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変態の提案

食堂の描写地味に初めてかも知れないですね

 食堂に向かう途中。この学院のことをまだよく知らないネロに、エリックとアレンが各場所を軽く説明をしながら歩いていた。


「……んで、ここが魔術準備室。魔術教官たちが授業を行う前に色々と準備をするための場所だ」

「僕らの学院じゃ座学を行う教室で魔術の実技もやるから、炎とか水が発生する属性魔術の実技授業の際、色々と準備が必要なんだ」

「そっかー、だから教室もあんなに広いんだね?」

「そういうこったな」


 ネロは興味津々で二人の話に耳を傾ける。

 その後ろ姿を見ていたら、背中をちょいちょいと突かれた。


「ん?」


 顔を向けてみれば、俺の後ろを歩いていたジェシカが俺を見上げていた。

 ……そういえば食堂に行く前、ジェシカが何か置いてくるって自分のクラスに一旦戻って行ってたけど何だったんだろう?


「ねぇ、セツヤ君。あれからその……エレカちゃんと会った?」


 身長が低いジェシカは俺の顔を下から見上げるように覗き込んできた。


「いや……会ってない」


 それどころか俺は、エレカと寮内で会ったことが無い。

 それ以外でも、プライベートで会ったのはケリスのお使いをした日きりだ。


「そっか……」


 ジェシカはそれきり黙りこくってしまった。


「も~、なんでそんな顔するかなぁっ!」


 俺の顔を、褐色に染まった細い腕がムギュっと挟んだ。

 前を歩いていたはずのネロが俺の顔を掴む。


「ネ、ネリョ……?」

「キミ、これからお昼ご飯を食べるっていうのに、そんな顔じゃだめだよ!」


 ネロが頬をぷくっと膨らませながらそう言った。


「だから、俺の名前はセツヤだって言って……」

「ほら二人とも、着いたよ」


 アレンの言葉に前を向けば、既に食堂の前まで到着していた。

 中に入ると、食堂は既に半分以上の席が埋まっていた。


「結構来てるね。えっと、僕らは五人だから席はと……」


 食堂を一通り見渡し、左端の窓際のテーブル席が空いていることに気が付いた。


「よし、とりあえずあそこにしよう。他の生徒に取られると面倒だから僕が先に行って座ってるよ」

「そうか、ありがとう。それじゃあ俺がアレンの分ももらってくるぞ。何がいい?」


 俺はアレンにメニュー表を見ながらそう言った。

 するとアレンは少し考えてから、


「ん~……それじゃあ、このチキンのバターソテーにしようかな」


 と言った。


「分かった。チキンのバターソテーだな」


 俺はアレンの注文を反芻しながらカウンターへと向かう。

 すると、


「ねぇキミ……じゃないや、セツヤ、だっけ」

「……なんだ?」

「ここの料理ってどれも美味しそうなんだけど、その……ウチ、一カルムも持ってないのに、いいのかなって」


 あの嫌なほどまで元気だったネロが、妙にしおらしくしてそう言った。

 ……何だ、そんなこと心配してたのか。


「心配しなくても、この食堂で出されるメニューならタダだぜ。入学手続きで支払ったカルムに含まれてるはずだからな」


 エリックがそう答えた。


「そーなんだー……」


 しかしネロは、再びしおらしくなってしまった。

 まだ何か、煮え切らないような……


「セツヤ君、順番来たよ!」


 そんな俺の思考を遮るように、ジェシカの声が耳に入った。

 見れば、俺の前を並んでいたジェシカは既に注文を終えトレイを持っている。

 その姿を見て、慌てて注文をした。


「え、えっと、まずチキンのバターソテーを……」


 と言いかけたところで、自分が何のメニューにするか全く決めていないことに気が付いた。

 ふっと振り返れば、遥か後方まで列が伸びていた。


「ふ、二つ、お願いします」

「チキンのバターソテーを二つね。それじゃあ次はあなた……」


 食堂の注文受付をしていたおばさんは素早く注文をメモに取ると、すぐさま次の生徒に注文を聞いていく。


「ふぅ……」


 危ない危ない。うっかり並んでる生徒に迷惑をかけるところだった。

 それにここの受付をしているこのおばさん、怒ると超怖いんだよな。

 俺は怒られたことはないけど、前にエリックとアレンと一緒に食堂に来た時、やたらとうるさい男生徒の集団に一喝入れてたのをいまでも覚えている。

 声だけで言えばその集団の誰よりも大きかったぞ。


「あいよ、おまたせ」


 注文をしてからすぐ、俺の持っていた二つの空のトレイの上に料理が置かれた。


「友達の分だろう? 気を付けて持っていくんだよ」

「あ、はい」


 おばさんに言われ、俺はその二つのトレイを慎重に持ち上げる。

 俺の後ろに並んでいたネロとエリックも無事注文を終えて料理を受け取ったようだった。





「美味しい……!」


 食堂の料理を一口食べたネロはまずそう漏らした。

 瞳をうるうるとさせ、今にも泣きそうな顔で料理を口に運んでいる。


「そんな大袈裟な……」


 食堂(ここ)の料理は確かに美味しい。

 正直俺もジェシカも料理をやっていなかったら、毎日の夕飯もここで済ませているだろうと思うほどだ。

 それでも、ネロのこの反応は首をかしげるくらい大袈裟に見えた。


「だって、このスープ! オニオンの風味と塩気がほどよく効いてて、食欲を凄いそそる!」


 ネロが今回注文した料理は、豚肉を特性のスープで煮込んだものと、パン、それからオニオンスープというラインナップだ。

 この食堂でもこれを食べている生徒はよく見かけるので、非常に人気なメニューだと覗える。

