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変態の才能

 ケルティック学院の一日の授業は午前と午後に分かれており、それぞれがさらに前半と後半に分かれている。基本的に前半は座学、後半は実技となる。

 現在はクラス全員自己紹介の時間を終え、オズグリフ教官が担当する治癒魔術……の前に、魔術概論の時間に入っていた。

 この学院の担任教官は皆、魔術の基本的なことを説明する魔術概論という授業を受け持つ。今回は俺たちの初回授業が治癒魔術担当のオズグリフ教官だったため、魔術概論の担当もオズグリフ教官になったというわけだ。

 ちなみにもう一つある一年生のクラスでは、炎系魔術のレイト・アルステイン教官が魔術概論と担任教官を受け持ったらしい。


 オズグリフが前方の壇上で黒板に書き記しながら、生徒たちに教鞭を執る。

 現在話しているのは、魔術が何を元にして発動されているか、という部分だ。


「魔術とは、世界中に自然的に発生する"マナ"を用いて、

 普段生活している中ではありえないような現象を起こすことができる手段のことを言います」


 事前に女神からある程度この世界の魔術について聞いているため俺は聞き流しても問題ないが、実は魔術という概念はこの世界だとそれほど一般的に浸透しているわけではないらしい。

 しかし最近では、魔術のちからを利用したたくさんの便利な道具が世に排出されたおかげで、魔術というものについて人々が知る機会が若干だが増えたという。


 魔術とは学問であり学べば誰にでも使うことができるが、それ故に教える者がいないと本末転倒である。

 魔術に関しての本もあるにはあるが、この世界の人間にとって本という資料は高価なものらしく、おいそれと一般の家庭に置かれているものでも無いという。


 さらにこの世界には元から"火"と"水"がある。極論、人間は火と水さえあれば、生活には困らないのだ。だからこそ、普通に生活しているだけではいざ学ぼうと思わない限り魔術を使うことができないということだ。


 それはこの学院の入学生だって例外ではない。実際クラスの七割ほどは、熱心にオズグリフの説明を聞いている。


「魔術の発動を試みるには、それに対応した"術式"という特殊な文字で構成された式を用い、それを解読しなければなりません。

 これは、どんなに高度な魔術でも共通の事項です。

 この解読に時間が掛かれば掛かるほど、魔術の発動は遅くなってしまいます」


 オズグリフは、クラスメイトたちが書き終わるのをしっかりと待ってから続きの言葉を重ねる。


「そして全ての術式には、"解読制限時間"というものが存在します。

 初歩的な魔術であればそこまで気になることはありませんが、解読が難解になってくれば、おのずとこの制限が如実に表れてくることでしょう。

 名の通り、当然この制限時間以内に術式を解読しなければなりません」


 つまりアレか。高度な魔術になればなるほど、術式を素早く解く力も問われてくるということか。


 ……しかしいくら異世界と言えど、授業に関しては日本で行われていたものとほとんど同じ進み方をするんだな。

 例えば、


「教官ー。その解読制限時間ってその術式ごとに違ったりするんですか?」


 と生徒が手を挙げてオズグリフに質問をすれば、


「はい、その通りです。私が扱う治癒魔術にはもちろん、

 火、水、雷、風……などといった属性を持つ属性魔術にもそれぞれ制限時間が設けられています」


 というように答えて授業は進んでいく。


 ふむふむ、この辺りはさすがに女神の情報にはなかったな。解読制限時間は全ての術式にあるというから、これは逆に考えれば共通の弱点とも取れる。

 もし今後俺たち冒険者が何らかの理由で敵対したり、或いは魔術を使って暗躍するような者たちと対峙した時には、この解読制限時間を覚えておくと色々と有利に働きそうだ。


 こうして俺が一人でに納得している間にも、オズグリフの魔術概論の授業はどんどん進んでいく。


「さて、ここが一番問題なのですが……術式を用いる魔術には専用の道具などが必要ない代わりに、

 空気中で浮遊するマナに意識を集中させ、その魔術のイメージを頭の中で浮かべながら術式を口頭で解かなくてはなりません」


 その言葉に、教室がざわざわとざわめき始めた。恐らく魔術を今日初めて習う生徒たちのざわめきだろう。


 しかしこのことついて、実を言うと俺はある程度予想していたのでダメージは少なかった。

 何故なら、もし術式を解くために専用の道具があるならば先ほどの術式の説明時に一緒にしているだろうし、ファンタジーの世界で所謂魔法に類されるものを使うときは頭の中でイメージという方法を時々見る。今回はそのパターンだと推測したのだ。


