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変態の夏休み③

ぷかぷか。

少し昔のことを思い出して憂います。

 半ば強制的に行われた女性組の水着評会も終わったところで、ようやく俺たちは海水浴を満喫し始めた。

 レメリオル海水浴場の波はとても穏やかで、さすが観光地と謳われるだけあって海自体も綺麗だ。

 海水浴場の外から見ていた時でも分かったが、この海は沖合まで行っても下を向けば海の中が望める。

 前の世界でも綺麗な海は存在したが、ここまで綺麗な海はそうそう無い。

 波に身を任せて浮いているだけでも十分に楽しめる。

 

 ここ最近は怒涛の入学試験が終わってからというもの、慣れない魔術の授業に加えて冒険者としての基礎を身に付けるための合宿と、カリキュラムがいささか強引に組まれていたせいであまりリラックスする暇がなかった。

 休日はあれど、入学試験の時から目を付けられているケリスに呼び出されて雑務を押し付けられるため休日などあってないようなものだったし。


 少し離れた場所では女性組がわいわいきゃっきゃと水遊びをしている。……エレカだけはものすごい速度でバタフライしてるけど。

 俺もそれに混ざりたくなかったわけではないが、せっかくこんな穏やかな海なんだからと、こうして浮かぶことを先決したのである。


 ……遥か続く蒼い空に白い雲、そして透き通る広大な海。ふと視線を向ければ、果てまで続く水平線が見える。

 こんな海に浮かんでいると、前の世界にいた頃、というか地球を思い出すな。

 それは多分、"海"という存在が地球にも、そしてこっちの異世界テルカ・リュースにも存在しているからだろう。

 あっちの海とこっちの海は違うんだろうけれど、この水平線を見ていると、それを辿ればいつか地球に……前の世界に戻れるんじゃないかと思えてくる。瀬名に会えるんじゃないかと錯覚してしまう。


 だがそれは決して違う。違うんだと頭では理解してるつもりだ。

 俺はあの日、風呂場の浴槽に頭を打ち付けて死んだ。

 そして自らを『審判』と名乗る女神の力でこの世界に転生した。

 第二の人生は、ここで歩まなくてはならないのだ。

 そう、もう決して愛しの瀬奈には会えない……。

 だが瀬名に会いたいと憂うことはあっても、不思議とそれを悲しいと感じたことは無かった。


 何故だろう?


