変態の冒険者合宿① ~ハリアブルー編~
今回からダウナートの外へと飛び出します。
新キャラも登場します。
各都市への移動は、学院が用意した馬車に乗って移動する。
毛並みの美しい白い馬が二匹。こいつらが俺たちを各都市まで送り続けてくれるようだ。
この白馬は学院長がかつて育てていた馬であり、足腰には自信があるとのこと。
「さ、乗って乗って」
操縦者席に座ったサラが手招きする。
それに従って、エレカ→アレン→俺の順で乗り込んだ。
中は一つの小屋のようになっており、俺たち三人が乗り込んでもまだまだ余裕がある。
「意外と広いんだな」
「ふむ、確かに。馬車にしては相当広いな」
エレカと素直な感想を述べていると、アレンが訝しげな目で見てきた。
「……馬車なんて位が高い人じゃないとそうそう乗れないものだけど、もしかして君たち、乗ったことあるの?」
しまった、日本じゃ特定の場所に行けば馬車なんてすぐ乗れるからうっかりしてた。
な、何て返そう……。
ふと横を見ると、何故か俺と同じように焦った様子のエレカの姿があった。
何でお前まで焦ってるんだよ。
「……、わ、私の叔父の知り合いが自前の馬車を持っていてな。
それに何度か乗せてもらったことがある」
おーい、声震えてるぞー。嘘だってことバレバレだぞー。
だがアレンは、両目をキラキラと輝かせながらこう言った。
「そうなんだ。それじゃあ今度、馬車の話色々聞かせてよ!」
「あ、ああ。時間があればな……」
アレンのその純粋な眼差しに、さすがのエレカも屈服せざるを得ないようだった。ご愁傷様。
しかし、このおかげで俺に対しての意識が低くなってアレンから逃げられ……
「もちろん、セツヤもね!」
「……はい」
逃げられませんでした。
「ほら、そろそろ出るわよ」
そんなことをしていると、サラが窓から顔を覗かせて言った。
「あ、ああ。分かった」
俺が言うと、サラは前を向いて手綱を操った。
それに従い馬は走り始める。
何か、意外とさまになってるな。
「ハリアブルーまでは二時間くらいよ!
それまでメンバー同士、どうやって行動するか話しておきなさい!」
サラが馬の足音に負けじと声を張り上げた。
二時間か。まあ窓からは景色も望めるし、話し合いが終わった後も退屈はしなさそうだ。
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「うええええぇぇぇ……」
二時間後、俺たちはハリアブルーに無事到着した。
到着したはいいが、死ぬほど酔った。
これ以上ないというくらいに酔った。
もはや初めて訪れた都市といえど、景観や街並みを眺める余裕などないくらいに酔った。
「おい、大丈夫か?」
そんな俺の姿を見てか、エレカが声を掛けてきた。
「だ、大丈夫……じゃないかも……」
話すだけでだいぶやばい。何かこみ上げてきてる。
つーか、馬車って本来あんなに揺れるもんか? 船の方がまだ揺れないぞ。
「あの馬は学院長が現役を引退してから学院を創る前に趣味として育てていた馬なんだけど、あの通りとんでもない足の速さなのよ。あたしも慣れるまで苦労したわ……」
サラはその大変な過去を思い出したのか、ちょっとどんよりとした。
「それより、あなたたち二人はよく平気ね?」
「馬車は初めてじゃないのでな」
「僕は生まれつき酔わないみたいで」
酔ったような素振りも見せず、エレカとアレンは平然と言う。
くっそ、こいつらめ……羨ましい……。
「とりあえずここのギルドに行くわよ。
そこで色々手続きして、行動はそれからね」
ケリスの説明にもあったが、そのギルドで市民からの依頼を請けたり、モンスター討伐の依頼を請けたりする。
ちなみに、ケルティックを卒業すると個人で動くかパーティとして動くかを決められ、パーティとして動くなら希望すればメンバーも集めてくれるらしい。
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歩き始めてから十分と少し経った頃。俺たちはある建物の前に来ていた。
茶色を基調とした落ち着いた雰囲気の建物で、正面には『冒険者専用施設 ギルド ハリアブルー支部』とある。
どうやら、この建物がギルドらしい。
「失礼するわよ」
サラが先頭を切って入口のドアを開けて中へと入る。
俺たちもサラの後に続く形で入った。
すると、中から声が聞こえてきた。
「おおサラ、待っとったぞ!
