対に良い。甘くて美味しいし、コソコソしなくていいし、絶対煙草なんかより幸せな気分になれる。さらに5本全部カフェオレにする必要もなく、いちごオレを含めてもいいのだ。最高すぎる。
大人たちはこんなものに高い金を払って体を犠牲にして一体何を求めているのか。今の私にはよく分からない。金を払ってでも思考を止めたいほどの苦痛を、大人ってのは日々味わっているということだろうか。そうだとしたら、私は今のままずっと子供でいたい。
そんなしょーもないことを考えながら視線を上げると、そこには澄み渡るような青い空が広がっていた。
雲は薄く、かき混ぜて散らしただけのようなまばらなものが点在しているだけ。私の気分は晴れずとも、天は私の心情など斟酌することなく晴れ渡る。
物語には心情表現として天気が用いられることがしばしばあるが、あれは天候も含めて物語の一部。実際の天気はこちらの意など介さず晴れたり雨を降らせたり、かと思えばきまぐれに、腹が立つくらい的確に私の気持ちを代弁してきたりする。
要は、天候なんて私の心情の指標になどなり得ないということだ。天気が私の気持ちに応えてくれるというのなら、きっと私が高校生の間は途切れることなくずっと曇り空が広がることだろう。
‥‥そう、ずっとだ。入学して、なんとなしに怖がられて、弁明する間もなく悪い噂ばかりが広まって、今に至るまで、ずっと。
そしてきっと、これからもずっと。少なくとも、私が高校生である間は。
それこそ物語であれば、きっとすぐにでも運命の人が現れて私を苦境から救い出してくれるのだろう。だけど現実ってのはそんなに都合よくなくて、華々しくも輝かしくもなければ、沈み込んですらいない。
現実はドラマじゃない。ドラマじゃないってことは、特別なことは何も無いってことだ。何も無いってことは、言葉通り。誰かが助けてくれるわけでもなく、ひどいイジメが始まるわけでもなく、淡々と毎日が過ぎていくだけってことだ。
私は、悲劇のヒロインになることすら許されない。
短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けて、最後の煙を吐き出した。口の中は苦々しく、気まぐれな天気と違って私の心を正しく反映してくれている。
それから箱の中に残った煙草を確認して、眉をひそめた。何かを求めて喫煙に手を出したけど、早くもそこに何も無いことに気が付いてしまった。奪った彼らには悪いけど、帰り道にでもどこかに捨ててしまおう。ナンパなんかするのが悪いんじゃー、と自分を正当化しつつ。
手持無沙汰になって、嘆息する。煙草の臭いはそう簡単には消えず、今日はこれ以降の授業に出ることはできない。また一歩、本当の不良へと近付いてしまった。
他者に不良であることを求められ、それに応えるように私はこうして求められたものへと着実に変化を遂げてゆく。
私はどこで間違ったのだろう。それとも、私がこうなることは必然だったのか。そうだとして、今から私に何が出来るのだろうか。
私の気持ちが頭上に広がる青空のように晴れ渡る日は来るのだろうか。
夏は去り、漂う空気は清涼で肌に心地いい。冷え込み始めた空気も、この時間は降り注ぐ陽の光のおかげで柔らかく穏やかだ。
手すりを通り抜けて屋上の床を撫でた秋風が、私の前髪をふわりと揺らした。
なんとなく、やさぐれた女の子と慈悲のない淡白な日常を書きたくなったので勢いで書いてみました。下書き的なものもなく推敲も雑なので粗さがあると思いますが、ご勘弁ください。
読み切りの短編なんてほぼ初めてだったのですが、今に至るシチュエーションや前後の展開をどこまで説明してどこを省くかとか、思った以上に難しかったです。短いがゆえに、奥が深い。
けど長編と違って今後のことを考えなくていいので、気楽に書けて楽しいですね。気が向いたら息抜きにまた何か書いてみたいと思います。その時はまた、目を通していただけると嬉しいです。読了ありがとうございました。