 答えなんて分かっている。

 こっちの世界に来てから出会った数々の人間のおかげで、俺は悲しまずに済んでいるのだ。

 ジェシカ、エリック、アレン、サラ、ケリス、話した数は少ないものの、ゴーサスやケビン、トリスたちだってそれに当たるだろう。

 そして、俺がこの世界に降り立ってから一番初めに出会い、話し、共に行動し、そして一番長い付き合いになる、エレカ。


 彼ら彼女らの存在が、俺に悲しいという感情を抱かせないのだ。

 この出会いははたして偶然なのか、必然なのか。

 人によっては偶然と言うだろうし、はたまた必然だとも言うだろう。

 それでもいまの俺なら、この出会いは偶然なのかもしれない、と思う。


 ――それから少しして。

 意識をまどろみの中に落とそうとしていた時、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。





「ビーチバレー対決?」


 エレカに呼ばれた俺は砂浜まで戻ってきていた。

 サラとジェシカもいて、俺が来るのを待っていたらしい。


「そう。これから四人で分かれて勝負をするのよ」


 ビーチバレーか。こっちの世界でも一応あるんだな。


「やるのはまあいいんだが、チーム分けの方法はどうするんだ?」


 俺はエレカたちを見回す。

 四人だし、チーム二人ずつに分かれるんだろうけど。


「そうね……指名制とかはどうかしら? あたしはエレカと組んでみたいわ」


 え、ちょっと待てい。

 お前とエレカが組んだらどう考えても俺たちに勝ち目ねーじゃねーか。


「ちょっと」


 俺はこのどう見ても負けな采配を通すわけにいかないと手を挙げる。

 全員の視線が俺に向いた。


「指名制だと公平感が無いから、グッパーで決めないか?」

「……ぐっぱー?」


 ジェシカが首をかしげながら言った。

 グッパーは無いのか。まあそれならルールを説明してやろう。


 という訳で、グッパーを説明してみせた。

 説明と言っても「手を握る形のグー、開いた形のパーを『グッパー、ホイ』のタイミングで全員同時に出して、同じ手の形をした者同士が組む」っていう簡単なものだけど。


「……なるほど。確かに公平性はあるな」

「だろ?」

「まああたしも絶対にエレカと組みたいってわけじゃないし。それに相手にしても楽しそうだしね」

「うん。私も大丈夫だよ」


 誰からも異論は上がらないみたいだ。


「よし、それじゃあ早速……」


 四人がそれぞれ輪を作り、片手を差し出す。

 グッパーは、普通のジャンケンと違って勝ち負けがないために基本的には運のみの要素となる。

 もちろん回数を重ねれば、誰がグーを良く出し誰がパーを何度も出すなどが分かってくるが、それは人数が多い時にしか発生し辛い。

 今回みたいな四人という少人数だと、一発で決まる可能性が十分にある。


「グッパー……ホイ!」


 俺の掛け声に合わせ、他の三人も同時に手を出す。

 結果は……。


「俺とエレカがパーで、サラとジェシカがグーか。と、いうことは……」


 俺・エレカチーム、サラ・ジェシカチームで分かれることとなった。


「それじゃ、よろしくね。ジェシカ」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「んじゃ、俺たちも気張るとするか」

「ああ。よろしく頼むぞ」


 チーム決めが終わったところで、俺は先ほどから気になっていたことをサラに聞いてみる。


「ビーチバレーの道具とかは持ってきてるのか?」

「それならここの施設で貸出してるわ。多分受付の子に言えば借りれると思うわ」

「そうなのか」


 早速入口の施設に向かい、受付をしていた女性に話し掛ける。

 すると、受付の女性はにこやかに対応してくれた。


「ビーチバレーの道具ですか? 確かにこちらにありますよ。ちょっと待っていてくださいね」


 そう言って奥に引っ込むと、しばらくしてから戻ってきた。


「よいしょ……っと。こちらが道具一式になります」


 受付の女性が奥から持ってきたのは、ビーチバレーで使うビニールボールと、ネットだった。


「ネットがかなり本格的だな」


 左右の支えが俺の身長よりも高いと思われるそのネットは、持ち運ぶのも結構大変そうだ。


「これらは今日中に返却してもらえれば構わないので、存分に遊んでくださいね」

「ありがとうございます」


 それを受け取り、女性にお礼を言ってから、俺たちは受付の施設を出た。





「い、意外と重い……」


 砂浜のビーチバレーが出来そうなところまで運ぶ役目は俺に回ってきた。

 ……まあ、男女がいて重い物を運ぶときたら当然男に回ってくるものだとは思うが、前の世界でザ・インドアの称号を得ていた俺なんかと比べるとずっと力がありそうな女性が二人もいるのに何故俺……。


