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変態の夏休み⑤

男たちの正体

 男たちが去った後、すぐさまジェシカに先ほどのことを問いた。


「ジェシカ、さっきの奴らは……?」


 どう考えても不良に分類されるガラの悪い三人だった。

 特に、最後に現れたあの男。カーチスだけは、他の二人とは何かが違うと本能が言っている。


 ジェシカはしばしの沈黙の後、口を開いた。


「あの人たちは……私とパーティを組んでくれている人たちなんです……」

「……マジ?」


 予想打にしなかった答えに、俺は絶句した。


 あ、あれがジェシカのパーティメンバーだって?

 おいおい、悪いけどさすがにジェシカの趣味が疑われるぞ。


「ふむ? それは本当なのか?」


 エレカもにわかには信じ難いようで、腕を組みながらサラに問いた。


 すると、


「ええ、本当よ。彼らは正真正銘、ジェシカのパーティメンバー。前に資料で確認したことがあるわ」


 と言うサラ。

 学院の教官であるサラにこう言われてしまっては、信じる他ないのか……。


 しかしサラは、さらにこう続けた。


「でも、かなり問題のある生徒たちなのよね。特にあの坊主と銀髪は、クラス内でも他の生徒に悪質な絡みをして何度も厳重注意をされているわ」

「悪質な絡み?」


 俺は首を傾げてその続きを促した。


「ええ。……例えば、男生徒には平然とパシリ、女生徒にはセクハラ紛いのことを平気でやっていたわ」

「うっわぁ……」


 何か、聞けば聞くほどジェシカとパーティを組んでいるとは思えないな。

 つーか、やることが小さすぎるだろ。セクハラはともかくパシリって……。これじゃあ不良のなりそこないみたいなもんじゃんか。


「なあジェシカ。何であんな奴らとパーティを組んでるんだ?」


 サラの話を聞いている間も俯いて黙ったままのジェシカに聞いた。

 正直あんな態度を取ってくる奴らと一緒にいる理由が思いつかない。

 まあ、気の弱いジェシカのことだから、恐怖で言い出せないというだけかもしれないが……。


「そ、それは……」


 俺のその問いに対して、ジェシカ非常に言いにくそうにしていた。

 多分、ここで言ったことがまた彼らの耳に入ってしまうことを懸念しているのだろう。


 ただ、先ほどの男たちの態度を見る限り、これ以上彼らの傍にジェシカを置いておくのはかなり危険だ。

 多少なりとも関わってしまった以上、何とか解決してあげたい。


 ――そして数刻ほどの沈黙が続いた後。

 ジェシカは重い口を開き、こう言ったのだった。


「私から、組んでくださいってお願いしたんです……」





 ジェシカの話によれば、先ほどの三人の男たち――スキンヘッドのクシール、長髪銀髪のゼルゴ、そして筋骨隆々の大男カーチス――は、

 地方からやって来たジェシカが試験を受けるパーティを組まなくてはいけないということを知らず困っていたところに、声をかけてきたのだという。

 最初は三人とも愛想がよく、見た目は不良っぽいものの少なくともジェシカの目には善人にしか見えなかったそうだ。

 ただでさえ人見知りなジェシカが初対面の男たちの中に入るくらいなのだから、本当にそう見えたのだろう。


 そして無事試験を乗り越え、いざパーティとしての本格活動が始まった――あの合宿でのことだった。


 彼女は、クシールとゼルゴから酷いセクハラを受けた。

 どさくさに紛れて胸を触るのは勿論、酷い時には恐喝しキスまでせがまれたという。

 さらにそれをリーダーであるカーチスも目撃していたが、特に何も言わず見て見ぬふりをされたらしい。

 クシールとゼルゴによる執拗なセクハラは合宿が終了するまで続き、その後もこの長期休暇に入る前まで頻繁に受けていたそうだ。


 このことから彼らに対する気持ちがジェシカの中で崩れ、同時に、やはり自分がそういった目でしか見られていなかったということに酷いショックを受けた。


 そしてそんな時、俺からの誘いがあったというわけだ。


「…………」


 予想以上に深刻な内容に、俺たちは黙らざるを得なかった。

 サラも、そしてエレカでさえも、悲痛な表情を浮かべている。


「……ごめんね、ジェシカ。あたしがもっと早く気付いていれば、未然に防いで……!」


 悔しそうに奥歯を噛み締め、きつく拳を握るサラ。


「……大丈夫です。それに、サラさんは普段そんな頻繁に近くにいるわけじゃないのに、それで気付けっていう方が無茶なんです……」

「いいえ、教官として失格よ……。こんな生徒一人守れない教官なんて、教官じゃない」

「サラ……」


 サラは、生徒一人すら守れなかった自分を責め、悔やんでいる。

 俺とサラ、それからジェシカまでも、俯いた。


 そんな時。


「……いまは、嘆いている時間ではなかろう?」


 エレカが、声を上げた。

 その声は決して落ち込んでいる者の声などではない。

 強い意志が込められた声だ。


「エレカ……」


 ……そうだ、エレカの言う通りだ。

 いまは嘆いている時間なんかじゃない。

 悔やんでいる時間でもない。


 この状況から、ジェシカを救うんだ。


「でも……」


 ジェシカは両手を胸の前で合わせ、戸惑ったように俯く。

 だがそれでも、エレカはつとめて明るく、そして以前俺に向けて言ったように、こう言ってみせた。


「――任せておけ、全て終わらせてくる」


 その一言に、どれだけの意味が内包しているだろうか。どれほどの意志が込められているだろうか。

 ……俺は知っている。こういう時のエレカは、絶対に負けない。


「……よーし、お姉さんも少し張り切っちゃおっかなー!」

「サラは何をするんだ?」


 教官という立場上、あまり物理的なことはできないだろう。


「そうねぇ…………、そうだわ! あなたたちがこの問題を解決するまで、ジェシカをあたしの家に置いておくっていうのはどう?」

「つまり、匿うってことか?」

「そう。だってこんな状況でジェシカを学院に取り残すわけにはいかないでしょう? あいつら、何しでかすか分かったもんじゃないし」


 確かあのカーチスも最後、「覚悟しておけ」って物騒な顔で言ってたしな。

 このまま素直にジェシカを学院内に残すのはまずそうだ。


「そういうことなら、よろしく頼む」

「ああ、俺からも頼む」

「任せときなさい。……ああそれと、今晩はハリアブルーにある宿泊施設にお邪魔することになっているから、そのつもりでね」

「宿泊施設?」

「ええ。安くてかなりいいところなんだけど、食事だけは自分たちで用意しなくちゃいけないの。キッチンは各部屋に付いているから、食材だけ買ってから行きましょう」

「となると……夜は一応作戦会議でも開くか?」


 俺はエレカをちらりと見た。


「そうだな、作戦を立てておくことに損はないだろう」

「よし、決まりだ」


 こうして、ジェシカをカーチスたちの魔の手から防ぐ作戦が始まったのだった。

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