ということは、お主らがケリスの選んだ選抜組の一つ、ということじゃな?」
「へっ……?」
中にいた人物は、なんと白髪ロングの小柄な少女だった。
小柄すぎて、ひょこっと受付カウンターから顔だけを覗かせている。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんで子供がこんなところにいるんだよ?」
「む、子供とは失礼な奴じゃな。わしとて少しは大人じゃというんに」
お、大人!? どう見ても五、六歳くらいの子供じゃないか!
背丈も俺の腰辺りまでしかないし、顔付きも大人には到底見えない。
「ま、初見じゃどう見ても子供よね。
かくいう私も初めて会った時は子供だと思ったわ」
「サラまで言うか! それ以上言えば、もう仕事を紹介してやらんぞ!」
「ああ、ごめんって。それはこの子たちに悪いから」
「……冗談じゃ。それでは、軽く自己紹介でもしようかの」
そう言って、白髪ロングの小柄な少女はカウンターの奥から出てきた。
「コホン、改めて。わしはこのハリアブルー支部の受付をしておる、ベルトート・クインエイフルじゃ」
ベルトートは見上げる形で俺たちを見た。
小柄な少女の真紅の瞳に、俺たち全員が映る。
それから、俺たちは順番に自己紹介をした。
「……うむ。記憶力には自身があるでな。お主らの名前、しかと覚えたぞ」
「…………」
これ、俗に言うロリBBAとかいう種族ですか?
「じゃ」とか「わし」とか使ってる時点でそうだよね?
異世界にはこんな人間までいるってのか……。
「なんじゃセツヤ、わしの姿をじっと見て。惚れたか?」
「いやいや、俺にそういう趣味はないから。いたってノーマルだから」
「遠慮せんでもええぞ? わしはまだまだピチピチじゃ!」
「セツヤ、ベルは今年で四十五よ」
「こら、サラ! 余計な事を言うでない!」
「別にベルは年齢バラされたって悪い方には取られないからいいでしょ!」
キーっと睨み合う二人。
……このままほっとこう。
「それで、ベルトート。早速私たちに仕事を回してくれるのか?」
エレカが睨み合う二人に言った。
「……そう焦るでない。お主らはここが最初の都市じゃろ?
それならまずは、サラから冒険者としてのノウハウを教えてもらえ。話はそれからじゃ」
「そういうこと。それじゃ、諸々の手続き済ませてさっさと出かけましょう。
今日からしっかりと学んでもらうわよ~」
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サラが教えてくれたのは、戦闘技術に関してと市民からの依頼をこなす時のコツなどだった。
とは言ってもコツの方はほとんどかいつまんだ説明のみといった感じで、大半は常識的な判断さえできれば問題ないし、最良の方法なんてものはその時々で変わってしまうからあまり考えを固定化しないほうがいいのだそうだ。
よって、サラが俺たちにみっちり教えたのは、戦闘技術だった。
この世界には、数は少ないがモンスターと呼ばれる凶暴な生物が存在し、それらは『マナ溜り』と呼ばれるマナが異常に濃い場所から発生する。
モンスターには獣や巨大魚、果ては死神やドラゴンなど様々な形態が存在するため、それらに対応した戦い方を覚えるのには骨が折れた。
サラの教え方は非常に分かりやすく、且つサラの現役時代の体験談なども踏まえて話してくれるため、かなり説得力のあるものだった。
丸一日掛けて、サラは戦闘技術の基礎を俺たちに叩き込んだ。
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そして、翌日から本格的にハリアブルーでの冒険者合宿が始まるのだった。