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変態の模擬戦

戦闘メイン回

 ――放課後。


「よし来たな、ネロ」


 俺は最後にやってきたネロを仁王立ちのポーズで待ち構えながらそう言った。


「すごーい……まるで闘技場みたい……」

「俺も今日ここに始めてきたから、正直驚いたんだ」


 俺たちがいまいるのは、ドーム状に造られた大きな施設だった。

 ドーム中央――俺とネロが今いるところには、砂が敷き詰められていて、足を強く踏みければ砂煙も立つ。

 中央の周りにはドーム状のこの施設の形を追うように、四、五メートルの塀が設置されていて、その外側には座るスペースが用意された観客席のようなエリアがある。

 ネロの言葉を借りるなら、本当に「闘技場」のような場所だ。


 そして一番の驚きは、ここが学院内にあることである。


「ここは訓練場って言って、生徒同士が模擬戦を行えるように用意された施設なんだぜ。でもまぁ、最近は使われてなかったっぽいけどな」


 エリックが、観客席からそう言ってきた。

 観客席にはエリックの他にアレンと、そして何故かゴーサスの姿が見えた。


「エリックから面白そうなことがあると聞いてな。今日は集まりもないし、ちょっと見に来てやったぞ」


 あの堅物そうなゴーサスもこういうとこあるんだな。

 何か意外というか、ギャップが、ね。


「さあセツヤ! 勝敗の決め方はどうするの?」


 ネロが右腕をぐるぐると回しながらそう聞いてきた。

 やる気は十分のようだ。


「そうだなー――」

「ちょおっと待ったぁー!」


 俺がいままさに口を開こうとした、その時。

 施設の入口を勢いよく開け、大声とともに入ってきた人物がいた。


「ちょっとあんたたち、一体何をやろうとしてるのよ!」


 施設に大股で入ってきたのは、いつもどおりの肌色成分が多い服を着用したサラだった。

 俺たちのところまでくると、腰に手を当て、「怒ってますよ!」というアピールをしてくる。


「な、なんでサラがこんなところに……」

「なんでとはなによ!」


 サラは頬を赤くし、俺を睨むように見た。

 いやこれ、見りゃ分かるんだけど……怒ってるのか?

 でもなんでだ? エリックとアレンがこの場所の使用許可は取ってくれたはずだ。

 するとサラから、予想外の言葉が飛び出した。


「――あたしを差し置いて、何勝手に面白そうなことしてるのよ!」


 ……は?


「事情はここの管理をしてる技術教官のデイムさんに聞いたわ! どうしてあたしを呼ばないのよ!?」

「い、いや……だってサラは関係ないだろ」


 俺がそう言うと、サラはさらに激昂する。


「関係あるもいいとこ、おおありよ! まず、あんたたちのパーティに新メンバーが入るということ。これはすなわち、合宿で教官を担当したあたしにも相談が来ていいということ!」


 た、ただそれだけで関係者を気取るのかこいつは!?

 しかしサラはその激昂したテンションのまま、俺の手前の人物を指差す。


「それから、この子! この子はあたしがこの学院に入れたの! そんな子が新しいパーティに入るための模擬戦をするって言ったら、そりゃもう関係しかないでしょ!」


 サラがネロをこの学院に入れただって?

