変態と少年の訓練終了
「せいっ!」
訓練場に、土塊の衝突音が鳴り響く。
「ふむ、一応全ての属性は使えるようになったが、やはりラントは土系魔術の腕が飛び抜けていいな」
「あ、ありがとうございます、エレカ先輩!」
ラントの放課後訓練が始まって約一週間が経過した。
アミルが組んできた練習メニューは割とハードだったが、ラントは何とか必死に着いて行き、いよいよ最終日を迎えた。
「何度かやった僕らとの模擬戦も、最初の頃と比べれば本当に成長したと思うよ」
「うんうん、ラントは物覚えがいいから教えやすかったヨ!」
「確かに。ラントくん、私が教えた治癒魔術、結構な数あったはずなのにすぐ覚えっちゃってたし」
アレンとネロ、そしてジェシカが揃って言う。
まあ、確かに傍から見てた俺でも、ラントの吸収力は凄かったと思えるな。
……まさか、本当に一週間まるまる見てるだけになるとは思わなかったけど。
「え、えっと……」
ベタ褒めされてどう反応していいか分からない様子のラント。頬をほんのり赤く染めて、恥ずかしいような嬉しいような、羞恥と歓喜が入り混じって変な表情のまま頬をポリポリと掻いている。
ハーレムにショタがいても問題はないですよね!?
「コホン……あー、まあ、なんだ。用事があるって言って出て行ったサラがまだ戻ってこないんだが……誰か何か聞いてないのか?」
俺は目の前の九歳男子による思わぬ精神攻撃から逃げるべく、話題を切り替えることにした。
つい数十分前に、サラが突然『ちょっと用事があるんだった』と言って出て行ったきり、戻る気配がない。
「聞いてないな」
「聞いてないね」
「聞いてないかなぁ」
「聞いてないヨー」
「聞いてない……ですね」
5人揃って回答が一致した。当然俺も聞いていない。
別にこのままサラを無視して帰ることもやぶさかではないが、この一週間、サラはこの訓練場の手配をし続けていてくれたり、俺たちの訓練の監督をしてくれていた。
訓練場は本来、全生徒が使用可能な公共施設であるため、放課後の少しの時間とはいえ、一週間もの間貸出許可を貰い続けることはきっと大変だっただろう。
なので、終わる時はサラがいるときにしてやりたい、それが俺たち全員の意見でもあった。
「待たせたわね!」
そんな時、訓練場の入口が大きく開かれた。
現れたのは、今しがた話題に上っていた人物、サラ・クリスメイスだった。
「どこ行ってたんだ」
「ちょっとね。まさかこのタイミングでとは思わなかったけど」
「このタイミング……?」
俺は首をかしげる。
それとは対照的に、エレカが合点がいったように言葉を発した。
「もしかして、転入生か?」
「ご名答」
「てことは、ウチと同じだ!」
転入生。そう言えば、ネロも今年入ってきた転入生だということを今更ながらに思い出した。
彼女のスキンシップ能力が高すぎるせいで、俺たちの中にすんなりと混じっていたので、正直忘れていた。
アレンが問う。
「その転入生、2年なんですか?」
「いいえ、1年よ」
じゃあ、ラントやミルと同じ学年か。
しかし、この時期に転入とは。ネロは俺たちが2年に上がると同時に転入してきたため疑問など持たなかったが、1年のうち半分が過ぎたというこんな中途半端な時期に転入してくるのは、おそらく珍しいことだろう。
「クラスとかって、分かりますか?」
ラントがサラに聞いた。
まあ、そりゃ気になるだろう。
「クラスは、ラントやミルと同じバオリック教官のクラスB組よ」
「同じなんですね……どんな人なんだろう」
ラントからしてみれば、転入生であろうとおそらくはみんな年上になる。
俺たちと一週間関わってみて、なにか思う所があるのかもしれない。
「ま、いずれにせよすぐに紹介することになるわ。……じゃ、もうあなたたちの用事は終わりでしょ? 今日は訓練場、後がつかえてるからさっさと帰る準備しちゃいなさい」
サラに言われ、各々模擬武器などを仕舞い始める。
それから、サプライズ的にサラに感謝の言葉を告げ、彼女が訳も分からずポカンとしている姿を見ながら、俺たちは訓練場を後にするのだった。




