第六話 けもみみ少女があらわれた!
その後はローザを急かすように立たせ、薬草採取の続きを促した。
途中で別のアルミラージが、今度は三匹ほどで徒党を組んで襲いかかってきたものの、ローザには一匹に集中させ、俺が他のやつを足止めするという戦法できっちりと始末した。三匹中最初の一匹は惨劇よ再びという結果であったが、コツを掴んだのかその後の二匹は上手く首を落とすだけに止めていた。
その器用さと物覚えの良さに感心すると共に、的確に首と胴体を泣き別れさせる技術に戦慄する。
あれ、この娘お姫様だよな? 思いきりが良すぎではないですかね? 本人普通にケロッとした顔ーーじゃないなあれ。ちらちらと俺の方を何度も見るのは何なんですかね?
……あー、なーるほど。誉めてほしいのか。上手くいったのを誉めてほしいのか。
ーーはっはっは、流石だローザ。我が契約者よ! これほどの短時間でこの手際に至るとは思いもよらなんだ。うむ、真に己のモノとして修めるのも近いであろうな。
なんてな風にちょっと調子に乗ってベタ誉めしてみたら、真っ赤になって俯いてしまった。
ちょっと芝居臭すぎたかな? とか不安になっていると、小さいが、しっかりと嗚咽のような音が耳朶を打つ。
えっ、えっ、なに? なんで? と内心で非常にてんぱりながらも、そんな様子をおくびにも出さず不動を貫く俺。
いや、ちゃうし。どうすれば良いかわからんで固まってたわけじゃないし。これは、ほら、あれよ。泣きたい時は泣けばええ。っていう、そういうあれよ。わかれよ。
「すみません、わたくしは今まで誉められたことが少なかったので、嬉しくて、つい。恥ずかしいところを……」
「……そうか」
っあー! よかった! 俺の褒め方が下手くそすぎて傷つけたかと思って超焦った!
クールに振る舞う俺の内心は安堵感で一杯だった。この時ほどキャットフェイスで良かったと思うことは、今後もう二度と無いだろう。
日が沈みかけた頃、そろそろ撤収しようと促して街へと帰還する。あまり遅くなると閉め出されるからね。
そうして目指す場所はギルド会館。
どうやら他の面々と帰還時刻が被ってしまったらしく、ギルド会館内は人でごった返していた。うーん、デジャビュ。
仕方がないので並ぶ訳だが、当然のように換金受け付けカウンターは混んでいる。一番多いのはやはり依頼カウンターだが、その次くらいには混んでいるのではないだろうか。
遅々とした動きの列で特に何をするでもなく順番を待つ訳なのだが、なんかめっちゃ見られてるのはなんでなんですかね。
今朝のそれとは微妙に異なる種類の、それでいてちょっと比較にならない量の視線を感じ、胸裡で首を捻る。
もはや定位置かのようにローザの腕の中でダレている俺がローザを見上げると、目があった。ローザの方は何か用事があって俺を見ていた訳ではないようで、首を傾げられる。
「気のせいか、見られていないか?」
「……そうでしょうか?」
言われ、周囲を見て疑問を呈するローザだが、その瞬間にサッとほぼ全ての視線が切れたのを俺はしっかりと感じた。
もうそれだけで大体なんとく察してしまう。
大方、ローザのような美少女がここに居ることで、そういう視線を送っていたのだろう。
よく見れば確かに女性冒険者も何人か目に入るが、その数は男性の凡そ三分の一程度くらいで、ローザ程若い娘はさらに少ない。
加えて言えば、身内贔屓ではないが。ローザは抜群にダントツの美少女である。そりゃあ視線も集めるだろう。それがむさ苦しい男供なら尚更だ。
ローザはその事に気付いていない様子だが、これは言わないでおこう。あえて教えてからかってみるのも面白そうだが、そんな反応を提供してやるほど俺は優しくないのだ。残念だったなブ男供!
そんな風に優越感に浸りながらドヤッていると、ようやく順番が来た。
換金受け付けの職員は男性――と言うには些か若い見た目の、青年と少年の間のような男だった。
「お待たせしました。まずはギルドカードを拝見させてください」
言われ、ローザはポケットからカードを取り出し提示する。男はそれを確認すると柔和な笑みを浮かべ「結構ですよ」とカードを返却した。これ、もしかして毎回やらなあかんのか。
ちょっと面倒じゃないあかなぁ、と内心で辟易している俺を置いて――物理的な意味で――ローザは宝珠の術式を解凍して素材を並べる。
俺も実際に見るとその意味不明さに驚いたのだが、ギルドカードの宝珠に込められた圧縮術式は本当に器物を圧縮して宝珠内に収納できる魔法が込められていた。使い方も簡単で、収納したい物を宝珠に近づけ魔力を通すだけで良いらしい。便利すぎだろう。
収納容量も同一のものであれば一つの宝珠に数十から十数個程度は入るというのだから、このギルド長の言っていたことを改めて強く意識する。
魔法があるとはいえ、その力は必ずしも万能ではないだろう。街を行く人々は荷物を大なり小なり手に持ち、あるいは背負っていた。物流はかなり原始的なそれであると考えると、この物質を圧縮収納できる技術は革命的だ。商人や遠征を行う軍や冒険者にはこれが有るか無いかで全てが変わってくるだろう。
嵩張る水や食料、代えの武具やその他道具類。商人であれば商品もここに加わるだろう。それを殆ど幾らでも持ち運べる。負担はゼロだ。ぱっと思い付くだけでこれだけの有用性があるのだ。頭の回る者がじっくりと考えれば大きな変革をもたらせるだろう。
そんなことを考えている間に換金は終わったらしい。俺はまたしてもローザの腕に抱えられてしまう。思考に没頭して避け損なったのである。
今回の成果はアルミラージの肉と角、それと俺が猫の狩猟本能に逆らえずハントした、鶏とか鳩くらいの大きさの鳥が三つ程だ。残念ながら本来の目的である薬草類は必要十分な数を採取できなかったが、肉類や角獣類の角は需要が高く常に買い取りがあるらしいので、クエスト的には成果無しでも金銭的には収入が見込めた。
しめて合計銀貨四枚と銅貨一枚。
未だに俺にはこれがどの程度の金額になるのかがわかっていないのは内緒だ。
――言い出すタイミングがなぁ……。
そんなことを考えているとローザの足が止まっていた。
見ればローザの行く手を遮るように一人の少女が立っていた。
「……退いていただけますか?」
やや固い声音で言うローザ。さすがにいきなり通せんぼされたら不機嫌になるか、と考えながら狼狽えながらも退こうとしない少女を観察する。
黄金色のショートヘアに琥珀色の瞳。手足の所々に包帯やガーゼのようなものが当てられている。が、やはり一番特徴的なのは頭部でピンと立つ獣耳と、尻の辺りで総毛立つようにしているもふもふ度の高そうな尻尾だろう。総合的な所感として、なんかキツネっぽい。
「あ、あああ、あのっ!」
「はい?」
「――――っ、助けてくださいっ!」
キツネの獣人らしい少女はそう言って力一杯頭を下げた。
どうでも良いが、ここギルド会館の出入り口でね?
めっちゃ注目集めてるんだが。
あとで書き足すか書き直すかするかもしれません。




