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変態と少年 戦闘

「さぁ~、試合を始めるわよ~」

「……何でサラが嬉しそうなんだ」


 俺は、ウキウキと審判を務めると言いだしたサラに向かってジト目で突っ込んだ。

 試合は、俺たちパーティ全員と、なんと目の前の一年生たった一人、という内訳だった。

 しかしこれは一年生――ラント・アルグリスからの要望だったらしく、何故かそれをサラは反対しなかったようだ。

 サラは今年も例外なく、一年生の合宿に趣いていたという。彼女は何か、ラントの秘密を知っているのではないだろうか。


「だって、こんな贅沢なマッチングが生で見れるのよ? 興奮するしかないじゃない!」

「はぁ……。何だかよくわからんが、とりあえず、やるんだろ?」

「ええ。……あんたたち、準備はいい?」


 サラは大きな声で訓練場内にいる人間に呼びかけた。

 俺、エレカ、ジェシカ、アレン、ネロ、そして、ラント。

 それぞれ既に武器を展開し終え、万全の体制だ。

 エレカが筆頭するかのように一番前に立ち、その右後ろに俺、その後ろでアレンとネロが互いをカバーし合える位置に適当に陣取り、一番後ろのしんがりをジェシカが務める、といった陣形になっている。

 個々の特徴を加味した上で、俺とアレンが考え付いた陣形だった。恐らくこれからパーティ戦をする時は、もれなくこの陣形になるだろう。


「ああ、いつでも構わんぞ」

「よし、それじゃあ――――始めっ!」


 サラの声で試合が始まる。

 声と同時に勢いよく飛び出したのは、エレカだ。迷うことなく一直線に、ラントへと飛び込む。

 それに対しラントは意外にも落ち着いた様子を見せ、戦う前までのおどおどとした感じは全く見て取れない。


「はぁっ!」


 間合いに入ったエレカが、勢いよくレイピアを突き出す。刺突に特化した糸のように細いレイピアは、狙った箇所を一ミリのズレもなく捉え狙う。

 しかしその瞬間、エレカの動きが変わった。


「ちっ……」


 舌打ちをしながら横へと飛ぶ。すると数瞬後、そこに小さな石の塊が飛来した。

 飛来した石は小さいながらも地面を抉るほどの威力を持っていて、土煙が多少立った。


「流石ですね、アントマー先輩。それじゃあ……」


 ゆらり。

 エレカの頭上――いや、"俺たち全員の頭上"に、黒い影が伸びた。

 それは訓練場のライトを覆い隠し、まるで夜のように辺りを暗くさせた。

 一体、なんの影が――


「なっ……!」


 そう思って顔を上げた瞬間、俺の視界に、"とてつもなく巨大な土の塊"が入った。

 ……いや、土の塊などではない。

 それは、巨大な手と足を生やし、まるで人間のような形の胴を持つ――


石人形(ゴーレム)だって……!?」


 背後のアレンが、息を呑むようにしてそう言った。

 ゴーレム。ゲームやファンタジーの世界でも度々と出てくる、土や岩などで身体を構成した巨人。

 意思を持ち、その強固たる腕足で敵対者をいとも簡単に潰す、強力な生物。

 それが今、俺たちの目の前――そして、まるでラントを守るかのようにして、彼の目の前に君臨していた。


「先輩たち……僕は、負ける気はありませんよ」


 ゴーレムの背後から、ラントの双眸が獰猛に覗いた。





「ゴ、ゴーレム……」


 目の前に悠々と立ち塞がり、背後のラントを守ろうと両手を広げる、石人形ゴーレム。

 その巨大さは圧巻の一言であり、数々の岩で構成された身体の頂点に置かれた顔から覗くのは、二つの青い瞳。それらが、俺たちの姿をしっかりと捉えていた。


「は、初めて見たヨ……」

「か、勝てるのかな……」


 ネロはゴーレムを初めて見るのか、溜め息とともに言葉を吐き出し、ジェシカはその強大さに怯えてしまっているようだ。

 かくいう俺も流石に本物を見るのは初めてで、若干手足が震えていた。


「どうですか、驚きました? これが僕の得意技――」

「――ふん、こんなもの、ただの虚仮威しに過ぎないな」

「え――」


 瞬間、ゴーレムは体幹を崩し、地に膝をついた。

 全長十メートルはありそうなその巨体が、訓練場を揺らす。


 エレカだ。エレカが、ゴーレムの体幹を崩してみせたのだ。

 息一つ乱さず、すました顔のまま、ラントと自分の間に立ち塞がったゴーレムに対して攻撃を入れ続けている。


「ゴ、ゴーレム! アントマー先輩を攻撃して!」


 慌てたラントがゴーレムに指示を出す。

 指示を受けたゴーレムはエレカから攻撃を受けている最中だというのに、素早く体制を立て直すと、足元のエレカに向かって巨大な右腕を振り下ろした。

 しかし――


「遅いな」

「そ、そんな……っ!」


 ゴーレムの一撃は、エレカのレイピアの剣先によて、軽々しく受け止められていた。

 まるで重みを感じさせないその受け止め方は、ラントの目を大きく見開かせた。


「ふふっ、エレカらしいね」

「そう来なくっちゃネー!」


 動きの止まったゴーレムを見たアレンとネロは、素早く俺の横を駆け抜ける。

 そしてあっという間にゴーレムの下までたどり着くと、エレカに加勢を掛けた。


「はぁ……俺も行くとするか」


 俺も二人に続いて、身体を強化魔術で強化し、突撃する。

 ゴーレムは俺たちの攻撃を受けながらも、スキを見て反撃してくる。

 しかし身体が大きいからか、それとも身体が岩で出来ていて硬いからか、攻撃の速度はそこまで早くないため、予備動作さえきっちり見極めれば避けることはそう難しくなかった。

 それでもエレカやアレン、ネロはともかく、まだ戦闘経験の浅い俺は時折攻撃を受けてしまう。しかしそれは、後方にいるジェシカが素早く癒してくれた。俺たちの連携力は、間違いなく上がっていた。


「くぅ……!」


 追い詰められていくゴーレムを見て、ラントが苦しい顔をする。

 右手に持った模擬武器の杖を握り締め、唇を噛む。

 そして――


「……ゴーレム! 解除(パージ)


 ラントが小さくそう呟くと、唐突にゴーレムの身体が眩く光りだした。そして、手のひらサイズの黄金色の石に変化する。


「やっぱり、先輩たちはこの程度じゃどうもしないようですね。……僕の"切り札"、見せる必要があるみたいです」


 ラントは、不敵に微笑む。

 童顔の中に浮かぶその邪悪な笑顔には、年若いがゆえの純粋さと、そして、憧れの人物を超えてやるという強い"意思"が見て取れた。

 そしてラントは叫ぶ。


「――来て! 僕のお城(キャッスル)!!」

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