変態の模擬戦 その後
その後寮の部屋にて
「ただいまー……」
俺が部屋のドアを開けると、中からエプロンを付けたジェシカが顔を覗かせた。
彼女は一旦身を引っ込ませると、エプロンを外してから、とてて、と玄関までやってくる。
「おかえりなさい、セツヤ君。……それで、どうだったの?」
両手を胸の前で合わせ、上目遣いになりながら、ジェシカは俺に問いかけてくる。
彼女はどうやら、俺とネロの対決がどうなったのかを知りたいようだ。
でも、何故彼女がそんなに気にしているのだろう。
「――俺の負け。ネロは強かったよ」
俺が素直に結果を伝えると、ジェシカは少しだけ顔を俯かせた。
そして、
「ということは、あの転入生は……セツヤ君のパーティに?」
再び顔を上げて、窺うように、そう問いてきた。
「……ああ」
俺から持ち掛けた、ネロが俺のパーティに入るかどうかを掛けた模擬戦。
その戦いに、俺は敗れた。
俺は戦闘に関しては素人だが、魔術には少しばかりの自信がある。
肉体面では、エレカに教わった強化魔術がある。
いまできる全力は出した。
だが、ネロはそのさらに上を行ったのだ。
「まあ、約束だしな」
俺との勝負に勝ったネロは、俺たちのパーティに入ることになっている。
「……」
「ジェ、ジェシカ?」
ジェシカは再び俯いて、胸の前で合わせた両手をきゅっと握り締めて、そして口を開いた。
「セツヤ君。――ひとつ、お願いがあるの」
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ジェシカから「お願い」などと改まって言われたのは初めてだった。
それだけに、彼女の放つ雰囲気に、ただならぬ決意があるようにも感じる。
「……それで、お願いってのはどんなのだ?」
俺は、出来るだけ落ち着いたトーンでそう問いかけた。
テーブルを挟み正面に座るジェシカは、神妙な面持ちで俺を見た。
「あのね……私を、セツヤ君のパーティに入れて欲しいの」
そんなジェシカの口から飛び出た言葉は、予想打にしていないものだった。
「え、なんでまた……」
ジェシカが俺のパーティに入る?
一体どういう風の吹き回しだ?
すると、
「私ね、負けたくないの」
ジェシカは静かに目を瞑り、そう言った。
「私は元々強くなりたくて家を出てこの学院に入った。自分で言うのもなんだけど、魔術の扱いにもそれなりの自信があった。だから、ここを冒険者として卒業できれば、さらに強くなれるんじゃないかって思ってた。
でも……結局私は弱いままだった。一人じゃ自分だって守れないくらいに」
ジェシカは苦しそうに、でもそれを必死に抑え込みながら、言葉を重ねる。
「……魔術が少し得意な程度じゃ、強くなんかなれない。結局私自身が変わらなくちゃ意味が無い。それを今回、改めて思い知ったの」
一つ、深く息を吐く。
それからジェシカはまっすぐ俺を見据えて、
「……だから私は、いまの私と決別するために強くなりたい。弱いままの自分はもう……嫌だから」
まるで自分にも言い聞かせるかのように、そう言った。
「ジェシカ……」
少女のその紫の瞳には、確かな意志が込められている気がした。
強く、固く約束されたその意志が、いまのジェシカを動かそうとしている。
少女の「強くなりたい」という想いが、ジェシカ自身をひたむきに変えようとしている。
……まるで、エレカの瞳みたいだ。
「……分かった」
そして俺は首肯し、ジェシカに言う。
「歓迎するよ、ジェシカ」
「……ありがとう」
するとジェシカは俺のその言葉を噛み締めるように俯いてから、
「それからセツヤ君。最初にも言ったけど……」
「え?」
きょとんとする俺に、満面の笑顔でこう言い放った。
「私、例えライバル多くても……負けないから! 見ててね、セツヤ君っ!」




