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変態と銀狼 6

初めての視点変更

 茶髪の男性徒をジェシカとの共闘で無事くだした俺は、他のメンバーの戦いに目をやってみる。

 ネロは紫髪の男性徒と赤髪の男性徒のコンビと。

 アレンは、リーブマルの近くに一番いたあのリーゼントの男性徒と一騎打ちをしているようだ。

 ……何だか、統率性が感じられないな。

 複数人で組まれたパーティ戦なのに、互いのメンバーはそれぞれ一定の範囲の中で目の前の敵に集中している。

 ネロとアレンは時々互いが近づいた時に互いの援護をしようと試みるが、それらは全て相手に妨害されていた。

 こうして見ると、リーブマルのパーティ側が、俺たちの行動範囲をわざと狭めて複数戦をさせないように動いていると感じた。これは、彼がメンバーに与えた指示から生まれた結果なのだろうか?


 ――そんな中で、リーブマルは。

 ――エレカと対峙していた。





<エレカ視点>


「……ふ、私に対して自信満々に勝負を挑んできただけの実力は持っているようだな?」


 試合開始からおよそ二十分が経過しようとしているところだろうか。

 全体の空気から感じるのは、ネロとアレンが互いに助け合うことができずに目の前に立ちふさがる敵に集中せざるを得ない状況というのと、ジェシカが後方から魔術による援護を一人でこなしているということ。

 ……そして、セツヤが無事、対峙した一人を戦闘不能まで追い込んだということだった。

 最悪私が全ての敵を一度に相手してしまおうとも考えていたが、そうするとメンバーの戦闘経験が浅くなってしまうし、何より、いま目の前で構えを取っているリーブマルが思いの外しつこいためにそれができそうになかった。

 訓練場の地面から舞う砂が、まるで戦いの流れに沿うように、空気に乗って束で移動する。

 そのせいか、この辺りだけやけに視界が悪く感じる。

 ……それが問題か、と問われれば、さして問題ではないが。


「……」


 リーブマルは、そんな砂で覆われた中で決して余裕そうな表情は見せていなかった。

 奥歯を噛み顔を歪め、辛そう、というよりは不快、という心情を顔に出していた。

 リーブマルはその両手に嵌めたガントレットで体術を繰り出してくる。

 肉体的な面で言えば彼はそこまで飛び抜けた実力の持ち主ではない。当然、この学院に在学する同学年の者たちと比べたら飛び抜けてはいるのかもしれないが。

 少なくとも、私を脅かすほどの実力ではない。

 ……ただ、この国では滅多に体術を主にする者がいない。

 アレンも言っていたが、ガントレットは本来東の方の武具だ。体術を戦術の主軸にするのは、さらにその一部だと聞く。

 この国でも体術を戦術に組み込むことはあっても、それを軸に考えることはほとんど……いや、全く無い。

 何故なら、東方よりも武器として扱える物がいくつもあるからだ。


「……何故………」


 苦に歪んだ表情のリーブマルが、小さく口を開いた。

 発されたその言葉は、誰が聴いてもわかるくらいにはっきりとした悔恨の色で塗り固められていた。


「何故……、本気を出さない…………」


 リーブマルはもう最初のような余裕の表情をその顔に残してなどいなかった。

 その双眸でエレカをきつく睨み、空気を貪るように息を荒くしている。


「本気だと?」

「キミの力はこんなものじゃないはずだ……そうだろう、"雷の王女"」

「……っ!」


 私が、忌み嫌っていたその呼び名。

 とうの昔に棄て、忘れて去ってきたその渾名。

 ……それを何故、この男は知っている?


「お前は一体……」


 その時。リーブマルの顔は、一瞬だけ、苦から解放された。


「――その動揺が、キミの命取りだ」


 突然、辺りに冷気が漂い始めた。

 それと同時に、いままで立ち込めていた砂煙が白く薄い空気に覆われていく。


「これは…………水系魔術の派生か」

「ふふ……さすがに気付くのが早いね。……でも」


 白い空気で覆われた周囲は、リーブマルの姿を隠蔽する。

 彼の声だけがその存在を示し、シルエットすら見えないまで徐々に空気は厚くなっていく。

 とりあえず、私はその場から動かず様子を窺うことに専念した。

 憶測が正しければ、この白い空気と立ち込める冷気は、水系魔術の派生である氷系魔術の影響だ。

 身構える。派生魔術を戦闘レベルまで扱える者は総じて戦闘時の魔術の使い方に秀でていることが多い。

 リーブマルは、その一人ということだろう。

 ――そして。


「さぁ、キミの本気を見せてくれ…………!!!」


 リーブマルの周囲を中心に覆っていた白い空気が一瞬晴れたその時。

 ――――私の目の前には、"氷の龍"が顕現していた。

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