トリス視点
トリスとリシアのおはなし
ケルティック学院に通う一年生が入学後一週間の魔術基礎を終えた後に行う一大行事、冒険者合宿。
今年の入学試験で好成績を修め入学を果たしたトリス、オダルパーフェイド、サンジット、リシアの四人も、もれなくその合宿に赴いていた。
そしてそんな自分たちと同じく入学試験で好成績を修めた二人が所属するパーティに対して、トリスはある勝負を持ち掛けた。
(何故……何故僕たちが負けるっ……!?)
勝負の結果は、トリスたちの敗北で終わった。
自身はあった。実力もあった。成績も満足のいくものだった。
だが、彼らはそれ以上の結果を持ってきた。
(僕たちはまだ不十分だったということか……!?)
トリスたち四人は全員同じ都市の出身で、小さい頃からよく一緒にいた。
小さい頃から冒険者を目指し、共に過ごし、実力を付けてきた。
冒険者に必要なことはここに入学する前から何度もやってきた。
だからこそ、入学試験のバトルロイヤルで好成績を残すことができ、さらに合宿においても、通称"鬼のレオ"と名高いレオ教官の指導の下で高レベルの評価をもらうことが可能だった。
だが、それでも……。
「トリス……元気出して」
紫髪の少女が、起伏の無い小さな声でトリスに話しかけた。
艶やかな紫髪は少女の目元を隠しており、普通の人なら表情が上手く掴めない。
だが、少女と十年以上も共にいるトリスには、その声音からはもちろん、僅かに見えている顔の動きだけで少女の言いたいことや気持ちが分かる。
「……ごめんな、リシア。こんな姿見せて」
少女――リシアはゆっくりと首を横に振った。
紫髪がさらりと揺れる。
「私が元気無かった時、トリスが励ましてくれた。今度は、私の番……」
「そっか。……ありがとうな」
リシアの頭を撫でる。
すると、リシアはくすぐったそうに首を縮めた。
「……こういう時間、久しぶり」
トリスとリシアはいま、誰もいない教室に二人きりだった。
「そうだね。地元にいた時なら二人きりっていうのはしょっちゅうだったけど……」
久しぶりのリシアとの時間。
ゆっくりと刻が流れ、誰にも邪魔されない。
手に伝わるリシアのぬくもりが、懐かしさを更に助長させる。
「……でも、サンジットもオダルも、大切な友達。……私も」
「うん。その通りだ」
トリスとリシアはいままでも、そしてこれからも親友だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
「いまみたいにトリスが落ち込んでたら、みんな励ます。だから……」
リシアはおもむろに身を乗り出し……
――トリスの頭を撫でた。
「……!」
リシアの小さな手が、トリスの頭を優しく撫でる。
彼女にこんなことをされるのは初めてのはずなのに、何故だかとても安心して。
それでいて、懐かしさすら覚えた。
「……落ち着いた?」
「おかげ様で」
トリスがそう微笑みかけると、リシアの顔が綻んだ。
この笑顔を見るたびに、自分の中に温かい何かが生まれる気がした。
「さ、これ以上ここで時間を食うわけにはいかないな。サンジットとオダルを拾って、これからの作戦会議だ」
「作戦会議?」
「ああ。打倒セツヤたち、だ」
そう、負けてばかりはいられない。
借りは必ず返すのだ。
――大丈夫、俺たちならやれるさ。