変態と銀狼 7
視点変更って案外アリですね
「ヒヒ……とうとうリーブマルさんが本気を出したみたいだぜ……ヒヒ」
「これで、俺たちの勝ちは確定みたいだな」
「はぁっ、はぁっ……どういう意味だ……?」
茶髪の男性徒をくだしたあと、俺は二対一の状況になっているネロの応援へと向かっていた。
彼らの個々の実力もさることながら、互いのコンビネーションが非常に的確で、俺とネロはかなり苦戦させられていた。
「セツヤ、あれ!」
すると、横のネロが声を上げて指を差した。
その方を見ると……、
「あ、あれは何だよ……!?」
エレカと対峙していたリーブマルの周囲に白い煙のようなものが漂い、そしてまるで彼の身体を彩るように、蒼色の氷が全身の至るところを支配し形取っていた。
その姿は、まさに"氷の龍"だ。
「ヒヒ……絶極の壊龍……リーブマルさんがエレカ・アントマーと戦うために編み出した、氷系魔術の究極系だ……ヒヒ!」
紫髪の男性徒が声を押し殺すようにして嗤う。
……まさか、あれが魔術の影響だっていうのか?
でも、あの量の氷を一瞬で、それも自分の体に付着させることは魔術無しでは成し得ないことなのは明白だ。
「ふん、これであの女も終わりだな」
赤髪の男性徒がエレカの方を見やりながら、吐き捨てるように言う。
正直、あのエレカでも勝てるかなんて分からない。
――見たことがないのだ。
そもそも魔術の派生を戦闘で使えるレベルまで引き上げた者も、魔術をああいった使い方をする者も。
――助けに行きたい。
そんな、エレカに対する俺の想いが次第強まっていく。
でも、いまネロと共闘して戦っている男性徒二人に対して、俺は苦戦を強いられている。
そんな俺がいまエレカの下へ行ったところで足でまといになるだけなのは確実だ。
それに――
「――ヒヒッ、どこ見てんだよっ……!」
「ぐっ!?」
一瞬で紫髪の男性徒に間を詰められた俺は、咄嗟に剣を身体の前に構えて攻撃を受け止めた。
「つっ――!」
「ヒヒ……手でもヤっちまったか? ヒヒ」
手首に激痛が走る。
咄嗟の防御だったため構えがしっかり取れていなかった。
紫髪の男性徒の武器は内側に歪なカーブを描いた曲刀だ。
彼の振る力は意外に強く、いままでもしっかりと身体を据えて防御姿勢を取らなければならなかったというのに。
「くそっ!」
手首の痛みはもちろん治癒魔術で治る。
いまはジェシカがアレンの下へと援護に行っているため、自分で発動するしかない。
――だが、
「――悪いな、リーブマルさんが本気を出した以上、俺たちも負けは許されないんだ」
「――っ!?」
瞬間。眼前で、赤い髪が揺れた。
俺が魔術のイメージを作る前に。
神速のような速さで。
ゆらりと揺れ、俺に向かって剣の刃を突き立てる。
「させないよっ!」
しかし、俺に到達しようとしていた赤髪の男性徒の一撃は、ネロによって相殺された。
巧みな短剣捌きによって、俺と赤髪の男性徒の剣との間に入り込む。
「へぇ……やっぱり中々の速度と精密さだな」
「ヒヒ……ネロちゃ~ん、タベたいなぁ……ヒヒッ!」
「キ、キモチワルイよっ! 助けてセツヤっ!」
赤髪の男性徒は再確認するように言い、紫髪の男性徒は気味の悪い笑みをより一層深め、ネロを睨めつけた。
睨まれたネロは俺に抱きついてくる。
「うわっ、ちょっ、離れろっ」
腰に抱きついてきたネロを何とか引き剥がそうとしていると、不意に背後からまるで北極の奥地から吹くような寒気が襲ってきた。
「……………………セツヤ君?」
ジェシカの冷たい声音が、俺の鼓膜を揺らした。
……やっぱ俺、将来刺されるんじゃねぇかな。
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「……よしっ」
俺はその後すぐに治癒魔術で手首の痛みを消した。
しかし、それから戦いが再開されるかというところで、
「……ヒィッ……!?」
「……ぐぅ!?」
紫髪の男性徒と赤髪の男性徒が突如苦しみ始めた。
身体がまるで凍ったように動かなくなり、苦痛に顔を歪めている。
「お、おい。何が起こって……!?」
周りを見渡してみる。
すると、アレンと対峙していたはずのリーゼントの男性徒も同様に苦しんでいる様子が目に入った。
そして……、
「セツヤぁ……、何だか身体が……っ、動かないよぉっ……!」
「こ、これは……っ!?」
耳に届く、ネロとアレンの苦痛な声。
見れば二人の身体は、謎の氷に覆われつつあった。
「ククク……やはりこの魔術は素晴らしいね…………!」
押し殺したような笑い声に、俺はその方を振り向いた。
今の声は……まさか……?
「リーブマル! お前、こんなことをして何のつもりだ!」
笑い声の方を向けば、エレカが、鬼のような形相でリーブマルに向かって叫んでいた。
先ほどの笑い声は、そのリーブマルから発されたものだった。
しかし少し前までの彼の態度からは想像もできないほど、その顔は愉しそうな嗤いで歪められていた。
「何のつもりだって……? ふん、キミにはどうやらこの"冷気"が効いていないようだね。……それから、キミもだ」
リーブマルは不快に顔を歪めると、俺を睨んだ。
とても冷徹で、冷酷なその瞳。
氷のような水色の瞳は、俺のことを憎しみの感情のみで射抜く。
「何のつもりかなんて、今更聞くことでもないだろう? 当然、エレカ・アントマーを倒す、ということに決まっている。……エレカ・アントマーはともかく、何故キミがこの温度に耐えられているかは謎だが。……いや、それも時間の問題のようだ」
「時間のもんだ…………い……だ……?」
口から、思うように言葉が出なくなる。
続いて手が動かなくなり、足が動かなくなる。
そのうち、胴体すべてが行動不能となる。
身体が、眠りについていく。
「……さらばだ。目覚めた時にはもう、運命は決しているだろう」




