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変態と少年 決着

 ラント声が訓練場内に響いた瞬間、強烈な地鳴りが館内を襲った。おかげで体制が崩れそうになる。

 揺れの中、何とか体勢を立て直して顔を上げると、そこには、訓練場の戦うスペースの半分ほどを埋め尽くしてしまうような巨大な"城"が顕現していた。


「城だと……?」


 最前線にいたエレカが驚きの声を上げる。推定の高さは数十メートル。幅は観客席の柵ギリギリの長さで、その左右端には円筒形で先端がドリルのように尖って回転している物体がそれぞれ一つずつあった。円筒形とドリルの境目は紫色に輝いている。

 そしてそんな城の頂上に、ラント・アルグリスはいた。


「どうですか? これが僕のオリジナル……()()()()絶壁なる守護の城キャッスル・オヴ・ガーディアンです……っ!」


 ラントは城の頂上から俺たちを見下ろしながらそう言った。

 ……待て。彼は今、何と言った? ()()()()だと? そんなもの、少なくとも俺は聞いたことがない。

 周りを見渡してみる。ネロ、ジェシカ、アレン、そして俺に強化魔術を教えてくれたエレカでさえも、ラントの言った魔術を知らないようだった。

 すると、


「さあ、行きますよ。……来て、ナイト・ゴーレム!」


 ラントの言葉に応じるかのように、左右端にあった円筒形物体のドリル部分が急速に回転を始めた。何が起こるのかと俺たち全員が身構えていると、城と俺たちの間に、紫色の魔法陣が二つ現れた。

 魔法陣は、その力を封印する鎖を解いていく。ガシャンガシャンと金属の擦れる音が館内に響き渡る。

 そして、次の瞬間。


 俺たちの目の前に、"鎧を纏った騎士のような石人形(ゴーレム)"が姿を現したのだった。


「今度はそう簡単に行きませんよ」


 不敵に笑ったラントは、小さくそう言うのだった。





 ラントが呼び出したナイト・ゴーレムは、身体に濃い紫の鎧、左手に盾、右手に剣を持っていた。右手の剣が振り下ろされる度、強い衝撃派が周囲をなぎ払う。このまま戦いを続けていたら、いつか訓練場自体が倒壊してしまうのではないかと思うほどだった。

 ナイト・ゴーレムの強さは、後方からラント自身の一年生とは思えないくらいの強力な土系魔術飛んできているというのもあるが、通常のゴーレムと比較にならないほど強く、俺アレンネロで二体のうち一体を相手にしているものの、まともなダメージは見られない。

 流石にこれじゃあのエレカでも苦戦くらいはするだろう、復帰明けだし……と、ちらりと横の様子を伺ってみる。エレカは二体のナイト・ゴーレムが現れるやいなや、一人で真っ先に片方に突っ込んでいた。

 ……しかし。


「……ふむ。肉体の強度と鎧の装甲の厚さは見事なものだ。跳躍力も申し分ないし、剣の一撃もまともに当たればタダでは済まないな。しかし、小回りが利きにくいのが難点だな。懐に潜られると……あっさりと落ちる」


 エレカはブツブツと、ナイト・ゴーレムを前にして独り言を言っていた。しかしそれは、エレカの癖でもあった。ハリアブルーで戦ったモンスターとの戦闘でも、彼女はああして"敵の動きを分析"しつつ戦っていた。

 現にエレカは独り言を言いながらも敵の攻撃を要所要所で避け、適宜受け流し、隙を見ては一撃入れる、ということを繰り返していた。

 実際に今、ナイト・ゴーレムの脇腹に潜り込んだエレカのレイピアがヒットした。強烈な刺突を受けたナイト・ゴーレムは、その地に這ったように動かない足をよろめかせ、一歩後退した。


「――っ! セツヤ、上!」


 アレンの叫びに、俺は咄嗟に上を見た。上空から巨大な剣が空気ごと押しつぶすようにして俺に迫ってきていた。即座に強化魔術で足を強化し、横へ飛ぶ。


「あっぶねぇ……すまん、アレン」

「いいよ。エレカのこと、気になってたんでしょ?」


 お見通しであった。

 しかし、流石に戦いの最中で意識を別の方へと向けるのは言語道断だと自分でもよくわかっている。それに、仲間の勝利を信じて目の前のことに集中するのが、チームというものだろう。

 俺はすぐに体勢を立て直し、目の前のナイト・ゴーレムを倒すことだけを考える。幸い後方からいやらしいタイミングで飛んできていたラントの土系魔術はその鳴りを潜めていた。恐らく、エレカが想像以上に苦戦していないことに焦り、そちらに全て注力しているからだ。


 それから戦いはさらに進行し、すぐにエレカは対峙していたナイト・ゴーレムを戦闘不能に追いやった。しかし、これで終わりではなかった。ラントはさらにナイト・ゴーレムを二体、投入してくる。


 だがこれも、ナイト・ゴーレムの癖や特徴、弱点を把握したエレカによって瞬殺されていた。エレカが合計三体のナイト・ゴーレムを倒した辺りで、ようやく俺たちの目の前で暴れていたナイト・ゴーレムも沈んだのだった。


「そ、そんな……」


 ラントは顔面蒼白状態だった。膝をかっくりと折って項垂れている。


「アントマー先輩たちは、やっぱり強い。僕なんかじゃかないっこないですよね。……でも」


 ラントは顔をぐっと上げる。その顔には決意を決めた男の顔があった。


「前門、開口!」


 ガシャンガシャンと、再び訓練場内に金属音が響き渡る。しかし今度のそれは魔術の鎖が解ける音ではなく――城に取り付けられた、計三門の砲塔が、俺たちに向いた音だった。


「アントマー先輩……僕の全力を、受け止めてください!」

「……いいだろう」


 準備を終えた砲塔から、一発の砲弾が射出される。魔術で生み出した砲弾だろうか、実物のそれとはどこか違う雰囲気を持っていた。

 エレカはそれに対し焦ることもなく、レイピアを構え、砲弾に向かって跳躍した。――そして。


 射出された巨大な砲弾を、真っ二つにしてみせた。


 斬られた砲弾はやはり魔術でできたものなのか、爆発することはせず、失速しながら後方へと飛んでいき、地面に落ちる前に消滅した。

 続いて二、三発目と放たれる。しかしそれらすらもエレカは斬り倒してみせた。

 エレカは砲弾を斬るたびに、それを足場にして少しずつ前へと進む。三発、四発、五発、そして六発と全ての砲弾を受け斬ったあと。


「――私の勝ちだ」

「………………はい」


 城の頂上にたどり着いたエレカは、ラントの首筋に、剣先を突き立てた。

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