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変態と司教

遅れてしまい申し訳ありません

「エレカッ!」


 半ば扉を蹴破りながら、教会の中へと足を踏み入れた。

 突然の乱入者に、教会の中にいた修道女(シスター)たちは驚いた表情でこちらを向く。


「あ、あなたは」


 するとその中の一人が俺の顔を見て何かを思い出したかのように声を上げた。


「もしかして、あの時重症の男の子たちを運んだ……」

「あ、あの時の……」


 以前、エレカとの勝負に負けて重傷を負ったクシールとゼルゴの二人をここへと運んだ時に対応してくれたシスターの一人のようだ。


「あなたがここに来たということは、目的は彼女ですね?」


 シスターの瞳は俺の思考を見抜いているようだった。

 それも当然か。


「はい」


 頷くと、シスターは奥の部屋へと俺を通した。

 人がぎりぎり二人は通れるのではないかというほどの狭い廊下を進むとその部屋はあった。


「……この奥で、司教様が治癒魔術を施されています。出来るだけお静かには願います」

「分かっています」


 シスターへの返答をするとほぼ同時に、俺の手は自然とドアノブに触れていた。

 カチャリ、というノブの回る音が狭い廊下に響く。


「あ……」


 部屋の中は明かりがランタンのような自然の火の灯りしかなく、奥行きなどもそう広くはない。

 そしてその中央で、エレカが司教によって治癒魔術を施されていた。


「……君か」


 俺が近づくと、司教は治癒魔術を発動したまま意識だけをこちらに向けてきた。


「その、エレカの容態は」

「既に一命は取り留めている。恐ろしい生命力だ。……しかし」


 司教の言葉に胸をなでおろしかけたのも束の間、司教は深刻な声音になってこう続けた。


「このままでは、恐らく彼女は一生魔術を行使できない身体になるだろう」

「え……」


 魔術が行使できなくなる?


「細かい話をすれば、彼女の中の魔術を行使するための機能に損傷が出ているということだ」


 司教によると、人が魔術を行使できるのは身体の一部分がマナを魔術に変換する機能を蓄えているからだそうだ。

 その機能を持つ部分は人によって異なり、ある者は肩や膝などの関節部だったり、またある者は脳や肺などの臓器であったりもするという。

 教会の司教レベルの治癒魔術使いでないと人のその部分を知ることはできない。

 だが今回はエレカがあまりにも広範囲すぎる攻撃を受けてしまったため、運悪くマナを魔術に変換する機能部分が損傷してしまったのだという。


「残念だが、こればかりは今すぐには治すことができない。全教会を纏める総本部があるコルデアス法国に行けば、機能を回復させることができる治癒魔術使いがいるかもしれないが……」

「そ、それじゃあもうエレカは二度と魔術を使えないってことなのかよ!」


 俺の声が、部屋の中に響き渡る。


「……落ち着きたまえ。私はまだ完全に治らないと言ったわけではない」

「でも今、治すことができないって……」

「それはあくまでも、"今すぐには"という意味だ」

「それってどういう……?」


 司教は一度治癒魔術の手を止めると、近くの棚の引き出しから数枚の紙の束を取り出して俺に渡してきた。


「その紙に書いてあるものを手に入れることができれば、何とか治すことが可能だろう」

「これは……」


 渡された紙の束には、聞いたこともないような名前の草やら石やらが簡易的な絵とともに記載されていた。


「問題は、そこに書いてあるものには全て"守護獣"がいるということだ」

「守護獣?」

「その名の通り、あるものを守護するモンスターの総称だ。その守護獣を倒さない限り自然での採取は不可能だろう。誰かが持っていれば譲ってもらうでも構わないが、全て貴重なものな上に、そもそも持っている人間もそう多くはないだろう。譲ってもらうとなると、また話も違ってくる」

「これを、全て……」


 数自体はそう多くない。ただやはり気になるのは、その守護獣というモンスターのことだった。

 とは言え、悩んでいる時間などない。


「……本当に全て集めてくれば、エレカは治るんですか?」


 俺は再度司教に問いた。

 すると司教は頷いて、


「もちろんだ。私の全てをもって、必ず治してみせる」


 俺はその言葉が決して強がりなどではないと、司教の目を見てそう感じた。

 ……なら、後は俺がやるしかないだろう。


「必ず全て集めてここに戻ってきます。ですから……エレカのこと、よろしくお願いします」


 俺は司教に向かって頭を下げた。

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