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変態と少女のおせっかい

「ただいまー」


 ラントが食堂を出て行ったあと、残された俺たちも早々に解散した。

 俺とジェシカは同じルームメイトなので、食堂で夕飯の材料を調達してから帰路に着いた。

 ジェシカは部屋の扉を開けると、誰もいない部屋に向かって帰宅の挨拶を告げる。


「誰もいないけどな」

「癖になっちゃってるんだ」


 俺の皮肉を華麗にスルーし、食材が入った袋を抱えたままキッチンへと入る。どうやらジェシカは俺の扱いに慣れてきたらしい。尻に敷かれるのも時間の問題ですねこれ。


「すぐ作っちゃうねー」


 キッチンからジェシカのふわりとした声が聞こえてくる。俺はその声に「おう」とだけ短く返して、リビングに足を運んだ。

 二人部屋にしては結構余裕のあるこの部屋は、学院長ケリスの言葉を借りるなら"当たり部屋"らしい。

 広さ十分、日当たり良好、さらに角部屋とまで来た。寮の部屋割り振りは男女を分けた完全ランダムなため、ジェシカは相当な幸運の持ち主であると言うことになる。


「おまたせー」


 そう改めてジェシカと一緒に入れることのありがたさを身にしみて感じていると、キッチンから料理を持ったジェシカが出てきた。

 いい匂いがする。俺は椅子に座ると、テーブルに広げられた彼女の手料理に舌鼓を打つ。


「……ねぇ、セツヤくん」

「うん?」


 突然、ジェシカが思いつめたような表情で俺に話しかけてきた。何事かと食べる手を休めると、ジェシカは非常に言い辛そうにしている。


「どうした?」


 俺が促すと、ジェシカはうんとひとつ頷いて、顔を上げた。


「ラントくんの話、どう思った?」

「どう思ったって……」


 ジェシカに問われて、少し考えてみる。

 ……まあ、幼馴染を守りたいというラントの気持ちは分からなくもない。俺に幼馴染が居たわけではないが、周りが自分を嫌う中で、身近な存在が唯一自分を否定しなかったのは、彼の心の拠り所でもあったのだろう。

 と言っても、ジェシカの問いがそもそも抽象的すぎるため思いつくのはそれくらいだ。一体、なぜそんなことを聞いてきたのだろう。俺はジェシカに問い返してみた。

 すると、


「私、勝手かもしれないけど……ラントくんとミルちゃん、あの二人の力になってあげたいの」


 これまた、唐突な返しだった。というか、全く予想していなかった。

 力になる。それもまた、抽象的すぎて、俺には首をかしげてしまう。


「それは、ラントの"強くなる"って目標に手助けをするってことか?」

「……うん」


 ジェシカは俺の問いに対して少しの間を置いたが、しだい頷いた。


「具体的にはどうするつもりなんだ」

「例えば……治癒魔術を教えるとか。私、治癒魔術にだけは自信があるから、それなら教えられると思うし」


 確かに、ジェシカの優秀な治癒魔術をラントに伝授することができれば、ミルを"守る"という彼の目的達成に大いに役立つことだろう。


「……それなら、エレカにも手伝ってもらったほうがいいな。あとアレンとネロにも。エリックあたりにも相談すれば、力になってくれるかもしれない」


 その辺りに手伝ってもらえれば、治癒魔術だけでなく、戦闘面の部分もカバーできるだろう。とくにエレカは戦闘面だけは優秀な人間だ。間違いなくラントにとってプラスになる。


「セツヤくん……」


 気づけば、ジェシカは俺の顔を呆気に取られて見ていた。


「もしかして、手伝ってくれるの?」

「何言ってるんだ。そのために、俺に今相談したんだろ? 俺はこういうの、断れないタイプでね」


 と言ったものの、正直俺自身も少しあの二人のことが気になっていた。

 それはジェシカのような意味でもあるが、それ以外でも。

 でもまぁ、それ以外の部分はまだそこまで気にすることじゃない。それに、確証だってないんだから。


「ありがとう、セツヤくんっ!」


 弾けるような笑顔を見せるジェシカを前にして、俺は思った。


 ――俺たち、いいおせっかい焼きなのかもしれないな。

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