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第六話 呪文詠唱と中二病は相思相愛(言いがかり)

「次だ。次のステップに進むぞ。

 普通の魔法使いは杖等の媒体を使うものなのか?」

「そうですね。熟練の魔法使いは媒体を使用しなくとも使えるそうですが、やはり有ると無いとでは違うと言っていました」

「オマエは今持っているのか?」

「いえ、さすがに急なことでしたし、わたくし自身魔法の才能が無いものですから、普段から持ち歩く癖もなく……」


 うーむ。さすがに羽をそのまま持って……というのも格好が付かんな。

 そう思いながらローザの姿を改めて確認する。

 背中の中ほどまである薔薇色の髪。薄氷色の瞳。着ている服はちょっと見ないような見るからに金の掛かってそうな、それでも華美に過ぎないドレス。……ん? ドレス?

 今までろくに気にしていなかったが、ローザの格好不味くないか? 何処の世界にドレスで旅をするような輩が居るというのか。こんな格好でうろうろしていたらしょうもない連中に目をつけられるだけでは。

 そもそも何か訳ありですと喧伝しているようなものではないか。


「あの、ディー様?」


 ジッと見つめたまま思案に耽る俺に何やらソワソワした風に声を掛けるローザ。おっといかんいかん。とりあえず服装については後から考えよう。まずは羽をどうするか。

 ……作るか。

 考えるのが面倒になった俺は、それっぽい物を作ることに決めた。

 ローザにちょっと離れてもらい、猫モードから竜モードへ戻り、自身の爪で鱗をガリッと剥がす。

 そこそこ今の俺には小さくとも人間的には大きな鱗を爪先で慎重に、それこそ人が蟻を踏まないように注意する以上の慎重さで、ガリガリグリグリと割ったり削ったりした後、再び猫モードへ。

 俺の身体から剥離した羽と鱗が俺自身の現状に左右されずそのまま在ることを確認しつつ、大雑把に整形した鱗の中から良さげな物を見繕い、それを更に猫爪で穴を開けたりして弄くる。下手に魔法使って爆散とかしたら二度手間だからね。

 満足いく形になった所で、ローザの髪を数本抜いてもらい簡単な紐を作る。これは俺のプリティキャットハンドでは無理なのでローザに指示。

 鱗に開けた穴に羽と髪紐を通して、完成。

 竜鱗と翼猫の羽のブレスレットの出来上がりである。術者であるローザ本人の髪も使うことで媒体としての機能は多少底上げされているだろう。多分。ほら、オカルトやファンタジー的には結構重要な要素であるわけだし。


「うむ。なんとかカタチにはなったな。ではローザよ、それを付けて魔法を使ってみるのだ」


 ブレスレットを右手に通したローザは頷き、深呼吸を二度三度繰り返す。そして右手を前に突き出しながら口を開いた。


「赤き熱よ此処に。火よ灯れ」


 暴っ! と。人の頭くらいある大きさの炎が現れ、消えた。

 詠唱の中途半端な中二感は置いといて。


「ほう。初めてにしてはなかなかではないのか?」


 普通の人間の魔法がどれほどのものかは知らないが、何も無い場所に人の頭大の炎を生み出すっていうのは、結構スゴい気がする。慣れて工夫できるようになれば用途も幅広そうだし。


「あ、あああのっ!」

「ん? どうした、そんなに慌てて」


 あ、ははぁん。初めての魔法行使成功に興奮しているな。

 と、思ったのだがなんだか様子がおかしい。喜んでるって言うか、そう、あれはビビってる表情だ。


「い、今の魔法はですね、火を灯す程度の初級詠唱です……。あ、あんな業火、出ないはずです……」

「……ほぅ?」



 その後もローザに初級の魔法を幾つか一通り使ってもらった。

 やはりと言うか、そのどれもが初級というにはやや過剰な規模だった。

 小さな水球を生じさせる魔法では十リットル以上は優にありそうな水がドバァッと流れだし、そよ風を生じさせる魔法では子供程度なら飛んでいくんじゃないかという勢いの突風が吹き抜け、土を盛り上げ簡易的な壁を作る魔法では城壁かな? と思う程のしっかりとした岩壁が成形された。

 うん。ローザちゃんてばすっごーい! とか言うとる場合じゃないなこれ。

 初級でこれなら、それ以上のランクの魔法だとどうなるんだ? いや、攻撃を意図とした魔法の場合かなり不味いことになるのでは?

 なにより――


「ローザよ。オマエ自身に何か違和感はあるか?」

「い、いえ。魔法を使う時にちょっとだけ熱と脱力感を感じる程度で……それも気のせいを疑う程度のものです」


 もう少し検証が必要かもしれないが、下手すると大した消耗をせずに大威力の魔法を連発する『魔王少女ローザちゃん』が始まる予感。

 某魔王様みたいなことが出来るぞこれ。「今のはメラゾ◯マではない、メ◯だ」。

 ……始めちゃうか? 始めちゃうか魔王少女ローザちゃん。

 いやいや、冗談は置いといて。

 魔法の練習とかさせたいし、俺自身も手加減する練習が必要だと思うが、それはおいおいだな。ともあれローザが魔法を使うというとりあえずの目的は達成だ。難しいことはあとで考えよう。どうせ今考えても他の者が使う魔法に関して無知な現状ではどうしようもない。


「とりあえず、だ。ローザは魔法の制御が苦手であり、慣れるまでは使い魔がローザの代わりに動くという設定でいこう」

「設定? あ、いえ、そんな畏れ多いです!」

「気にするな。と言うかローザ、今のままではうっかり大惨事とかあり得るだろう? そうならないための言い訳だ。それに、畏れ多いと思うのならばオマエは魔法の制御に注力すれば良い。当然、これについては我輩も助力は惜しまん」

「それは……、いえ。そうですね。わかりました! 誠心誠意、励ませて頂きます!」


 やる気満々ぽいローザに満足げな頷きを返しつつ、そろそろ動くべきかなと考える。


「ローザよ、オマエも色々あって疲れているだろうが先ほどの街まではそう遠くない。さすがに竜の姿のまま近づくことは出来ぬ故歩く必要があるが、いけそうか?」


 空から見た感じでは、この場所から街までは直線距離で凡そ一キロ程度だ。たぶん。徒歩での移動としてはそこまで遠いとは言えないが、ローザの疲労は結構なもののはず。身体的なものも、精神的なものも。

 加えてあの街、王都への道は坂道だ。なおさら体力を取られるだろう。

 あまりおすすめは出来ないが、最悪野宿という手もある。モンスターや野党の類いが襲ってきたとしても、俺ならば鎧袖一触に蹴散らすことが可能だ。

 

「……大丈夫です。野宿は、したくありませんから」

「そうか。辛くなったら遠慮なく言え」


 気丈に返すローザに応えつつ、街を目指す。


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