 そんな話、オズグリフ教官どころかネロ本人からも聞いてないぞ。

 だが当のネロは、きょとんと首をかしげるばかりだった。


「んー……。ウチ、お姉さん初めて見るなぁ」

「ウソ!? だって、あたしがこの学院まで案内してきて……」

「……あー!」


 ネロは唐突に声を上げると、サラを指差してこう言った。


「よく見れば、確かに案内をしてくれた人だ! ごめんねー、あの時ウチ、周りの方が気になっちゃってお姉さんのことちっとも見てなかったよ」


 えへへー、と後ろ髪を掻きながら照れ笑いを浮かべるネロ。

 サラは、はぁ、と肩を落とした。


「そ、そういうことだったのね……でも、あたしのことを"お姉さん"、だなんて呼んでくれるから、あたしは贔屓しちゃう!」

「ヒイキ? よく分からないけど、いいこと?」


 おい、いいのかそれを生徒の前で言っても。

 主に教官として。


「と、いうわけで。あたしが今回の勝負の判定役になるわ」

「サラがか?」

「なによ、嫌なわけ?」


 サラがキッと俺を睨みつけてくる。

 ……俺がなんと言おうとこの場から動かないんだろうなぁ。


「別に嫌なわけじゃないが……いまさっきネロを贔屓するとか言ってたから……」

「安心なさい。あたしは勝負事に関しては、一番公平な判定を下すわ。それくらい教官として当然よ」


 胸を張って自信満々に言うサラ。

 教官として当然なら、まずはその贔屓をやめてくれよ。





「勝負は一本勝負。どちらかが体力的に動けなくなるか、武器が破損して使えなくなるまで続けるわ。魔術及び武器での人体への直接的な攻撃はアリだけど、もちろん殺すようなマネはだめ。……まー、アバラを二、三本くらいまでが限度かしらね」


 アバラを二、三本って……さらっと怖いこと言うなよ。


「それから、これを渡すわ」


 そう言ってサラが俺に渡してきたのは、ちょうど剣の柄程度のサイズの棒だった。


「あんたたちが普段使ってる武器は、基本的には対モンスター用に出来てる。だから、斬りつければ肉は裂けるし、貫けば抉れる。その気になれば人間程度、すぐに殺せてしまうわ」


 サラは懐からもう一つ、同じ棒を取り出した。


「今渡したのは、模擬戦用の武器。セツヤは普段剣を使っているから、剣タイプ。使い方は、こうやってマナをこの柄に集中させて……」


 サラが目を瞑ると、持っていた柄が発行し出す。

 そして、光る表面に魔法陣が生成されたかと思えば、柄の先から刃の鋭い剣先が現れた。


「こうやって出すの。とにかく意識をその柄に集中させればいいわ。……それで、ネロにはこっちね」


 と言ってサラがネロに渡したのは、俺の持つ柄と同サイズのものを二つと、それよりも細くさらに一回り小さい棒だった。

 ……ネロは武器を三種類も使うのか?

