変態と強行手段
――翌日。夕方五時頃。
「さぁ、話してもらうわよ」
授業や模擬戦終わりの学生で賑わう食堂の一角で、一人の少女が机に身を乗り出して対面の少年へと詰め寄っていた。
少女の名前は、ミル・エステミア。対面で困ったように目線をさまよわせる少年は、ラント・アルグリス。
どちらもこのケルティック学院の一年生で、加えてパーティメンバー同士であるという。
「えっと、まずはどこから話せばいいか……」
「最初から。全部」
ミルの肩まで伸びた茶髪がさっと揺れた。ラントは観念したように、はぁと溜め息を吐く。
「僕は、アントマー先輩とずっと戦いたいと思っていたんだ。だから、今日、無理を言って模擬戦を申し込んだ」
しかしラントはそう言ったきり、口を開こうとしなかった。待てども待てども話そうとしない。やがて、しびれを切らしたミルが問いた。
「それで、私をそこに呼ばなかったわけは?」
「……」
ラントは、答えようとしなかった。……いや、まるで"答えることが出来ない"ような様子でもあった。
それに気付いてか気付かないでか、エレカが言った。
「……ラント。お前、この少女を巻き込みたくなかったんだな?」
「え?」
その言葉に、俺はつい素っ頓狂な声を上げてしまった。
巻き込む? 単なる模擬戦だというのに、パーティメンバーである彼女を巻き込むことに負い目を感じる必要があるのだろうか。
確かにラントの『エレカと戦いたい』という思いは完全に私情から来るものだが、そもそもが不利な戦いなのだ。ラントは勝とうとしていたし、それならわざわざ一人で挑んでくることもないだろう。
ミルの方に外せない用事があったなら、ミル自身がここまでこの話題に固執するのも少し変だ。
なら、あと考えられるのは……。
そこまで考えが至ったところで、俺はラントのさまよった視線がミルの方へ向いたのを目撃した。
「そうなの? ラント」
そう問いかけるミルは、一瞬だけ向けられたラントの視線に気付いている様子もない。あのラントの目には、間違いなく意味があった。なんとなくで向けられた視線ではないと、俺はどこかで確信していた。
もう彼女から視線を外したラントは、その顔に渋面を刻んでいる。どうにも、答えてくれる様子ではない。やっぱりそうだ。ラントがミルの問いに答えられない理由は、"ミル自身にある"。
「ねえ、ラントったら。聞いて――」
「ちょっと待て」
さらに問い詰めようとしたミルを、俺は静止させた。怪訝な顔をこちらに向けてくる。だがそんなことには構わず、俺は続けて口を開いた。
「ミル。ここは一旦、食堂から出て行ってくれないか」
「はぁ?」
明らかな嫌悪感を示しながら、ミルは乱暴に言った。その声は少し大きくて、周囲の数人が俺たちの方を向く。
「なんで私が」
「そ、そうだよセツヤくん」
「どうしちゃったの、セツヤ」
睨むように俺を見据えるミルに続いて、ジェシカとネロもあちら側に回った。どうやらこの二人もまだ気付いていないらしい。
だが、これ以上この状況が続いてもラントは口を開かないだろうし、埓があかない。
ここは少し、強引な方法を取るとしよう。
「……俺たちはこれから、とてつもなく"如何わしい話題"をする。それはもう、女の子には聞かせられないくらいの。男には、無性にそういう話をしたい時ってのがあるもんなんだ。……ラントだって、君のパーティメンバーである前に一人の男。つまり今がその時なわけで、そのためにはミル、君がいると――」
「――最っっっっ低!!!!」
顔を真っ赤にし、肩をわなわなと震わせてミルは叫んだ。今度こそ食堂のほとんどの人が俺たちの方を向く。
「ラント、そんなことを考えて……っ!」
ミルは言うが、ラントの視線は、俺の方を向いていた。驚きに目を見開いている。
しかし次の瞬間、聞こえる予定でなかった者の声が聞こえた。
「セ、セツヤ……っ!? そんなことを考えて……えぇっ!?」
「ネ、ネロ?」
顔を真っ赤にするミルの横で、同じくネロも、何故か顔を赤くしていた。
……いやまて、なんでお前までこの手に引っかかってんだよ。本末転倒なんですけど。
「セツヤ、キミがそういう人間だったなんて、ウチはショックだよ! ……ジェシカ、ミル、行こう!」
「えっ、ネロちゃん……ちょっと、引っ張らないで~」
「わぁっ! ちょっと……!」
ぷんすかと肩を揺らしながら、ネロは戸惑うジェシカとミルを連れて食堂をそのまま去っていってしまった。
……結果的にはミルをこの場から離すことが出来たが、出ていかなくていい奴らまで行っちまったよ。