「ほら、男の子がそれくらいで音を上げない!」


 先にボールを持って指定位置に着いていたサラが叫ぶ。

 ちきしょー……自分だけ軽いボール運んで仕事したような顔しやがって。


「はぁ、はぁ……これで、よしっと……」


 ネットの左右から支える二本の棒を砂浜に突き刺し、準備完了。


「よーし、準備は出来たわね?」


 サラがボールを脇に抱えながら、こちらに準備は出来たかと聞いてくる。


「ちょっと待て、最初のボールはそっちなのか?」

「あら、それもそうね。じゃあジャンプボールで決めましょう」


 話し合いの結果、向こうチームはサラがジャンプボールを担当するようだ。

 となればこちらは……。


「私が行こう」


 まあ、エレカですよね。


「じゃあ、ボールを投げるのは……」


 しまった、俺たち四人でピッタリだからボールを投げる係りがいないじゃないか。

 誰かに頼むか……。


 と、周りを見渡そうとして、俺は目を見開いた。


「うおっ!?」


 俺たちの周りには、何故か大勢のギャラリーが出来上がっていた。

 しかもそのほとんどが女性である。


「これ……もしかしてまたか」


 もしかしなくても、きっとそうだよな……

 集まった女性たちは、一様に俺を見ていた。

 学内じゃエレカのせいで収まりつつあったけど、本来ならこうなんだよ。


「な、何この人たち……!?」


 ジェシカは周りの異様な数のギャラリーを見て完全に怯えているようだった。


「はあ、相変わらずあんたは女性に人気ねえ……。確かに顔だけ見れば恐ろしいくらいにイケメンだしかわいいだけど」


 顔だけ見ればってなんだ。それじゃまるで俺が中身残念みたいじゃないか。

 ……まあ間違ってないけど。

 すると、サラが俺に向かってボールを投げながらある提案をしてきた。


「ボール投げる役、この中の誰かに頼めば?」


 確かに。

 これだけいれば誰かやってくれるか。

 となれば、誰が声を掛けるのかということだが……。


「じゃあ悪いんだけどさ。ジェシカ、やってく……」

「何言ってんの、あんたがやるに決まってんでしょ」

「……はい」


 ですよね。

 正直このやけにフェロモンを撒き散らしているかのような顔のせいで、若干女性に対する抵抗が生まれている俺である。

 気は進まないが、俺がやるしかないよな……。


「すいませーん……」


 俺は控えめな姿勢で、目に入った茶髪の女性に声を掛けた。


「え!? わ、私っ!?」


 女性はオーバーリアクションで自分を指さすと、周囲を窺うように見た。


「え、えっと……はい。是非やらせて下さい……!」


 そう言って、女性はあからさまに頬を染めた。


 ……うう、周囲の視線が痛い。

 俺がこの女性を選んだことで他の女性からの嫉妬の視線のようなものが飛んできている。

 とりあえずさっさとボールを渡して、試合を始めてしまおう。


「そ、それじゃあ……」


 女性は俺からボールを受け取り、所定の位置へ。

 そして腰をかがめ、ボールを投げ上げる。


「せーの……っ!」


 ヒュッと軽い動作で投げられたビニールボールは、重力に逆らいながら上昇する。

 そして、それを追いかけるように、エレカとサラは飛んだ。

 舞い上がる砂、太陽に反射して輝く二人の姿。

 上昇速度はどちらも同等。そして跳躍の高さに至っても大差無い。

 しかしこのままだと……。


「……もらったわ!」


 エレカよりも身長が高いサラの手が、先にボールを触った。それによってサラ・ジェシカチームのコート内にボールが侵入する。

 どうやら最初のサーブはサラ・ジェシカチームに決まったようだ。


「どうやら先手はそっちみたいだな。……ありがとうございました、急なお願いを聞いてくれて」

「い、いえ、そんな……」


 俺がお礼を言うと、女性はまだ顔を赤くしたままもじもじとしている。

 ……まあ、綺麗な女性にこんな反応されて悪い気はしないけどさ。


「さあ、先手も決まったことだし、さっさと始めてしまうぞ」


 エレカが少し苛立ちげに言った。試合がなかなか始まらないことに対してじれったくなってるのか?

 手伝ってくれた女性にお礼を言うくらいいいじゃないか。

 全く、エレカはこういうところで配慮が足りな……


「……!?」


 不意に、背筋に悪寒が走った。

 慌てて振り向くと、そこには俺を見てにこやかに微笑むジェシカの姿が。

 ……目が笑ってなかったんですけど。

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