変態と銀狼 5
今回はセツヤの戦いパートです
「ヒヒヒ、お前ら自分から戦いに来るなんて……よほど怪我してぇみてぇだなぁ?」
「その言葉、そっくりそのままお前らに返してやるぜ」
紫髪の少年の挑発に、俺は余裕顔で言い返した。
だが、何もこれは強がりなどではない。
ちゃんとした勝算があって、言い返しているだけだ。
「おいレストルト、相手は俺たちよりも数が多い。あまり油断しすぎていると数で負けるぞ」
紫髪の少年――レストルトに、赤髪の青年がそう言った。
「ヒヒ、分かってんだよそんなこと。テメーはいちいちうるせぇ」
対し紫髪の少年は相変わらずこちらに気味の悪い笑みを向けながら赤髪の青年に言葉を返す。
「ね、ねぇ、あの二人……」
と、そんな二人のやり取りを見ていたジェシカが横から声を掛けてきた。
「もしかして、仲悪いのかな? 最初に入ってきた時も何か言い合ってたし……」
「いや、それは無いんじゃないか?」
ジェシカの疑問に、俺は否定を示した。
先のエリックたちとの戦いを見るに、彼らはゴーサスの攻撃を受け止めた二人のはずだ。
あの時の彼らの防御タイミングは、まるで一心同体なんじゃないかと疑うほどにぴったりだった。
「喧嘩するほど仲がいいって、よく言うしな」
俺はまだ何やら言い合いをしている二人を見やりながらそう言った。
いわゆる凸凹コンビというやつだろうか。
「――さぁ、おしゃべりはここまでだ」
リーブマルが言った。
ふと横を見ると、さっきリーブマルに詰め寄っていた監督の女性が諦めたような表情をしているのがわかった。
早く終わってくれ、という意志が取れないこともない。
「――行くよ」
リーブマルは身を低くし、勢いよく飛び出した。
それを合図にするように、彼の他のパーティメンバーもそれぞれ俺たちに向かって散り散りに突撃してくる。
「覚悟するっすよ、そこの黒髪の人!」
そんな中、俺の方に向かって来たのは茶髪で背の低い男性徒だ。
両手に小剣を持ち、風を切る勢いで突撃してくる。
(魔術の類の発動は無し……動きも、アレンやネロとかとそう大差はない)
さすがにアレンほどでは無いが、速度だけならネロよりも早い。
――ただ、動きが直線的すぎる。
(武器も両手に持っているそれだけならっ……!)
俺は展開した片手剣を少し左に倒し、身体を右に逸らす。
「喰らうっす!」
「おらぁ!」
茶髪の男性徒が左手に持つ小剣を水平に薙ぐ。
それを俺は左に倒した剣を勢いよく振り抜き、弾き飛ばした。
「――隙あり……っす!」
茶髪の男性徒はそのままスムーズな体重移動でもう片方の小剣を振るってくる。
――だが、その行動をするのは既に読めている。
俺は素早く魔術の発動を試みる。
イメージするのは神速の足。
誰よりも早く動ける神速の足だ。
「させるかよっ!」
発動を終え、俺の足は身体ごと引っ張るように動き出す。
身体を屈ませながら右前方に進め、紙一重のところで左からの斬撃を躱すことに成功した。
「意外と素早いんすね……」
攻撃が失敗した茶髪の男性徒は一旦俺から距離を取った。
「へへ、ひとつくらい飛び抜けてなきゃあ、この世界は生き残っていけないようなんでね」
「確かにその通りっすね……それじゃあ、これはどうっす!?」
茶髪の男性徒は手に持った小剣を二本同時に投げつけて来た。
ネロと同じ剣の使い方だ。
ただネロの持つ短剣と男性徒の持つ小剣とでは長さが違う。
小剣の方が少しばかり長く作られているため、飛んでくる際の圧や速度などが多少違う。
――だが、所詮使い方は同じだ。
「これで終わりかっ――!?」
俺が体重移動で二本の小剣を避けて前を見ると……目の前の茶髪の男性徒は微笑んでいた。
「……さすがにこの使い方は見たことないようっすね」
「――っ!?」
言葉と同時に、背中に鋭い痛みが走った。
背部の二箇所が、燃えるように熱くなっていく。
そして、それの中に感じる金属の感触。
「お前……っ、その剣、鎖でつながって……!?」
俺は膝から崩れ落ちながら、茶髪の男性徒を睨みつける。
「ご名答……と言いたいとこっすが、残念。正解は、ワイヤーなんすよ」
言うと、茶髪の男性徒は紐を伸ばすような仕草をしてみせる。
すると、僅かではあるが手と手の間に銀色に光るワイヤーが辛うじて見えた。
「くそっ……」
迂闊だった。
まさか剣と剣の間がワイヤーで繋がっているなんて。
投げた二本の剣はあえて避けさせて、油断した相手の後ろから繋がったワイヤーを引っ張って攻撃する。
立派な戦術だった。
「さーて、さっさと一人倒して他の人の応援にでも行くっすかねー」
言いながら、茶髪の男性徒は魔術の発動に入った。
「――試合が終わるまで、ちょっと気絶しててもらうっすよ」
発動を終えた男性徒の周囲に、巨大な水球が現れた。
――見たことがある。あれは、水系中級魔術のウォートルだ。
「ぐっ……!」
展開される水の球を前にして、俺の身体は言うことを利かない。
痛みによって身体を動かすことが拒否されているのだ。
「行くっす!」
茶髪の男性徒は右手を前に掲げて水球を発射した。
それらは迷うことなくまっすぐ俺に向かって飛んできて、そのまま直撃――――
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「行くっす!」
茶髪の男性徒は自分の周りに出現させた水球を発射させた。
それは発射命令に従い俺に向かってまっすぐ飛来し、直撃する――はずだった。
バシャァン!