 しかし、本当にイメージ、妄想と来たか。

 これは俺の得意分野だな。

 元一人っ子だった俺が培った逞しい妄想力、いまこそ開花させる時のようだぜ……。


 まあ、かと言って魔術の発動を簡単にできるかと聞かれれば実際やってみなくちゃ分からないが。


「うっわ……そりゃ大変だな」


 しかしそんな俺の横にも、オズグリフの言葉に驚愕を隠せないでいる人物がいた。

 そう、初対面の人間である俺に対して馴れ馴れしすぎる態度を取ってきたエリック・フレイバーという男である。


「エリック、お前も魔術初めてなのか?」

「ああ。そういうお前も初めて……の割にはあんまり驚いてないな?」

「んー……まあ、ある程度予想はしてたから」


 さすがにこの世界の住人に俺が別の世界から来たということを話すわけにはいかない。話したところでお伽噺だとか言われるだろうし、そのことを周囲に漏らされでもしたら変な噂が立ってしょうがないからな。


「すげーな、予想してたとか」

「予想してたっつっても本当にある程度だぞ?

 もし術式を解読する時に専用の道具やらが必要なら、術式の話が出た段階で説明あるだろ。それが無かったってことは、そういった道具の類を使用しない。

 そうしたら、後はこんな凄いことを実現できるのは己の妄想力、つまりイメージ力だけだって思ってな」

「ほえー……」


 妄想力……イメージを使うということは俺も別に確信があったわけじゃないので、そう胸を張れることでもない。

 それに道具に関して言えば、ただ単にオズグリフが授業の流れで言わなかっただけで、もう少し進んだところで言うつもりだった、という可能性も考えられる。


 説明を終えて俺の横で話を聞いていた茶髪の軽い男を見てみれば、呆けたような顔になって俺のことを見ていた。


「真面目に聞いてんのか?」

「聞いてる聞いてる。でも、お前頭良いんだなって」


 ……こんなことで感心されても微妙な気持ちになる。


 ――そうこうしているうちに、授業間の節目を伝える鐘の音が教室内に響き渡った。


「あら、もうこんな時間ですか。

 では、五分後から実技の授業に移ります。ああ、教室はこのままで行いますよ」


 座学の最初はクラスの自己紹介で半分以上潰れている。短くなるのも無理はないだろう。





 午前中後半の授業は、いよいよ治癒魔術の実技授業だ。

 前半同様教室最前の壇上にいるオズグリフが、クラス全員に見えるようその場から実際に治癒魔術を使ってみせる。


「…………」


 目を閉じ両手のひらで三角形を作りながら前に突き出して、マナに意識を集中させるオズグリフ。

 すると、突き出した両手に見たこともない文字が羅列された三角形の魔法陣が現れた。

 エレカが入学試験で出現させたものと形は異なるようだが、その文字の羅列はあの時と同様に鎖で縛られている。


「――――」


 それからオズグリフは呟くように何かの言葉を発した。何やらよく聞き取れないが、恐らくこの部分が"術式を解いている"タイミングなのだろう。

 そして、入学試験の時にも見た、魔法陣の形をなぞるようにして並んだ文字の羅列を縛り付ける鎖が解かれていく現象。

 まるでその文字たちを封印しているようなその鎖は、オズグリフによってその封印を次々に解いていく。


 ……と言っても解くのに掛かった時間はほんの一瞬で、鎖が解け切った後には三角形の魔法陣は消え去り、残ったのはオズグリフの手を覆う淡い白の光だった。


「――これが治癒魔術の初歩、傷を治す魔術ヒールです。イメージするのは優しく温かな白い光。

 魔術の段階としては、魔術のイメージをすることで魔法陣が出現。次にその魔法陣に記された術式を口頭で解いて、発動。といった感じです。

 この内、イメージがしっかりとできなければ術式すら出現しないことになりますが、逆にイメージさえしっかりできれば出現する術式の難易度は下がるので、多少は簡単になります」


 生徒たちからおおー、と歓声。次いで、やってみたいとの声がそこかしこから挙がった。


 こ……これが魔術! 夢にまで見たファンタジーたりえるものがいま、俺の目の前で起きている!


