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変態と少年少女の過去

「もう、そういうことならそうと言ってよね、セツヤ!」

「言ったら意味ないだろ!」


 それから五分ほどしたあと、食堂を出て行ったネロとジェシカが戻ってきた。

 どうやら事情を察したジェシカに戻ろうと言われたらしく、ネロは最後まで俺の作戦に気付かなかったそうだ。


「ホントにセツヤが、その、変な話を……すると思って……」


 顔をりんごみたいに赤くして、ネロがうつむきがちにそう言った。おいやめろ。そんな感じで言われたらそんな感じが辺りに漂ってそういう感じになっちゃうだろうが。


「はいはい。そんなわけの分からないこと言ってないで、アルグリス君から話を聴こうよ」


 アレンが手を叩いて全員の意識を集中させる。そうだった、危うく忘れるところだったぜ。

 ラントはあははと苦笑いを浮かべて、それから申し訳なさそうに言った。


「えっと……ごめんなさい。こちらの事情なのに」

「大丈夫だよ。人間誰でも一つや二つくらいは言い辛いことを持っているものだからね」

「ありがとうございます」


 アレンに言われ、ラントは苦笑いでない笑みを顔に刻んだ。それからポツポツと、胸の内に秘めていたであろう誰にも言い出せなかったことを語りだす。


「僕とミルは、幼い頃からずっと一緒でした」


 二人の出身地は、五大都市の一つであるリザガリア。この国クリムゼルの西方にあるリザガリアは別名鉱山都市とも呼ばれており、良質な鉱物がたくさん採れることで有名だ。

 そんな都市に生まれた幼馴染の二人は、家族絡みの交流もあってか、生まれた時から今までほとんどの時間を共に過ごしてきたという。

 ラントには、生まれつきから魔術の才があった。それに気付いたのは物心付いてすぐだったが、その才能に関して彼は特に興味を示さなかった。

 ただ今から3年前。6歳の時に、ある出来事が起きた。

 生まれつき魔術の才があったラントに対して、ミルは生まれつき身体が相当に弱かった。それが原因で、周りの子供たちにからかわれていたりもした。

 そしてそのからかいは、ある日を境に激化した。

 今まで口でしか言ってこなかった連中が、とうとう手を出し始めたのだ。ラントは耐えられなかった。自分の幼馴染が虐げられることに。そしてラントは、初めて"人を傷付けた"。

 ほぼ無意識的に身体から放たれた無数の魔術はミルをいじめていた子供たちに制裁を与え、そして恐怖を植え付けさせた。


「でも、ミルだけは変わらなかった」


 ラントはそう続けた。彼の圧倒的で恐ろしいまでの魔術の才に怯えた周囲とは違い、ミルだけは、彼に対する態度を変えなかったという。

 そしていつしか、ラントは自分の魔術を、"ミルのために使う"ことを決意した。そのためにこのケルティック学院の存在を知り、入ろうと決めた。

 ミルを守る力をさらに付けるために。冒険者になるつもりはない。ただ、彼女を守る力が欲しいがために。


「それじゃあ、なんでミルがここにいるんだ? 身体が弱いんだろ?」


 そこまで聞いたところで、俺はラントにそう質問をした。


「一緒に行くってきかなかったんです。もう本当にしつこくて。でもミルの身体は成長するごとに良くなっていたので、"一つの条件"を付けて、付いて来てもらうことにしたんです」

「条件?」


 ラントの顔にほんの一瞬、影が落ちた。それは注意深く見ていなければ絶対に気付かないようなもので、すぐ元に戻る。

 誰も気付くことのない、一瞬の間。その間に、彼は何を思ったのか、それは本人しか知る由はない。


「"決して戦わないこと"。それが条件です」

「戦わないだって……?」


 つまりそれは、ほぼラント一人ですべての戦いに立ち向かうということにほかならなかった。

 いや、それだけではない。一緒に付いて来てくれたミルの価値を、否定することにもなりかねない。


「いくら身体が強くなったとはいっても、やっぱり僕にはあの子を戦わせる気にはなれないんです。戦うのは僕だけでいい。ミルはそばにいてくれるだけで。それだけで」

「入試もお前一人で戦ったのか?」

「はい。ミルには僕の後ろから離れないようにだけしてもらって」

「そうか……」


 俺はそれ以上何も聞けなかった。

 ラントから話を聞けば聞くほど、俺の心は締め付けられていたから。

 痛いほどに、ミルの心の内を理解できてしまいそうだったから。


「……僕、そろそろミルのところに戻りますね」

「すまないな、時間を取らせてしまって」


 エレカの言葉に対して「僕の方こそごめんなさい」そう残して、ラントは食堂を出て行った。

 その後ろ姿には、歳相応でない"想いと決意"がのしかかっているようにも見えた。

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