「えっ……」
俺に直撃するはずだった水の球は、途中で破裂音とともに掻き消えた。
顔を上げると、俺の目の前には土の壁が展開されていた。
「な、何が起きたっす……?」
目の前に展開していた土の壁は溶けるように地面に消え、奥で驚愕に目を見開く男性徒の顔を視界に入れてきた。
「――良かった、間に合ったみたい」
声に振り向けば、そこには胸に手を当て安堵の表情を浮かべたジェシカの姿があった。
「い、いまのはジェシカが……?」
「他の皆にも援護してたから遅れっちゃって……水属性に土属性だったから一回しか防げなかったけど……」
いや、それでも助かったのは変わりない。
あの魔術を受けていたら、俺は確実に戦闘不能状態に追い詰められていただろう。
「ありがとうな……って、あれ?」
俺はジェシカへの感謝の言葉を述べると、身体に起きたある異変に気がついた。
「背中の傷が……?」
無いのだ。背中の傷が綺麗さっぱりなくなっていた。
跡形もなく、まるで最初からその攻撃を受けていなかったかのように。
ただ、裂傷部分の服が破けていることだけが、あの攻撃が現実だったと認識させた。
「もしかして、これもジェシカが?」
「う、うん。セツヤ君を守らなきゃって思ったら……つい」
そう言って、えへへ、と笑うジェシカ。
……はい、とても可愛いです。
すると、
「――戦闘中っすよ! 集中してくださいっす!」
小剣が俺の右頬を掠めた。
見れば、茶髪の男性徒がもう目前まで迫っていた。
「食らえっす!」
男性徒は再び小剣を同時に飛ばしてくる。
「二度と同じ手を喰らうか!」
俺はそれに対し、再び足に強化魔術を施してから前へとダッシュする。
「うっ……早い!?」
男性徒は驚いたように声を上げた。
そして俺の前へのダッシュが先ほどの攻撃の対応策であることに気がついたようで、急いで剣を引き戻す。
「――遅いぜ」
俺は一歩、強烈に踏み込んだ。
爆発音とも取れるような大きな音を立てて、俺の身体は男性徒の眼前にまで迫る。
「……っ!?」
そして、男性徒の首筋に剣を押し当てた。
――これが本番なら、その首を切り落としているぞ。
そんな意志を込めて。
「ま、参ったっ……」
男性徒はその茶髪を揺らしながら地面にへたりこんだ。
「うし、まずは一人……」
そして俺がその場から一旦立ち去ろうとした――
その時だった。
「――な~んて、誰が言うと思ったんすか?」
背後から、魔術を発動する気配。
鎖が解けていく音が俺の鼓膜を揺らす。
「これが本当の戦いだったら、あんたは相当なバカっすよ……!」
そして、鎖が解けきる音。同時に、空中に水球が出現するのが分かる。
そんな男性徒に向かって、俺は言った。
「……だったら、俺の行動にも気づけないお前はもっとバカだな」
茶髪の男性徒の頭上に、炎の槍がいくつも出現した。
――炎系中級魔術、バーンアロー。
俺は男性徒が万が一これ以上行動を起こした時のために、既に魔術の発動に入っていた。
俺の魔術の発動は一瞬だ。何せ、術式を解読しなくていいのだから。
「い、いつの間にこんなっ……!?」
「――"いつの間に"なんかじゃない。"今"出したんだ。……じゃあな、いい夢見ろよ」
そして俺はその言葉を最後に、茶髪の男性徒の頭上に炎の槍を降らせたのだった。




