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第八話 役者は揃った! 

「――話はわかった」


  場所は昼ぶりの応接室っぽい例の一室。まさか冒険者になって一日二日でこんな所に来るなんて、割りと前代未聞なのでは。

 なんとなくローザのこれからに雲行きの怪しさを感じつつも、よく考えたらこの娘の先行きは基本的に明るくないのだと思い出す。今回のこれはちょっと違う気がするが。

 ギルマスは顎に手を添えて何事かを考えている風だ。

 一方で、対面に並んで座るローザとステラ。

 ステラは不安そうにギルマスを見つめつつ、隣に座るローザの服の端を掴んでいる。

 ローザは行儀よく座っているものの、その瞳は既に覚悟完了のそれ。ステラに同情したのか、良心が刺激されたのか。何故そうなったのかはイマイチわからないものの、ステラの為に動こうとするだろうと見てとれる。

 ちなみに俺だが、ステラの太股の上で身体を丸めている。テーブルの上に乗ろうとしたらローザに抱えられ今の状況にされたのだ。

 ステラも遠慮なのか何なのか、最初は面白いように狼狽えていたが、俺が身を丸めてしまうと観念したようである。

 アニマルセラピーってものがあるしね。動物と触れ合っていれば多少は安心できるだろうとか、そういうローザなりの気遣いなのだろう。アニマルセラピーの概念があるかは知らんし、そもそもステラもキツネの獣人っぽいとかそういうことはともかく。


「最初に説明したように、指名依頼はCランクから出ない受けられない。加えて、森――ヤルンヴィドの深部は高ランクのモンスターや魔獣が多数生息しているため、原則として低ランクの者は立ち入らない。そうだな……たまに自信過剰な若手が無謀にも立ち入り食い殺される、そう言えば危険度は理解できるか?」


 難しい顔で口を開いたギルマスの言葉は否定的なそれだ。

 高ランクのモンスターとかが何れ程の強さ、脅威を孕んでいるのかはわからないが、わざわざランク付けしているくらいだから相応に危険なのだろう。ギルマスの言う若手も修行なり訓練なりを行い、自信過剰になる程度には腕のたつ者だったに違いない。

 それを聞いて、けれどローザに怯んだ様子は見られない。

 一体何故だ? まさか今日の戦いで自身をつけた? いや、それはないだろう。まだ二日やそこらの付き合いだが、ローザはそんな短慮かつ自意識過剰ではない。己の実力不足は重々承知の筈だ。

 俺が居るからか? いや、それも考えづらい。自身の筋肉痛ですら押し隠し、他者に頼ったり甘えたりを控えるような奴だ。そりゃあ俺を常に抱き抱えてはいるが、それだって寂しさや不安を紛らわすためだろうし。甘えとかそういうのとは別だろう。

 胸裡で首を傾げつつ、ギルマスの言葉を聞く。


「依頼にしたって、それが仁義に悖るとは言え、慈善行為じゃないんだ。報酬を用意できないんじゃあギルドして受けることは出来ない。いや、依頼を受け付けること自体は可能だ。だが、報酬に見合わない依頼を受ける奴は殆ど居ない」


 その言葉にステラが顔を俯け、キツネ耳も萎れてしまう。


「――だが、今回はちょっと毛色が違うようだな」


 難しい顔を一転、ギルマスがニヒルな笑みを浮かべて……俺を見てないかあれ。


「今回の依頼は話を聞くにDランク冒険者のローザではなく、その使い魔に対するものだそうじゃあないか。いやぁ、困ったなぁ。ギルドには使い魔に依頼をしてはいけないとか、報酬が必要だとか、そういう決め事がないんだよなー。困ったなー」


 ……おーけーわかった。このおっさん大根だわ。なんつー棒読み。わざとらしいにも程がある。


「それに森の奥に行ってはいけない、っていう法律もないんだよなぁ。わざと突っ込んで行く馬鹿には注意くらいするが、間違って奥深くまで行くのはもう不注意と自己責任だからなぁ。

 あー、そう言えば最近登録した冒険者の連れている使い魔が気になって仕方ないっていう奴が居たんだよなー」


 不穏な空気が一転、いきなり始まる隻腕筋肉オヤジの大根ライブ。

 しょんぼりしていたステラがぽっかーんとしている。その横でローザさんは苦笑を浮かべてそれを眺めるだけ。

 いったいなんやねん。と俺が困惑していると、大きな音を立てながら勢いよく扉が開かれた。

 ビクッ! としながら振り向いたステラと、なんだなんだと顔を向けた俺の目に入ったのは、


「話は聞かせてもらった! 昨日の今日で機会が訪れるとはこれぞ女神ノルンの福音! さぁ行こうすぐ行こう」


 そんな風なことを喧しく騒ぎ立てる先日の模擬戦の相手。そう、たしかイヴェールとかいう名前の職員だ。雰囲気が全然違うが、双子とかでない限りはその顔に間違いはない。

 そんなイヴェールを見た俺の脳裏に、フルアーマーという単語が過る。

 何らかの動物の厚皮で作ったらしいレザーアーマー。

 手足を覆う水晶の埋め込まれた銀製の手甲・具足。

 新緑色のローブから濃密かつ独特な香気の魔力を感じる。

 

「イヴェール……。もうちょっと段取りというものがだな……」

「ブルーノ、アンタの大根役者ぶりをあまり曝さないようにしてやろうという気配りだ。と言うかまどろっこしい。て言うかこの調子ではまだ話が済んでいないな……。

 良いかね諸君!」


 づかづかと室内に入ってきたイヴェールはギルマスの横に立ち、やれやれと言った風に肩を竦めてから俺たちを見渡す。


「今回の、そちらのステラ嬢の依頼はギルドが受領し受注した。それに伴い次のことを要求する。

 一つ。助手として冒険者ローザとその使い魔の同行。

 一つ。星涙草ティアドロップの販売権のギルドへの移譲。

 これら二つを認めるのなら、ギルドは冒険者ランクB、術徒都市は実践派、三賢者トリニテータの弟子が一人、“千能のイヴェール”を本依頼に充て、報酬を求めない。勿論、そちらが必要としている分の薬については星涙草ティアドロップ入手後に私が用意しよう」


 どうだ? と一通り捲し立てたあと腕を組んで口角を上げるイヴェール。

 なんなのこのギルド。職員には二面性がないといけない決まりでもあるの?

 て言うかまた知らん単語がたくさん出てきたんじゃが。ドヤ顔してるとこすまんが、俺にはお前がどれだけすごい奴なのかがまったく伝わってないんじゃが。

 それはステラも同様なようで困惑しつつも、どうやら依頼を受けてもらえるらしい、ということは理解したようで表情を明るくしている。

 一方でローザは、やはりというか流石というか、イヴェールの言っていたことを正しく理解していたようで驚愕している。よし、あとで聞こう。


「――あー、まぁ、そういうことだ。条件については、術徒都市出の者だってことで理解はしてもらえると思う」


 テーブルに肘を着いたギルマスが疲れたように投げ槍な口調で言う。

 ローザは苦笑しつつ俺へと目配せをしてくる。

 話が急展開でしかもなんとなくご都合主義のような様相を呈しているが……。要するに俺とローザとイヴェールの三人で依頼を受ければ良いってことだな。

 俺はローザに頷きを返した。


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