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第四話 見ててください、俺の変身!

 そんなこんなありながらフライアウェイ。

 夜が明ける前に目的地を視界に収めた。

 小高い山の中腹から切り崩したようにして存在する都市国家。あれがスメラギ皇国の城下町であるらしい。

 天然の要害という言葉に相応しく、そこは見るからに攻めるに難く守るに易いと見てとれる。

 凡そ十メートル程の街壁で周囲をグルリと覆い、出入り口となる門は一つだけ。そこ以外は切り立った崖や急斜面であり生半に侵入することは出来やしない。さらに一定範囲の木々を完全に伐採し見通しを良くした上で物見砦を配置し万が一にも備えている。

 城壁内には様々な建物が立ち並び、よく見ればそれらが一定の法則で規則正しく配置されていると理解できる。王城と思しき一際巨大な建造物を中心に、恐らくは居住区や商業区など、その用途々々に別けてあるのだ。

 今は夜とあり住民の多くは寝静まっているのだろうが、夜をこそ賑わいとする施設や物見砦などには灯りが点っている。規模から見るに太陽が昇ればさぞかし活気づいた街の様子を見れるだろう。


「あれがイスルギ皇国か」

「はい、おそらく」

「? 見たこと、いや、来たことはないのか?」

「はい。わたくしは国を出ることを許されませんでしたから。話に聞いたことしか……」


 そう言って口を噤む。

 ふむ。お姫様だからだろうか? 気にはなるが、一々興味本意で訊ねるのも憚られる。それにさして重要なことでもない。とりあえず脇に置いておこう。

 ところであれだ。なんも考えずにここまで来たが、よく考えたらアカンのじゃないかと今さら思い付く。だってほら、俺みたいな某怪獣王陛下とガチンコ可能なドラゴンがいきなり飛来してきてみろ。大パニックどころの話じゃないぞ。ドン・キホーテでもあるまいし、皆が皆、頭がわい――勇猛果敢ではないだろう。

 人類絶望という四文字が脳裏を掠めた。

 今も十分な高度を取っているが、もう少しだけ高く飛びつつどうするか考える。

 ベターな所で人化の術的な手段で人型まで縮むとかだろうが……。個人的にこの考えは却下である。考えるまでもない。何が悲しくて念願叶って竜になれたのにまたヒトにならにゃならんのか。

 そりゃあ多くの神話や創作話には多くの人に化ける竜や竜人みたいな存在は居るが、それはそれである。多くの先達に敬意を評し未だ憧憬冷めやらぬ俺だが、だからと言ってなんでもかんでもリスペクトするわけじゃない。

 ではこのままサイズダウンをするか?

 これまた却下である。ドラゴンとは恐れられるものだ。それが恐れられないように小さくなるとか意味不明だ。


「ローザよ。例えばだが……、我がこのまま街へ近づくとどうなると思う?」

「……十中八九、大混乱に陥るのでは……」

 

 だよね。うん、そりゃそうだ。訊くまでもないわな。


「使い魔を連れた魔法使いとか、そういうのは居るのか?」

「……あまり多くはありませんが使い魔を連れた魔導士というのは居るそうです」

「ふむ。ではローザよ、貴様自身は魔法は使えるか?」

「それが、わたくしはこれまで多くの家庭教師の方に見てもらったのですが、一度として魔法を使えたことがないのです。御身を召喚した、と判断したのもそうだという確信が芽生えただけで、未だに自分が行ったという事実に半信半疑だったりします……」


 ふむ。まぁ召喚周りのことは後回しにしよう。


「非魔法使いが使い魔を連れている、そういうことは有り得るか?」

「わかりかねます……。ただ、使い魔とは言え曲がりなりにも魔物である事実は拭えません。なので、使い魔を街に入れる際にはきちんと支配下に置けているのかのチェックがあると、そう聞いたことがあります」

「なるほど。そのチェックとは言うのがどういうものか、は流石に知らぬか」

「はい。申し訳ありません」


 なるほどなるほど。

 うーむ、未だ不確定要素は多いが……。まぁものは試しだ。やるだけやってみよう。もしダメだったらその時はその時。他の方法を考えよう。

 俺は都市から離れ開けた場所へ降りると、首を下げてローザに降りてもらった。

 さて。今までにも魔法らしきものを使ってきたが、俺はこれがどういう原理で作用しているのかをろくすっぽ理解していない。そもそもそこら辺についての説明が一切なかったので手探りで、何となく行ってきたのだ。

 そんな俺の経験則から来る結論。

 気合いだ。

 気合いを入れて出来ると思い込めば何となく出来る。今までもそうだったのだから今回もそうなれ。

 というわけで。


(超! 変! 身!)


