表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/79

変態のある日常① ~アレン編~

進級試験まで三話ほど日常回

「あれ?」


 ある日学院内を歩いていると、中央広場の噴水脇にあるベンチに見覚えのある背中が見えた。

 少し近付いて見ると、その人物はアレンだった。


「……」


 アレンは真剣な眼差しで下を向いている。

 その手には、分厚い一冊の本が抱えられていた。


「気付いてないようだし、ちょっとばかり脅かしてやるか」


 俺は抜き足差し足、音を立て無いよう慎重に後ろから近付いた。

 どうやらアレンの読んでいる本は、様々な武器が記載された資料本のようだった。

 多彩な種類の武器の画像とともに、その武器の使い方などが事細かに書いてある。


「随分と読み込んでるな……」


 各ページごとに付箋が貼られていたり、ページの中にも色々とアレン自身が書き込んだ跡が見える。

 相当な愛読書のようだ。

 すると、


導具(どうぐ)……アルマロテオ……」


 ぼそりと、アレンの口からそんな言葉が漏れた。

 ……どうぐ? それに、アルマなんとかって……よく聞き取れなかったけど。

 何かの武器の名前だろうか?

 んー、もうちょっと近くで見れば武器の名前も見えるんだが……


「……何してるのさ、セツヤ」


 いつの間にか、アレンがこちらを向いて呆れたような顔をしていた。

 ……しまった。本が気になって身を乗り出しすぎた。

 だって、剣とか槍とかかっこいいじゃん?

 男の子だったらかっこいい武器は気になるものである。


「す、すまん。覗き見するつもりはなかったんだが、つい……」


 俺は慌ててアレンから離れてそう弁解した。

 するとアレンは軽い溜め息を一つ吐いて、


「……まあいいけど。それで、僕に何か用でもあったの?」


 俺にそう問いてきた。

 だが、別段アレンに用事はない。

 偶然見かけたから何となく、というだけである。


「いや、用は特にないんだ。偶然見かけたから……ほら、アレンとばったり会うのって珍しいなって思って」

「ふ~ん……」


 俺の言葉を受けたアレンは何故か考えるような素振りを見せると、ひとりでに頷いた。


「僕これからエリオードさんのところに行こうと思ってるんだけど、良かったらセツヤもどう?」

「エリオードさん?」


 どこかで聞いたことがあるような、無いような……

 だが俺が記憶を掘り起こす前にアレンが説明してくれた。


「ほら、前に一緒に行ったでしょ? アントマーさんの武器をもらいにさ」

「ああ……」


 言われて思い出した。

 あのゴツイおっちゃんか。

 確か学院に内設されてる武器屋の店主だったな。


「でも、そんなところに何しに行くんだ?」

「何しに行くもなにも、もちろん武器を見るために、だよ。この間転校してきたクロイメルさんが使ってた武器でちょっと気になったことがあってね」


 ネロが使ってた武器で気になること?

 俺は模擬専用武器を使った彼女しか見たことがないためよく分からないが。

 アレンは彼女の本武器を見たことでもあるのだろうか?