 いやまあそれ言ったら入学試験の時のアレももちろん魔術なんだけどね? あの時は色々凄くてそれどころじゃなかったし。


「では皆さん、手元の資料にあるヒールの術式を解きましょう」


 言われて手元の資料に目を落とす。

 術式の読み方は前半の時に一通り教わったが、やはり実際にやるとなると少々緊張する。

 とりあえずここに書いてある解き方を覚えて。……うん。ヒールは初歩の初歩だけあって覚える言葉が極端に少ないから覚えられそうだ。

 それじゃあ次に、魔法陣を出現させるためのイメージを、と。


 ……さて、イメージするのは優しく温かな白い光。白い光って言えば、深夜帯のアニメで活躍するあの謎の白い光さんとかそうだよね? それと、温かいとか優しいとか言ってたっけ。

 温かいはお風呂場を想像すればいいとして、優しい、優しいか……。

 ……そうだ! こういう時こそ我が最愛の瀬名のことを思い出すべきだな。

 ああ……あれはいつだったか。確か、俺が瀬名を意識し始めてすぐの頃だから、十五歳とかだったっけ。


 初夏の風が吹くある休日。ベランダの窓を開け、カーテン越しに降り注ぐ夏陽。

 リビングで昼寝をしていた俺の頭には、瀬名の膝。

 ああ、いまでも鮮明に覚えている。あの柔らかな太ももの感触と、髪から流れるシャンプーの香り。

 そして、俺を包み込むような瀬名の柔らかい手と、優しい温もりを……。


「――うおっ!?」


 俺が完全に過去のあのシーンへと意識を飛ばそうとしていたその時。突き出した俺の手に光が集まってくる感覚。それは仄かに温かく、まるで人のぬくもりに触れているみたいだった。


 え……出来たのこれ?


「すげえじゃん! もう出来たのかよ」


 横で俺と同じことをやっているエリックは、少し羨ましげな表情で俺の手を見ていた。それに釣られて、俺は自分の手をもう一度見てみる。

 そこには確かに、オズグリフの実演で見た白い光が俺の両手を覆っていた。確かに魔術の発動は出来ているようだ。


 ……しかし、ちょっと待ってくれ。


 俺はまだ魔術のイメージをしただけで術式の解読は行っていないはずだ。

 オズグリフも言っていたことだが、術式というのは魔術のイメージが鮮明であればあるほど簡単になる。

 だが、簡単になると言っただけで術式の解読を全てキャンセルできるとは一言も言っていないはずだ。


 しかし、現に術式の解読を行わずとも俺は魔術の発動ができてしまった。

 それは、一人っ子時代に培った俺の鮮明すぎる妄想力のおかげ?

 これはひょっとすると……ひょっとするのかもしれないぞ。


「俺、中々イメージができなくてさー。何かコツ、教えてくれよ」

「ったく、しょうがないな……」


 俺は仕方なく、エリックにイメージのコツを伝授した。

 とは言っても俺がやったことをそのまま教えても意味はないので、本当にイメージをする時のコツなんかを教えてやった。

 エリックはその後すぐに自分の魔術の特訓に入ってくれたので、俺もすぐさま先ほどの現象を検証してみることにした。


 ――結論から言えば、やはり俺は魔術を術式の解読無しで発動可能ということが分かってしまった。


 最初に行ったヒールを十回程度試し、その内数回、敢えてイメージを膨らませずにやってみた。

 するとどうだろうか。イメージをしなかった数回の時は、もれなく術式の解読をしなければならなかったのに対し、残りの回は全て解読をキャンセルすることができたのである。


 やはり、俺はこの類稀なる妄想力のおかげでとてつもない能力を得てしまったのかもしれない。

 となると、残りはまだ試していない治癒魔術や、属性魔術。それに、高位の魔術にはどれほどまで自分の妄想力が通用するのだろうかという好奇心にも似た疑問がふつふつと沸き上がってくる。