 かくいう俺も数回食べたことがあるが、かなり美味しかった記憶がある。


「こっちのお肉も柔らかくて美味しいし……パンも香りが高くて美味しい!」


 言いながら、嬉しそうに料理を口へと運び続けるネロ。


「ネロちゃん、よく食べるねー」

「ウチ、村でも一番よく食べるって言われてて……」

「村?」


 俺が首をかしげると、ネロは口に入れた料理を飲み込んでから口を開いた。


「……、ヘイストスの一応統治下にある村だよ。ウチはそこから来たんだ」

「ヘイストス……?」


 俺が聞いたこともない名前に再び首をかしげていると、アレンが補足するように言った。


「ヘイストス帝国。このクリムゼルから南に下ったところにある軍事主義国家のことだね」

「ほえ~……」


 溜め息を吐いてしまった。

 やっぱりアレンは物知りなんだなぁ。


「おいセツヤ……お前、歴史の座学いつも寝てたろ?」

「座学……?」


 言われて俺は頭の中から記憶を掘り起こす。

 歴史……座学……ヘイストス……。

 ダメだ。何も覚えてない。


「確かにヘイストスの辺りは直近の歴史の授業でもやったね」


 アレンまでもがそう言い出した。

 え? なにこれ俺が悪い感じのやつ?


「お前、全部の授業寝てるとかそれで大丈夫かよ?」


 エリックが呆れたように肩をすくめる。


「う、うるせぇ! 大体エリックだって魔術の実技ほとんどノルマまで行ってねーじゃねーか! そっちこそ進級試験で落とされるんじゃないのか!?」

「むぐっ……」

「むむむ……」


 俺とエリックが睨み合っているとアレンが両手をパン、と鳴らし、


「はいはい、セツヤもエリックもそこまで。どっちにしてもこの学院の進級試験じゃ歴史の知識も魔術の技術も一定値を超えなくちゃいけないんだから。張り合ったってしょうがないよ」


 爽やかに笑ってそう言った。

 ……ちくしょう、どっちもできるやつはいいよな。


 すると、


「皆、仲良さそうでいいねー」

「え……?」


 ふと、ネロがそんなことを言った。

 その時の彼女の表情はさっきまで見せていた快活とした表情でなく。

 何か手の届かないものを見るような、そんな表情だった。


「ううん、いや、何でもないよ。それより……」


 少女は首を横に振ると、次の瞬間にはもう、いつものネロに戻っていた。

 そしてネロは再び口を開き、


「ウチ、教官から、『どこかのパーティに入れてもらえ』って言われてるんだよねー」


 と、素っ気なく言ってみせた。


「……パーティに?」


 エリックが首をかしげる。


「ウチ、ここに来たばっかりだからパーティに入ってなくて」

「ああ、なるほど」


 言われてみれば当たり前だ。

 だってネロは、今日転入してきたんだから。

 でもこの学院では皆どこかしらのパーティに属している。

 もちろん中には孤高を貫く者もいるだろうが、それらはサラの言葉を借りて言えば、「実力がある」奴だけだ。


「だから提案なんだけど……」


 もうここまで来れば彼女(ネロ)の言いたいことなんて分かる。


「ウチを、キミたちのパーティのどこかに入れてくれないかなぁ?」


 予想通りで来た提案だ。

 これに最初に声を上げたのは、エリックだった。


「う~ん……」


 しかしエリックの顔は浮かないでいる。


「可愛い女の子だし、できれば俺のとこに入れたいんだけど……ゴーサスが絶対うるさいんだよなぁ……」

「ああ……」


 確かに。

 あの律儀で堅物そうなゴーサスのことだ。

 ゴーサス自身が新メンバーを入れることに抵抗があるわけではないだろうが、"エリックが連れてきた"という点で、渋りそうだ。

 それにこういうことは、いくらリーダーといえど一人で勝手に決めるのもどうかとも言われそうだ。


「そっかー……」


 ネロはしゅんと肩を落とした。


「……何だよ」


 肩を落としたネロは、意味ありげに俺を見上げる。


「セツヤのとこ、入れて欲しいなぁ」


 ネロの金色の瞳が上目遣いで俺を見やる。

 ……なまじ可愛い顔してるから余計腹立つな。


「言っても俺一人じゃ……」


 アレンにちらりと目配せをする。

 すると、「別にかまわないよ」という視線を送り返してきた。

 むしろアレン的には、合宿の最終日にサラに言われた「あと一人欲しい」という言葉を気にして、出来るならばパーティに入れたいとすら思っているのだろう。


「……」


 俺とてあのサラの言葉が気になっていないわけでもないし、むしろその通りだとは思っている。

 俺がパーティ単位で認識しているのは、ミレイのパーティとトリスのパーティ、この二つだ。

 過去も合わせるならカーチスのパーティも入るだろう。

 そしてそれらは、全て四人以上で構成されている。

 ミレイのところは五人、トリス、カーチスのところは四人だ。

 対し俺たちのパーティは、俺、エレカ、アレンの三人。

 かてて加えて俺は戦闘初心者をまだ脱していない。

 魔術の発動に多少の自信はあるものの、それだけだ。


「セツヤ、どうかな……?」


 ネロが再び、上目遣いで見てくる。

 その目は決してからかっている目ではなく、真剣な眼差しそのものだった。


「……はぁ。分かった」

「え、ホントに!?」


 喜ぶネロに、俺は人差し指を立ててこう言った。


「ただし、条件がある」

「条件?」


 小首をかしげるネロ。

 そんなネロに、俺は告げる。


「ああ。条件は――俺と戦って勝てたら、だ」

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