「ま、俺は構わないぜ、どうせ今日はヒマだしな」

「分かった。それじゃあ、行こうか」





 学院の左端にひっそりと佇む小さな建物。

 レンガ造りで古風なイメージを思わせるこの場所こそが、エリオードが営む生徒専用武器屋である。


「……お、アレンじゃねえか。新しい武器でも見に来たのか?」


 俺たちの入店に気づいて奥の部屋から顔だけ覗かせたエリオードが言った。

 それからアレンの横にいる俺を見て、


「お前さんは確か……セツヤだったか?」


 記憶の糸をたどるようにして言った。


「一回しか来てないうえに来たのも相当前だが、覚えててくれたのか」

「ま、俺は客の顔を覚えるのが信条でね。記憶力にはちと自信があるのさ」


 そう言ってエリオードは豪快に笑うと、奥の部屋から出てきた。

 相変わらず筋骨隆々な体つきをしている。

 短く刈り上げた茶髪がよく似合う。


「エリオードさん、ちょっと聞きたいことがあって……」


 アレンがそう切り出すと、


「そんなことより、ついこの間すげえもんが入荷したんだよ!」


 エリオードが言葉を遮るように言った。

 そしてカウンターの下に潜り込んで、


「よっ……と」


 布に包まれた、そこまで大きくない棒状の包みを取り出した。

 エリオードはその布を取る。


「これは……!」


 その中身を見た途端、アレンの目が変わった。

 食い入るようにカウンターに置かれた武器……蒼い刀身をした一本の短剣(ダガー)を凝視する。


「さすがアレンは知ってやがるか……そうさ、あの伝説の鉱物オリハルコンを使った特注のダガーだ」

「エリオードさん、これを一体どこから?」

「ああ……つい二日前に、学院長がここにやって来てな。珍しいこともあるもんだと思ってたら、こいつを置いてったんだよ」

「す、すごい……。こんな代物、そうやすやすと手に入るようなものでもないのに……」


 このダガー、そんなにすごいもんなんのか?

 確かに「オリハルコン」って言えば、ゲームとかでもよく高位の鉱物として登場するけれど。

 いやいまはそんなことより。


「アレン、エリオードに何か訊きたいことがあってここに来たんじゃないのか?」


 俺が言うと、


「ああ、そうだった」


 アレンはダガーから目を離してエリオードに向き直った。


「エリオードさん、前に言ってたヴェイヌ社から輸入した弓ってまだありますか?」

「ん? ああ、まだあるぜ。この学院じゃあまり弓を使うヤツがいないからな。ちょっと待ってろ」


 エリオードはそう言い残して、奥の部屋に引っ込んだ。

 しばらくして戻ってきたエリオードの腕には、黒く大きな弓が抱えられていた。


「こいつだろ?」

「ありがとうございます。……ちょっと、いいですか?」


 アレンはその弓を受け取ると、カウンターの上に置いてじっと見つめる。

 そして何かを確信したように頷くと顔を上げてこう言った。


「やっぱり……これ、クロイメルさんが持ってた弓と同系統みたいだ」

「同系統? どういうことだ」


 やはりアレンはネロの本武器を見たことがあるようだ。

 俺が首をかしげると、アレンは俺に説明してくれる。


「昨日だったかな。授業終わりに寮に帰ろうとした時、サラ教官と一緒に学院を出て行くクロイメルさんを見たんだ。その時背中に背負ってた弓の一部がこれに似ててね」


 言いながら、カウンターの上に置いた弓を指差す。


「そうだったのか。……でも、それが何かあるのか?」


 正直、弓が同じだけというなら気になる理由にはならないだろうし、弓の使用者はエリオードの言う通り確かに少ないが全くのゼロってわけじゃない。現に、あのゼルゴが弓を使っていた。

 するとアレンは弓を持ち上げ、ある一点を指で示しながらこう言った。


「ここを見て。このマークは、その道具に"魔術の術式が埋め込まれている"という証拠なんだ。例えば、ハリアブルーとかで使われてる漁業の船にだったり、学院の廊下にある燭台とかにも同様のマークが付いてる」


 見ると、確かに弓の中央部に丸い円形のマークが掘られていた。どことなく魔法陣の形に似ている気がする。

 弓だけでなく、それは矢の方にも掘られている。


「実はこの技術、元はヘイストス帝国のものなんだ。最初は産業発展のために魔術研究者が発明したものなんだけど、それが軍事国家であるヘイストスで生まれてしまったがために武器にも搭載されるようになってしまった。いまではこの国とヘイストスを含めた数国家間で平和協定がなされているからそれが戦争に使われるということは無いけどね」