 ――そうだ、この能力の名は『解読キャンセル』としよう。自分の中でだけでも名前を決めておかないと呼びづらいからな。


 とここで一旦集中力を途切れさせた俺は、俺を見つめてくる視線"たち"に気が付いて顔を上げた。


「……な、ナニコレ?」


 顔を上げたそこには、俺を囲むようにして十数人の人間が所狭しと集っていた。

 しかもその全員が、このクラスの女生徒である。

 それぞれが、違うことなく俺に向かって熱い眼差しを向けている。


 ……しかし最初はその数の多さに少し驚いたものだが、よくよく考えてみれば一つの答えに行き着くではないか。


「ねえ君さ、確か……セツヤ君って言ったよね?」


 大量に群がる女生徒の中の一人が、勇気を振り絞るようにして俺に向かって声を掛けてくる。

 ――その表情はどこか恍惚と潤んでいた。


 ……ふふふ、つまりそういうことだろう。

 分かっていた。分かっていたぞ!

 とうとうキタ! 俺の時代が!!


「――ああ、そうだ。俺がセツヤだ」


 俺は声を掛けてきた女生徒に対し、可能な限りのかっこいい声と店の窓ガラスで習得した最もイケメンに見える角度で答えた。

 すると女生徒はすぐさま後方の友人たちの下へ行き、


『あの子、自己紹介の時とは全然違う~!』

『でもでも、そのギャップがまたそそる~! 何か目力っていうかさ、そういうのがある気もするし~』

『ダメ、もうあたし、あの子無しじゃ生きて行けないかもっ……』


 数人の女生徒たちは、やんややんやと騒ぐ。


 ……ふはは、そうだろうそうだろう!

 俺はこの世界じゃさぞかしイケメンだからなぁ!


「セ、セツヤ君……。その、私たち、魔術の発動が上手くいかなくて……。良かったら教えてくれないかな……?」


 服の裾をきゅっと掴み、照れた表情で上目遣いにそう言ってくる女生徒。

 この問いを投げかけてくるということは、俺の素早い魔術の発動を見てやってきたということだろう。


 ……うひょー! 一度は体験してみたかったこの状況!

 ぐへへ、このままあらゆる女生徒を落としに落として、学院中を俺のハーレム天国に…………


「分かった。それじゃあまずは――」


 そして、俺がいままさに女生徒たちに対して魔術発動の教鞭を執ろうとした、その時だった。


「――いったい何なんだ、この人だかりは」


 この人ごみの中、やたらと通る低く凛々しい声音。

 まるで同い年とは思えないような自信に満ち溢れたその声は、あらゆる雑音に掻き消されることなく、人々の耳に届く。

 その声に、俺について騒いでいた女生徒たちの意識が一気に向いた。


 一歩、また一歩と、俺の周囲に集まった女生徒たちに物怖じすることなく歩みを進める人物。白い生地に黄色いラインが入った簡素なデザインの学院制定服ですら、この人物が着るとさまになってしまうのはさすがと言えるのか。


 ――そうして俺の前に悠然と姿を現したのは、容姿端麗の金髪美少女、エレカ・アントマーだった。


「な、何でお前まで……!」


 エ、エレカてめええ! なんっつータイミングで来やがるんだ!

 俺はいま、転生後最大にイケメンとしての恩恵を受けようとしていたところなんだぞ! これからたくさんの女の子に囲まれて、キャッキャウフフな時間を堪能する直前だったんだぞ!


