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変態と銀狼 9

vsリーブマル、これで終了です

「……ぅ…………」


 朦朧とする意識の中、俺はうっすらと目を開けた。

 すると視界には、あまりにも凄惨な状況が広がっていた。


 身体中につららを突き刺し、血まみれになって立ち尽くすエレカ。

 その目の前に、氷の鎧を身に纏ったリーブマルの姿が伺える。

 そして彼の後ろに悠然と構える、巨大な氷の龍。、

 


「ぇ…………?」


 俺は目を疑った。

 もちろん、リーブマルの後ろで構える氷の龍の存在もそうだが、それ以上に俺は……


「エレ…………カ……?」


 俺は動かない口と喉から何とか小さな声を絞り出した。

 前方で血まみれになって立ち尽くしたままの、最強の名にふさわしい少女に向けて。

 絶対に負けることなんてありえない、エレカ・アントマーに向かって。


 信じられなかった。

 エレカが誰かに負けるところなど。

 それも、ほぼ圧倒的な力量差によって。


「――……れじゃ……ならだ……、……の……女……。……むなら、…………で再……する…………言って…………れ」


 既に凍りついて本来の機能を失いかけていた俺の耳に、リーブマルの言葉が微かに届く。

 次の瞬間、リーブマルが腕を振りあげると、それに応じる様に背後の龍が爪を振りかざした。


「や…………め………………!」


 動け、動けと俺は身体に命令する。

 だが、その命令を身体は受け付けようとしなかった。

 ……いや、もしかしたらもう命令を出す脳の方が異常を来しているのかもしれなかった。


 腕が振り下ろされる。それは龍の爪も同時に。

 空気を圧迫するがごとく迫る龍爪。それはエレカの命を間違いなく刈り取ろうとしている。

 ……しかし、いまにもエレカに爪が接触するといったところで、状況に変化が生じた。

 ――いや、正しく言えば、"エレカ"に変化が生じた。


「――――」


 微かに聞こえる少女の声。

 それはこの状況に対する命乞いでもなければ、これから訪れるであろう自分の死を哀れみ悲観する言葉の羅列でもない。

 そう、それは――――。



 突如エレカの身体を、眩い閃光が覆った。

 どうやらそれはエレカ本人から発せられているようで、まるで彼女を守るようにして光は発現し続ける。


『ググゥ…………』


 突如放たれた光に怯えたのか、氷の龍は振り下ろした爪の速度を下げた。

 僅かに残った視力で見ると、どうやらリーブマルもこの現象に戸惑いを見せているようだった。


 リーブマルは龍に攻撃続行の指令を出す。

 しかし龍はその命令を受けようとせず、終始エレカから発せられる光に怯えている。

 リーブマルは何度も龍に命令を出すが、それでも龍はその場から動かない。


 ――そうこうしているうちに。


 エレカの身体は、まるで瞬間移動でもしたかのように掻き消えた。

 そして……氷の龍の頭上に、その姿は現れた。

 "僅かな電流の尾"を引きながら。

 その右手には、鞘から引き抜いたレイピアを持って。


 エレカはレイピアを下に向けると、通常の重力下ではありえないような落下速度で龍の頭蓋に到達した。

 その動きはまさに雷が迸るようで、彼女が通った軌跡には、青色の電流が細い尾を靡かせる。


『グゴオオオオォォォォォ!!!!!』


 エレカのレイピアは龍の脳天を貫いた。

 場内に響き渡る龍の咆哮は、瀕死の俺の耳にも痛いほど届く。


 続いてエレカは龍の背後に再び電流を帯びながら瞬間移動し、即座に尻尾を切り落とす。

 そのまま流れるように、手足も切り落とし、ついに翼までをも切り落としてみせた。

 リーブマルの表情に徐々に焦りが生まれていく。

 無残に切り捨てられていく氷の龍に何もできないまま見ているだけしかできない様子だった。


 ――そして。


 エレカは全てを失った氷の龍に対して、手を掲げる。

 即座に現れる、無数の魔法陣。

 それらは減ることを知らず、龍の周囲を埋め尽くすように展開されていく。


 展開された魔法陣の鎖が解ける音が、一定のリズムを刻むようにして場内に響き渡る。

 それはもはや一つの芸術作品とも呼べるような規律で。

 目の前で傷だらけになった、美しい氷の龍に最後の一撃を加えようと。

 鎖が、解けていく。


 ほどなくして、魔法陣の鎖が全て解けた。

 瞬間、全ての魔法陣から、夥しい量の電流が流れ出る。

 しかしそれはもう電流などと呼べる生易しいものではなく。

 この世の全てを抹消せんとする、轟雷と呼ぶべき代物だった。

 轟雷は龍の体を消し炭に変え、それと同時に、エレカはその場に倒れ伏した。

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