変態と銀狼 4
エリックたち敗れる
「エ……エリック!」
目の前で起きた出来事に、俺は思わず叫んでいた。
俺たちは急いで観客席から降り、エリックたちが吹き飛ばされた壁の下まで駆け寄った。
「おい、エリック! しっかりしろ! ゴーサス、ケビン!」
「酷い……」
一緒に降りてきたジェシカがエリックたちの姿を見て、口に手を当て唖然とする。
三人とも叩きつけられた衝撃で身体が言うことを効かない様子だ。
「だ……大丈夫だ。俺たちだってそう簡単にくたばるほどやわに鍛えちゃねぇよ……!」
エリックはそう言ってみせるが、その顔色は決していいとは言えない。
ゴーサスやケビンも意識はあるようだが、確実に重症だ。
あの衝撃を考えると、骨が折れていても何らおかしくない。
「フロットレンス君!!」
そんな時、リーブマルの名を呼ぶ鋭い声が訓練場に響いた。
「あなた、いくらなんでもやりすぎです! 君が入試優秀者の一人だとは言え、模擬戦でここまでやるのは度が過ぎています!」
リーブマルに近づきながらそう言うのは、彼らが試合の監督として呼んだ技術教官の女性だった。
桃色のセミロングを持ち、肩を揺らしながらリーブマルに向かって歩いていく。
「こんなことをして、もしも相手の生徒が……!」
「――それは、その生徒が所詮そこまでの人間だった。そうではないですか?」
リーブマルの言葉に、技術教官の女性は言葉に詰まってしまった。
それは、実際に冒険者になれば相手がどうなろうとそれは相手自身の責任になるということをよく知っているからだろう。
「さて……エレカ・アントマー」
リーブマルはこちらに視線を向けてきた。
その瞳は真っ直ぐに、エレカを射抜いている。
そして、
「――僕と戦ってもらおうか」
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リーブマルはエレカをまっすぐに見据え、戦いを申し込んできた。
彼らのパーティの順位は現在三位。俺たちの六つ上だ。
もし彼らを下すことができれば、俺たちの順位はさらに上がるだろう。
「私たちと戦うだと?」
エレカはリーブマルの発言に疑問を覚えたかのように問い返した。
「そうだ、僕らと戦うんだ。……キミこそ、僕を楽しませてくれる人材にほかならないのだからね」
そう言うと、リーブマルは静かに構えを取った。
その手には……銀色に光る籠手のような物が嵌められていた。
「その手に嵌っているのは……まさか、籠手……?」
「ほう? よく知っているね、そこの白髪のキミ」
アレンの言葉に、リーブマルは少し驚いたような顔をして言った。
「ガントレットは東方の武具のはずだけど……」
「その通り。これを融通してもらうのは少しだけ骨が折れたよ」
リーブマルは他に武器となるようなものは持っていない。
つまり、彼は体術で戦うというのだろうか?
「さあ、エレカ・アントマー。キミも早く準備したまえ。……キミのお仲間たちはどうせそこで寝ている者たちにつきっきりになってしまうだろうからね。僕とキミとの一対一の試合で決着を付けよう」
リーブマルは倒れたエリックたちを見ながら、ニヤリと口角を釣り上げた。
……こいつ、完全に挑発してきやがってるな。
その言葉に、エレカも仕方なく模擬武器を展開しようと手を伸ばした――その時だった。
「――その必要はありません!」
訓練場内に、鋭い声が響いた。
「ジェ、ジェシカ……?」
声の主はジェシカだった。
驚いたのは俺のみならず、アレンやネロ、それにリーブマルたちも一斉にジェシカの方に視線をやっている。
「エリック君たちは、私が治します!」
ジェシカは力強くそう言うと、素早く魔術の発動を開始した。
彼女の周りに魔法陣が三つ描かれる。
「――」
術式を解く言葉が、ジェシカの口元から零れ出る。
次第、魔法陣に描かれた術式は解読され、鎖が解けた。
「うぁ……身体が……?」
術式が解けた瞬間、ジェシカの周りに出現していた魔法陣はエリックたち三人の目の前にも現れた。
そして、彼らの身体全体を、淡い光が包み込む。
「傷が、治っていくぞ……?」
「ほ、本当だ……」
光に包み込まれた三人の傷は、みるみるうちに塞がっていった。
「治癒魔術か……? それに、三人同時……?」
目の前で起きた光景に、リーブマルは驚いているようだった。
「……皆さん、立てますか?」
「あ、ああ……」
近づいてきたジェシカに言われて、エリックたちは何とか自分たちの力で立ち上がった。
「ごめんなさい。私の治癒魔術、まだ疲労までは完全には取れないんです……」
「……いや、どうか謝らないでくれ。俺たち全員の傷を治してくれただけで有難い」
ゴーサスはジェシカに向かって深々と頭を下げた。
「い、いえ……! 頭を上げてください。そんな大層なことは何も……」
「そんなに謙遜することはない。治癒魔術で同時に複数の人間を治癒することはそれだけで高位の治癒魔術使いだ。君は誇っていい」
「そ、そんな……」
ジェシカはそれでも否定するが、やはり褒められて照れているのか頬が少し赤かった。
「――さすが私の友人だ。さあリーブマル、これで私たちは全員動ける。……私のパーティは、仲間を傷つけられて黙っているような薄情者の集まりではないぞ?」
エレカは手を掛けようとしていた模擬武器を仕舞い、リーブマルを見やった。
「フフフ……いいだろう。そちらがそう来るなら……」
リーブマルの後ろに待機していた彼のパーティメンバーが、それぞれ再び武器を取り構える。
「――僕たちだって容赦はしないさ」




