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第十四話 明日やろうは馬鹿野郎。

第十四話



 二人のローザ――ローゼリカとロザリンドの真実をあらかた聞いた後、疲れからか若干頭をふらつかせ始めたローザを寝かし、俺は夜景を眺めながら考えを整理していた。

 語るだけ語ったロザリンドは、だからどうしてほしい、というような要求を一切してこなかった。

 ただ事実を語っただけ。そこにあったのはローゼリカの境遇を語ることで同情を引こうとしたとか、そういうことではない、と思う。語らないことで要らぬ疑いを僅かでも持たれるよりも、正直に話したほうがマシ。そういう感情が微かに窺えた。

 これでも俺は経験という点に関してだけなら他の追随を許さない程度には豊富だという自信がある。……まぁ、人としての経験よりも動植物時の経験の方が遥かに多いのだが。

 いやむしろだからこそ、そういう直感的な機微的なそういうアレには敏感であるという自負がないでもない。

 ……うーむ。我ながらなんというあやふや感。

 とりあえず、アレだ。結論をスパッと述べるのならば。ローザに関したアレコレは保留することにした。

 いやだって仕方ないだろう。人間だった頃の俺の専攻に心理学的なものは含まれていないのだ。畑違いにも程がある。

 魔法に関しても同様だ。未だになんとなく、というフワフワした感覚で使用している俺に原理や対処法なんかわかるかという話なのだ。

 そうでなくとも、精神とか心とかそういうデリケートな部分の扱いを誤るとロクなことにならないのは色んな形で語られている通りだ。その結果壊れた奴や狂った奴をそれなりに見知っている俺としては、短い期間とは言え共に居る娘がそういう風になるのは避けたい。恩もあることだしな。

 実を言うと、なんとなく出来そうな気がしないでもない。のだが、確証もなく適当に俺魔法を使って、うっかり心が壊れたりしたら目も当てられん。

 そもそも、この件についてローザから何かを求められたわけでもないのだ。何かをするにしても、ローザから求められるか、手を出さざるを得ない状況になってからだ。

 とりあえずは、明日――もう今日か? イヴェールから魔法とかに関するアレコレを聞いて、そっち方面の知識を仕入れることがまずは肝要だろう。

 そんな風に結論づけた俺は、身を丸めて目を瞑る。どうせ眠ることはかなわないが、瞑想くらいは出来る。



 そうして。

 朝が来た。



「おはようございます、ディー様」

「……うむ、おはよう」


 きちんと覚醒しているらしい、ハキハキとした口調での挨拶。俺はそこに感じた違和感から未だローゼリカは自閉していることを悟る。


「昨夜はそのまま眠ってしまったので、今から身を清めてまいりますね」

「ああ。……イチイチ俺に断りを入れる必要はないぞ、ロザリンド」


 あえてローザという愛称ではなく、彼女の名前を口にしてみる。

 チラと視線だけ向ければ、ローザはニコリと笑みを浮かべてたおやかな一礼をして浴室へと消えた。

 ロザリンド・ヴィネ・アヴァロン。ローゼリカ・ヴィネ・アヴァロンを守護(まも)る棘だと、彼女はそう己を称した。

 だからなのか、どうにもアイツから何かを読み取るのが難しい。ローゼリカよりも感情表現が豊かなようで、その全てにどこか作り物めいたものを感じてしまう。一方でそこに偽りがないという風にも感じている。


(笑みで感情を鎧い、真意に感情を翳している)


 信用はされているが、信頼はされていない。と、いったところだろうか。

 そんなことをつらつらと考えているうちに、ローザが浴室から出てきた。きちんと服装も外行きのものに着替えている。

 俺は考えを切り上げ、のそのそと部屋を出ることにした。

 ロザリンドは黙してうしろから着いてくるだけで、特に会話もない。


 ところで、一夜明けた現在も俺の姿はマーナガルムと戦ったネメアーの獅子の体躯ならぬ大躯のままである。

 一度元の姿に戻らないことには他の姿に変身できないことは勿論、未だにダメージが全快していないというのも大きい。

 そんな俺の全長は、五メートルを優に越えていると目測したマーナガルムとガチで肉弾戦を繰り広げたことからも解るように、デカい。全身を客観的に見たわけではないから詳しくはわからないが、ヤツ(マーナガルム)と大差ない程度はある筈だ。

 なぜ唐突にこんなことをつらつらと考えているかと言うと……。

 まぁ、追い出されたからだ。

 世界は違えど人間やそれと同等の亜人種たちの体長は殆ど違いはない。つまり、どんだけでかくても二メートルそこそこが精々だということだ。

 つまりは建築物などもそれに則しているわけで、そんなところに想定された規格の二倍以上の体積の存在が居ると邪魔でしかない。

 て言うか実際に店主に邪魔だと言われて追い出されたわけだ。

 ローザ? 中で朝食摂ってる。当然だ。

 では現在俺はどうしているかというと――


「すっげー」

「でっけー」

「かっこいー」


 子供にたかられている。

 俺としても外で待つことに否やはない。邪魔だろうなと言うのは理解していたし、宿の客は俺たちだけじゃないのだから。

 かと言って、外に出されたのを幸いと散歩する気になるわけもない。今のローザを一人にすることに気がひけるし、そうでなくともデカいライオンが街中を単身で彷徨いていれば警戒されるし、それどころか騒ぎになるだろう。

 なので、宿の裏手の影になっている場所でダラダラしていたのだが。

 どういうわけか気がついたら瞳をキラキラさせた子供たちにたかられていた。

 どこから表れたか知らんが、最初はビクビクとビビられ警戒されていたのだ。俺はそれを気にせず無視することにした。そのうち飽きるだろうと思ってな。そうしたらどうだ。暫くするとなんでだか一人、二人と増え、こんなことに。

 ああ、こら。髭を引っ張るな。鬣を編むな。尻尾を掴んで振り回すな。

 これはあれだな。黙って大人しくしていたことに味をしめ調子に乗っていると見た。あれだ、デカい犬に最初はビビるけど大人しいとわかると撫でたり叩いたり尻尾を引っ張る子供特有の、そういうアレに違いない。

 ここらでちょっくら調子に乗るとどうなるか、学習させてやるためにも一吼えしてやりたいが、前述したようにどう考えてもろくなことにならないだろう。

 俺が排斥されるだけならまだしも、一応は俺の主人という扱いのローザまで要らん責を負うことになる。これはちょっとよろしくない。

 ……仕方ない。

 俺は意を決するとその逞しい四肢で立ち上がり、群がっていた少年少女たちを背に乗せる。こう、子猫の首もとを咥える親猫みたいな感じに。そんでひょいと投げる。

 背には都合六人の子供たち。流石は全身筋肉のネメアーの獅子。重くない。軽い軽い。

 俺は喉を低く鳴らすと、ダッと軽く駈け出す。

 ゆくぞガキんちょ共。少し遊んでくれるわ!

 そんな風に胸裡で叫ぶと同時、俺は宿屋を囲う塀に足を掛け宿屋の屋根に登ったり、宿屋の周りをビュンビュン走ったり。

 途中からテンションが上がった俺と子供達は、青筋浮かせた宿屋の店主に怒鳴られるまで獣王式パルクールに興じるのだった。

 


モノクソ更新を滞らせてしまい申し訳ありません。

来年からは不定期でももう少し更新頻度を上げていく予定です。

本当に申し訳ないと共に、ここまでお読み頂きブクマしてくれた方々に感謝を。

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