変態と銀狼 3
リーブマルパーティ対エリックパーティ
――"銀狼"リーブマル・フロットレンス。
同じクラスであるジェシカが彼の普段の様子を教えてくれた。
常に冷静沈着、座学の授業や魔術の実技授業、それに生徒同士で戦う模擬戦に至っても全て圧倒的な好成績を叩きだしているという。それこそ、あのトリスをも凌ぐほどの。
それに、彼の持つ眩いほどの銀髪と透き通るような独特の声音から、彼を特別視して近付きたくないと距離を取っている生徒がほとんどなようだ。
結果"銀狼"と呼ばれるに至ってしまったというのだが、いま現在彼はパーティを組んでエリックたちと戦っている。
彼の周りに集まったあの生徒たちはどういう存在なのだろうか。
「行くぜ、リーブマルッ!」
エリックが、獲物である長剣を握り締め突進する。
風を切るようで、なかなかキレのある動きだ。
それに対しリーブマルはただ悠然と立ち構えそこから動こうとしない。
「なっ!?」
すると走っていたエリックは、途中で驚きに目を見開いた。
何故なら……
「目、ツムっちゃったよ!?」
俺の左後ろから、驚きを隠さないネロの声が聞こえてきた。
「でも、いくらなんでも私、あの人が模擬戦とかで目を瞑ってる試合なんて見たことないよ……?」
さらに、後ろのジェシカもあの行動に驚いているようだ。
戦闘中……それも相手がリーブマルただ一人に狙いを定め、武器を握って突進までしてきているこの状況で目を瞑るなんてありえるだろうか?
「まさかあいつ、用事があるからって言ってたし、勝負を捨てた……」
「いや、それは違うと思うよ」
俺の発言に、アレンが即答してきた。
「アレンの言う通りだ。リーブマルは勝負を捨ててなどいない。……セツヤ、あの男を見ろ」
エレカはアレンの話に頷くと、前方を指さした。
その方向には、
「あっ!」
ゆっくりと、立ち構えるリーブマルと突進してくるエリックとの間に入り込んでくる影。
それはさらにゆっくりと、そして流れるようにスムーズな動きで……
ガキィンッ!
エリックが振り下ろした長剣の一撃を受け止めたのだった。
「――リーブマルさんに手を出すなら、まずこの俺を倒してからにしてくれねぇかィ?」
二人の間に入った影――リーブマルの取り巻きの一人であるリーゼントの男が、長剣を振り下ろしたエリックに向かってそう言った。
「ちっ……」
エリックは苦い顔をしながら一旦距離を取る。
それを見て、リーゼントの男性徒も武器を下ろした。
彼は刃幅の長い特徴的な剣を二本所持している。
「いきなりリーブマルさんを狙う思い切りは褒めるが、ちと周りが見えてねぇな?」
「うるせぇ! 次は届いてやるからな! ――行くぞお前ら!」
エリックが声を掛けると、後ろにいたパーティメンバーのゴーサスとケビンがそれぞれ呆れ顔ながらも武器を構えた。
「へぇ……人望はしっかりとあるのか。だが残念だ……僕はもう君たちに興味はない」
リーブマル少し驚いたように声を上げた後、訓練場中央から再び俺たちを見てきた。
……間違いない。リーブマルは俺たちを意識している。
態度でも目の前のエリックたちにまるで興味がないと示すように、俺たちに視線を送ってくる。
すると、
「――おい貴様、そんなに俺たちがどうでもいい存在だとでも言うのか?」
そんなリーブマルの、エリックたちを侮辱するようなその態度にゴーサスが声を上げた。
「……それじゃあ、キミが僕を楽しませてくれるっていうのか?」
リーブマルの顔が正面を向く。
横からでも分かる、獲物を狙うような鋭い目。
……本当に、狼のようだ。
「答えは……その身体に思い知らせてやる!」
言葉とほぼ同時。
巨大な体躯を持つゴーサスは、その身体からはとても考えられないような動きでリーブマルとの距離を詰める。
「全く……斧なんていう大振りな武器を真正面から向けてくるとは。キミも周りが見えていないんじゃないか?」
リーブマルの挑発とも取れるその言葉を合図にするが如く、ゴーサスの目の前にリーゼントの男性徒と茶髪の背の小さい男性徒の二人が立ちはだかった。
「ふんっ……」
ゴーサスはその二人を見て、構わず武器を振るった。
しかし、それは当然のように受け止められる。
「周りが見えてねぇのはリーダーと同じってか?」
「……っと。力と速度だけはあるみたいっすけどね」
ギリリ、と武器同士が擦れ合う音が響く。
しかしこのままでは、ゴーサスの一撃は彼らによって押さえ込まれてしまうだろう。
その時。
「……お前たち、そんなに俺にかまけてていいのか?」
ゴーサスの台詞とほぼ同タイミングで、彼の背後から人影が現れた。
それはリーゼントの男性徒と茶髪の男性徒をもあっさりと抜け、素早い身のこなしでリーブマルに接近する。
ケビンだ。
右手に特殊な形状をしたボウガンを構えながら、リーブマルに向かって突撃する。
「……へぇ、キミって意外と器用なんだね。でも、それじゃあ届かないよ」
その言葉通り、ケビンの前にゴーサスと同じく二つの壁が立ちはだかる。
「ヒヒ、お前らパーティ人数三人とか少なすぎんだよ、ヒヒ」
「お前ら、戦いにおいて数の利がどれだけ大事か分かってないな?」
ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべた紫色の派手な髪色の男性徒と、赤髪の飄々とした男性徒だ。
「ちっ……」
作戦が失敗したゴーサスは舌打ちをすると、一旦身を引こうと後ろに飛ぼうとする。
それに合わせるように、ケビンも交代しようとした。
だが――
「――逃がさないよ」
冷たく、それでいて透き通るような声音が一つ、訓練場に降りた。
その声に反応するように、ゴーサスとケビンの前に立ちはだかっていた男性徒たちは一斉に防御体制から攻撃態勢へと移行させる。
そして、
「うぐっ!?」
「ぐあっ!?」
ケビン、そしてゴーサスまでもが、男性徒たちの反撃によって遥か後方へと吹き飛んだ。
その勢いは凄まじく、訓練場中央の一番外側である四、五メートルの壁にまで叩きつけられた。
そしてずるずると、力なくその場に倒れ伏す。
「ゴーサス! ケビン!!」
エリックが叫びながら、倒れた二人の下へ駆け寄ろうとする。
しかし――
「――逃がさない、と言ったはずだけど?」
その後ろから、再び響いた冷たい声とともに背中に手のひらが当てられる。
エリックは振り返るまもなく……
「ヴェ・グルワール」
とてつもなく巨大な爆発音がその手のひらから発生し、エリックの身体はゴーサスやケビンたちと同じ、訓練場端の壁まで吹き飛ばされた。