 いや、最初の二つは全く同じもののようだし、剣を二本と、もう一つ何かという構図もあり得る。


「それにしても、それも魔術の術式を埋め込んだ奴なのか?」


 俺はサラが出現させた模擬刀を見ながら言った。


「この技術自体は他国のものだけどね」

「でも見るからに属性魔術でもなければ、もちろん治癒魔術の類でもないだろ?」

「ええ、そうね。……ま、世の中の魔術研究はそれだけ進んでいるってことよ。この辺の魔術は、あんたたちがもし二年生に上がれたら、授業内でやると思うわ」


 サラはそう言うと、さて、と気を取り直して言う。


「あんたたち、とりあえず武器を展開しなさい」

「ああ……」


 言われたので、俺は目を瞑り、意識を柄に集中させる。

 するとすぐに、塚の先から剣先が出現した。

 出現しきった剣先は、長さがちょうど俺の持つブロードソードと同じくらいだ。

 軽く振ってみるが、いつものよりも少しだけ軽い程度で、これなら気持ちよく振れそうだ。


「……なるほど、短剣(ダガー)か」


 正面を向くと、ネロも既に武器の展開を終えていた。

 両手にダガーを持ち、左手だけ逆手持ちのスタイルのようだ。

 渡されたはずの三つ目の武器はまだ展開していない。


「二人とも、うまく展開できたみたいね。それじゃあ……」


 俺とネロの間に立ったサラが片手を振り上げる。


「――これより、アンジョウ・セツヤ対ネロ・クロイメルの模擬戦を始める! 両者構え――始めっ!」

「行くよ、セツヤッ!」


 サラの手が振り下ろされると同時に、ネロが地面を蹴り低空で跳躍してきた。

 速い。正面に構えた剣を下に降ろす。

 俺はそのまま懐に潜り込んできたネロを下に構えた剣で受け止める。

 ――相手の動きが止まったその一瞬。俺は素早く魔術を発動した。


 イメージするのは、風を纏いし足。

 魔術が成功した時のイメージを、脳内に鮮明に投影していく。


「よっと!」


 俺は強化魔術を施した足で踏み蹴って、後方に大きく跳躍した。


 ――『解読キャンセル』。実践で試したことは無かったが、焦らなければ難なく発動できるようだ。

 そしていま発動した魔術は、合宿の時にエレカから教えてもらった強化魔術の一つ、ウィンド:ポイントレッグというものだ。

 足が風に乗ったように軽くなり、驚異的な跳躍を可能にする。


「ふぅ……」


 俺は内心暴れる心臓をごまかすように、汗をかいているわけでもない額を拭った。

 ……正直、ネロの動きは異常な速さを誇っていた。一応なりとも対応できたのは、俺が普段見ている戦闘がエレカであるせいだろう。彼女と一度だけ戦った経験も生きているのかもしれない。