 変身後の姿をしっかりとイメージし、俺にはそれが出来るのだと全力全開、全身全霊で思い込む!

 ぬぅうううおぉぉーー!

 って、なんだこの反発力みたいな手応え!?

 今まで魔法(仮)を使ってきた時には感じなかった妙な抵抗力めいたものを感じる。こう、磁石の同極同士を近づけた時みたいな、ちょっと気を抜くと変な方向へ力がすっぽ抜けそうな、そんなギリギリの抵抗感&反発力!

 ふんっ、ぬあぁぁぁあああ……。負、け、る、くぁぁぁああ!

 ガンッガンッ、マナを取り込み魔力をギュンギュン回す。

 すると。じりじりと徐々に押し込むような手応えを感じだした。

 イケる! そう確信した俺は一気にギアを上げた!

 瞬間!

 轟っ! という大気を吸い込むような大音と衝撃を感じた。

 その一方で成功したという確信を得る。


「きゃっ! ……え? ディー、様?」

「ふふん。変化の術、成功だな!」


 ぱたぱた、と。

 先ほどまでは主観的に小人というようなサイズに感じていたローザを見上げながら、俺は満足げに宣った。

 そう。俺の超変身が完了したのである。

 黒く艶やかなキューティクルを誇る毛並み。ぴこぴこ動く耳。ふらふらと揺れる尻尾。ぷにぷにの肉球。喉元を撫でればごろごろと鳴り、一度鳴けばにゃーと響く。

 猫である。

 しかしただの猫ではない。背には鳥類を思わせるふわもこな羽毛たっぷりの翼をも備えている。

 そうとも。我輩は翼猫である。名前はまだにゃー。

 竜が姿を変える話は別段珍しくもない。恐ろしい化け物に変わるものも居れば人に変えるものも居る。そんな竜たちの中にアイトワラスという地球はリトアニアに伝わる竜がいる。その竜は環境によって姿を様々に変えることで知られており、その姿の一つに猫があった。

 俺は偉大なる先達の中でもこのアイトワラス先輩の伝承をなぞらせてもらうことにした。

 とは言え、幾らなんでもそのまんまパクるのでは芸がない。オリジナリティが必要だ。て言うかアイトワラス先輩が猫になるの屋内限定らしいしな。

 そんな感じで色々考えた結果、俺の出した結論は「どうせ変わるのならいっそのことガラッと変わろう」という自分でも思いきったなと思わないでもないそれ。

 いやまぁ、ほら。使い魔のイメージってカラスか猫じゃん? そう思ったらそういや前世で羽のある猫の画像を見たなと、自分でも何でそんなこと覚えているのか不思議な記憶が浮上し、これだ! という考えに至ってしまったのである。うん。足したんだ。


「どうだローザよ。これならばお前の使い魔と言い張れるだろう?」

「…………」


 おや? 今まで直ぐに返答をしていたローザが無反応なんじゃが?

 ……ははーん。さてはビックリ仰天して声もでないのだな?

 まぁ無理もない。小さな山くらいはある、某怪獣王とケンカ可能な巨大かつ強大でカッコいい真竜が、小さくキュートで愛らしい愛玩動物に様変わりしたのだからな。そりゃあビックリ仰天驚き桃の木山椒の木ってなもんだ。

 うんうん、とナイスリアクションに満足しつつ。けれどこのままじゃあ時間が無駄になるので正気に戻すために声をかけーーにゃあああああっ!


「かわいいです! もこもこです! キュートです!」

「――っ! ――っ!」


 ちょ、おま、待っーー

 ぷにぷにの肉球でタップするも、ぽよぽよした感触に押し負けてしまう。

 あかんあかん! ほんま、これ、苦しい! こ、呼吸がっ! 酸素があ!


『ろくに勤めも果たさぬうちに死んでしまうとは情けない』


 聞いたことある声が聞こえるぞぅ!?


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