 若干アレンのウンチクタイムが入ってた気がしなくもないが、何となく理解した気はする。

 しかしまぁ、戦争とかいう言葉が出てきたか。

 やはり異世界と言えど戦争はあるものなのか。


「問題は、クロイメルさんが何でそんなものを持っているかってことなんだけれど……まあ本人がいないいま考えてもしょうがないし」


 言いながらアレンは弓を持ち上げて、


「ありがとうございました。お返しします」


 エリオードに渡した。


「おう、もういいのか?」

「ええ、確認は出来たので」

「それならよ、その……クロイメルって言ったか? 誰だか知らねえけど、そいつ学院(ここ)の生徒ならこの弓を買い取ってくれって言ってみてくれねえか? 最後の一つ誰も買いに来なくて困ってんだよ」


 エリオードが苦笑いしながらそう言うと、


「はは……相談してみます」


 アレンも同じく苦笑いしながらそう答えたのだった。





 エリオードの店を出てから、俺たちは以前も使った訓練場へと足を運んでいた。


「まさか、アレンの方から言い出すとはな」

「たまにはやらないとね、腕が鈍ってだめだ」


 つい先ほど、俺はアレンから模擬戦の誘いを受けた。

 どうやら二年に上がると戦闘面での授業も組まれるらしいので、そのためだという。


「それじゃあ早速……」


 アレンは、借りてきた模擬戦用の武器を展開した。

 彼の得物は、エリオードのところで見せたあの反応から、ダガーだ。

 ダガーと言えば先日俺が戦ったネロもそうだが、彼女とは違い、アレンは右手にダガーを一本のみ持つ。

 俺も無事武器を展開し終えて、剣をアレンに向けて構えた。


「模擬戦だから、とりあえず気軽にやろうか」

「おう」

「じゃあ……行くよ」


 言って、アレンは低く身を落とす。

 右手に持ったダガーを後ろに引く。

 さて、アレンはどんな戦い方をするのか……


「え……」


 そう身構えた瞬間、アレンの姿が忽然と消えたのだった。

 何の音沙汰もなく。動いた痕跡どころか、最初からアレンはそこにいなかったんじゃないかというほどに。

 そして、


「――ふっ」


 俺の眼前に、ほぼ密着状態で、アレンは姿を現した。

 その手には、冷たく光るダガー。

 首筋ギリギリに当てられている。


「え……え?」


 俺はわけもわからず混乱する。

 い、いまのは瞬間移動か? 明らかに視認できる速度じゃなかったうえに、土煙すら立たなかった。

 魔術の類を発動した形跡も見られないし、足による移動でないことを信じたいが、そうなると……

 すると、


「ふぅ……良かった、衰えてないみたいだ」


 アレンは俺から離れて軽く息を吐き、どこか安心したようにそう言った。


「あ、ごめんね。驚かせちゃった?」

「えっと……」


 予想外すぎる結末に俺はただ唖然とするばかりだった。


「えっと、僕はもうこれでお終いでいいんだけど……」

「こ、こんなんでいいのか?」


 だって俺、何もしてないぞ?

 役割で言ったら、ここに案山子を置いといても俺と同じ役目を果たせる。

 でも……


「……お前が言うんだったら、俺は構わないが……」


 正直、あんな動きを見せられて、アレンに勝てる気がしなかった。

 そもそもアレンは始まる前に「気軽に」と言ってみせた。

 だが、彼が俺の前から消え、そして再び姿を現したあの時――

 俺の首筋に刃を突き立てた時の彼の表情は、冷たく無表情だった。

 いつものアレンには似つかわしくない、機械のような瞳だった。


「そっか……うん、何か、ごめんね」

「いや、謝る必要なんてないだろ。別にアレンは悪いことをしたわけじゃない。ただ俺と模擬戦をして、そ


して俺が負けた。違うか?」


 俺がそう諭すと、どこか沈んでいた彼の表情が元に戻った。


「…………ありがとう……。うん、今日は付き合ってくれてありがとう。いい気分転換になったよ」

「こちらこそ。……そうだ、一つお願いがあるんだが」

「何?」

「進級試験の時、勉強を教えてくれないか?」

「ああ、なんだそんなこと……」


 俺のお願いにアレンは頷いて、


「分かった、引き受けるよ」


 いつもの優しい笑顔でそう言ってくれた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