 ――そして何より、"模擬戦"というこの状況が俺を一番安心させている気がした。


「さてと」


 一旦ネロから距離を取った俺は改めて彼女を観察する。

 ――ダガーといえば、この場にもいるアレンの得物でもある。

 ただ彼の戦闘している姿は未だ見たことがないため、実際に使われているダガーを見るのは初めてだ。

 それでも食堂で一緒に過ごしていたりすると、男同士、嫌でもそう言った話に転換することがある。


 アレン曰く、ダガーは小回りが利きやすい代わりに、他の刃物系の武器と比べて間合いが非常に狭い。

 そのため、相手に攻撃を加えるには先ほどのネロのように素早く懐に飛び込まなくてはならない。

 ダガーは攻撃方法が多彩で、使い手によって戦法もまるで変わって来るらしい。


 つまり、まず俺はネロがどういった戦い方をしてくるかを見極めなくてはならない。


「ふふふ、いいね、その反応! 楽しくなりそうだよ!」


 ネロは右手をぶんぶん振り回し、眩しいまでの笑顔でそう言った。


「それは……どうも!」


 俺はネロに受け答えしながら、魔術の発動に入った。

 炎系初級魔術、フレイムショット。

 前に掲げた俺の手から、三発の火球が発射される。


「よっ! ほい!」


 ネロはそれを、右に跳ねることでいとも簡単に避けてみせる。

 俺はそれを追従するように再びフレイムショットを放つ。


「そんなノロマな攻撃、いくらやっても当たらないよ!」


 ネロは何度も飛んでくる火球を難なく避け続ける。

 こんな攻撃が当たらないのは、百も承知だ。

 フレイムショットは一発一発の弾速が遅めで、追従能力も並だ。

 軽い身のこなしのネロには、さぞかし意味のない魔術であることだろう。


 しかし俺に取っては、十分に意味のある魔術となる。


「もー……じれったいな!」


 ネロは顔を顰めてそう言うと、俺の放つ魔術と魔術のわずかな切れ目を狙って、右手に持ったダガーを投げて来た。


「うおっ、あぶねぇ!」


 俺は間一髪でそれを避けた。

 頬のすぐ近くを、風を切るような音が駆け抜ける。

 だが、いまの攻撃で分かった。

 ネロが、何のために二本のダガーを持っているのか。


「さすがにこの距離だと避けられちゃうかー」


 言いながら、俺の魔術を避けつつ回り込み、投げたダガーを素早く回収する。


 ――ダガーには、多彩な攻撃方法がある。

 それの一つが、ダガーの投擲だ。

 本来狭い間合いしか持たないダガーを投擲武器として投げることが出来れば、その間合いは一気に広がる。


「でも、まだまだこれからだよ!」


 ダガーを回収したネロは、朗らかに笑いながらそう言った。

 ……ここで、この魔術による攻撃は一旦終了。

 ネロがダガーを投げる人間だということが分かっただけでも十分だ。


「まだまだこっちから、行くよ!」


 ネロは足をバネのように曲げ、再び低く跳躍。

 最初にしてきた行動と全く同じだ。

 俺は剣を素早く下に構え、今度は受け止めるだけじゃなく、弾き返してみようとする。


 イメージするのは、木の幹のような豪腕。

 強化魔術、パワー:ポイントアームの発動が完了する。

 俺は筋力強化された腕で、剣を下から掬い上げるように振るった。

 しかし、


「っ!」


 俺の振るった一太刀は――ネロの左手に持ったダガーの腹で、右に受け流されていた。

 力の方向をしっかりと読み、それを利用して最低限の力で受け流している。


「もらったよっ!」

「くそっ!」


 ネロはそのまま姿勢を変えることなく、もう一方の手に持ったダガーで俺の脇腹辺りを狙ってくる。

 ――いまからもう一度ウィンド:ポイントレッグを発動して後ろに跳躍する時間はない。

 せめて、魔術の発動が一度できるくらいだ。

 それなら……迷っている暇はない!


「ぐぅ!」


 俺の脇腹に、ネロの持つダガーが接触した。

 金属の刃が、服の上から皮膚に触ってくる。

 しかしそのダガーは――俺の脇腹にめり込むことはなかった。


「か、硬い……?」

「残念だけど、俺の身体は特別製でな」


 俺は多少感じる痛みに耐えながら、笑みを交えてそう言った。

 ――シールド:ポイントボディ。

 俺の肉体はいま、鋼鉄の盾のように硬くなっていた。

 だが俺は、ネロの回避不可能な攻撃を受け止めるためだけに胴体を強化したわけじゃない。


「へぇ、中々面白いことをするね、キミ!」


 ネロはそう言って、一旦距離を取ろうと再び足に力を込めた。

 ――が、


「っ!?」


 俺の手はがっしりと、ネロの右腕を掴んでいた。

 パワー:ポイントレフトハンド。

 左の手首より先という非常に小さな範囲にかけた強化魔術だからこそ、刹那のうちに発動できた。

 ネロが俺の脇腹に攻撃を加えた直後というタイミングで。


「離れない……!」


 ネロは俺の左手から逃れることができずもがいている。

 彼女の左手は俺の剣を抑えるために自由が利かない。

 さあ、これで後は、俺が適当な属性魔術を目の前で発動してやるだけ……


「うおっ!?」


 瞬間、俺の身体が真横に回転した。

 支える足が消えた俺の胴体は、重力に従って地面へと叩きつけられる。


「へへ……両腕を押さえただけで、勝った気にならないでよね!」


 ネロはそう言いながら、仰向けの俺に跨った。


「お前……舐めるなよ!」


 いまの俺の身体には、まだ強化魔術の効力が残っている。

 この力を使えば……


「でもキミ、足はお留守だよね?」


 その言葉とともに、ネロは、俺の足に向かって――両手のダガーを振り下ろした。

 ザクッ!

 地面に突き刺さった刃物の音が、俺の耳に届く。

 が、


「あれ……痛くない……?」


 俺の足は、ネロのダガーに貫かれてはいなかった。

 いや、厳密に言えば貫かれてはいる。

 ネロのダガーは、綺麗に俺の制服のズボンだけを突き刺していた。


「う、動けない……!」


 ネロにマウントを取られている挙句服の足の部分を地面に釘差しにされているため、このままでは体勢を変えるのも難しい。

 それでもこの程度の拘束ならば、すぐに強化魔術で足を強化して抜けられるだろう。


 ――しかし、


「これ以上の抵抗は、させないよ」


 言いながら、ネロは懐から一本の細い棒を取り出した。

 それは、彼女の持つダガーの柄より一回り小さい――そう、この戦いの初めにサラが渡していた、三つ目の模擬戦用武器だった。


 ネロが意識をその棒に集中させると、魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣に描かれた術式がひとりでに解かれていき、たちまちその棒はアーチ状に長さを伸ばし、そして弦を貼って……、


「――さあ、これで終わりだね」


 さらに現れた矢を番え……弓矢がその姿を現したのだった。

 限界まで引き絞った弦、そして弓に番われた矢。

 それが俺の眼前で、発射のタイミングをいまかいまかと待ち望んでいるかのようだ。

 ――そして、もうこのタイミングでは、強化魔術を発動して、この拘束から抜け出す余裕は無かった。

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