 思わぬ人物の登場で開いた口が塞がらない俺に対し、エレカは腰に手をあてながら俺を見下ろして言う。


「いやなに、お前が魔術に苦戦してるだろうと思ってな。

 わざわざ教えに来てやったのだ」


 ドヤ顔で言ってきた。物凄いドヤ顔で言ってきたぞこいつ。

 だが残念なことに、どうやら俺は魔術の発動に関してはチートレベルらしいんでな。お前の手助けなぞいらん。


 それよりも早く自分の席に戻ってくれ。そうじゃないと俺に惚れた彼女たちの相手をできなくなって…………


「え……?」


 俺は、エレカ越しに先ほどの女生徒たちを見て目を疑った。


 いままで俺のことを恍惚の表情で見つめていたのが一変、まるで目障りな蟲を見るような、そして蔑むような目をしていたからだ。

 それは俺に対して向けられた視線ではなく、その手前、エレカに対しての目だった。

 エレカは当然だがその目線に気付いている様子も無い。女性徒たちは、エレカが俺のことを見ていて気付いていないことをいいことに、エレカの背中を邪魔者を見る目で全員で睨み付けているのだ。


「……おい、どうした?」


 エレカが、俺の顔を覗き込むようにして問いてくる。

 どうやら、黙ってしまった俺を心配しているようだ。


「い、いや、別になんでもない……」


 俺はつとめて平静を装い返事をする。

 思わぬ事態に、心なしか若干動揺している。が、それをエレカに悟られるのは色々と面倒なのでここは何とか耐えしのぐ。


「そうか、平気ならそれはそれでいいんだが……

 そういえば、さっきまでここにいた彼女らは席へ戻ったのか?」


 エレカの言葉でふと気付く。

 見ればさっきまでエレカを睨み付けていた女性徒たちは、いつの間にかこの場から姿を消して各々の自席へと戻っていた。

 彼女たちはあの恐ろしいまでの眼差しをしていた人物と同一人物とは思えないほどに、友人たちと笑いながら接している。


 ……何か、人の中の闇を見た気がするんですけど。


 俺の頭の中は、解読キャンセルと女生徒たちのあの目のことでいっぱいいっぱいだった。エレカの「席へ戻ったのか?」という何の変哲もない問にすら答える思考能力を残していないほどに。


 しかしそんな俺の埋め尽くされた思考をぶち破るような発言をする男が、俺の隣にはいたのだった。


「――そんなことよりさ、君、エレカちゃんだっけ。

 こいつとどんな関係なの?」


 と、横で魔術の発動に専念していたはずのエリックがとんでもない爆弾を引っ提げて声を掛けてきたのである。

 あまりの爆弾に、俺は反応せざるを得ない。


「おいてめ! 何言ってんだ!」

「落ち着けっての。

 せっかく当人がいるんだし、聞いちまった方が早いだろ?」


 な? とサムズアップするエリック。な? じゃねえよ、な? じゃ。

 いやつーかまずいだろこの流れ!

 絶対止める!!


「何だ、私とセツヤの関係を知りたいのか?」

「だぁーっ!

 そ、そ、そ、そうだ! エリック、魔術の発動が上手くいかないんなら、こいつに教えてもらったらどうだっ!?

 魔術に関してなら信用してもいいぞ!」

「ええ?」


 俺の死に物狂いの説得に苦笑いしながら首をかしげるエリック。

 しかし差し出されることとなったエレカは、喜々として話の方向性を変えてくれた。


「何だ、エリック。お前、魔術の発動が上手くいかないのか?」


 これはチャンスだ! この恐ろしい話題をいち早く変えるには、このチャンスを逃してはならない!


「そうなんだよ! エリックのやつ、どうやら魔術のイメージが中々上手くいかないようでさ! エレカ、ちょっと見てやってくれないか?」

「ほう、そういうことなら私の出番だな」


 俺は全力でエリックがどんなことで詰まっているのかをエレカに熱弁した。

 その甲斐あってか、エリックはエレカの魔術指導を受けることとなった。

 エレカは人に魔術を教えることがそんなに嬉しいのか、喜々としてエリックの指導に当たった。

 エリックもエリックでどうやらエレカほどの美人の指導を断るに断れないようで、俺のことを若干睨みつつもエレカの指導を受けていた。


 ……ふう、これで一難去ったか……。ちょいと汗を掻いちまったぜ。

 …………つーか何で俺、あんなに必死だったんだろ? 別にエレカとやましいことなんて一つもないはずなのにな……。

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