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変態のライバルたち

エレカがミレイなら

主人公はってやつです

「失礼します」


 翌日、俺は昨日も訪れた学院長室に再び呼び出されていた。

 しかし今回の呼び出しが昨日と違うのは、呼び出された理由が既に明確であるところだ。

 中に入ると、いつもの椅子に座る学院長ケリスの姿と、その横にはサラ、そして見たことのない生徒が四人いた。


「あら、あなた一人で来たの?」


 サラが俺の一人姿を見て驚いたように言った。


「エレカとアレンは少し用事があって別で来るんだ。そろそろ来ると思うけ――」

「――君、サラ・クリスメイス技術教官に向かってその態度は何だね?」


 俺がサラに答えていると、見たことのない四人の生徒の内、背が高く眼鏡を掛けた男生徒がこちらに向かって話し掛けてきた。

 やたら神経質そうな男生徒は、眼鏡を指でくいっと持ち上げながら俺を睨むように見る。


「何だって言われてもなぁ……」


 俺は後ろ髪を掻きつつ曖昧な返事をする。


 改めて考えてみてもサラは目上の人間ではあるのだが、最初の頃からこういう接し方でサラ本人も咎めないしでいまの接し方が定着してしまった。

 故に大抵の年上の人物にも砕けて当たるのが癖になってしまったが。

 ……でも俺、自分が敬語を使うべきだと思った人には使うからね?


 しかしそんな俺の態度が気に食わなかったのか、眼鏡の男生徒はさらに激昂する。


「君は目上の人間に対して敬語すら使えないのかと言っているんだ!

 まったく、こんな人間が僕たちと同じ試験優秀者だとは思えない……」

「まーまーオダっち、そう怒んなっての。いーじゃんか少しくらい砕けてたってよ」


 激昂する男生徒を、また別の男生徒が止めに入る。

 両耳にピアスをした、見るからにチャラチャラとした男生徒だ。


「う、うるさいっ、砕けに砕けている君が言うか!? それと、オダっちはやめろと何度も言ったはずだ!

 僕の名前はオダル! オダルパーフェイド!」

「まあまあ落ち着いてよ、オダル」


 沸騰したやかんのようになった男生徒を、今度はまた別の男生徒が宥める。

 激昂する男生徒よりも身長が高く、一八○センチ後半くらいだろうかと見受けられる。

 薄めの茶髪は短く切り上げられていて清潔感が感じられる。

 顔はさわやか系イケメンという感じな上に、声にまでさわやかさがにじみ出ている。もはやさわやかという概念から生まれ出たといっても過言でない。


 総合的に見て、初見には間違いなく好印象を与える人物だ。


 ――うわぁ、こいつ相当モテそうだなぁ。

 現実の学校にいたら間違いなく生徒会長と委員長やってるタイプ。

 それにイケメンだし。どうやら俺とはベクトルが違うみたいだけど。

 ……フフフ、特別にこの俺のライバルとして認めてやろうか。


「ぐ……」


 さわやか系イケメンの男生徒が仲介に入ったことで、激昂していたオダルと呼ばれた男生徒は怒りを鎮めたようだった。

 それを確認すると、さわやか系イケメンが俺に頭を下げてきた。


「ごめんね、うちのメンバーがいきなり。ええっと……」

「安城刹也。セツヤで構わないぞ」

「……俺はトリス・イークル。

 この眼鏡の男はオダルパーフェイド・ケイリス、長いから愛称も込めてオダルって呼んでやってくれ。

 ピアスを開けてるのはサンジット・スミス。それと、こっちの女の子はリシア・アーヴィントだ」


 トリスに言われて、いままで彼の後ろにいて喋っていなかった女生徒――リシアがペコリと頭を下げた。

 紫色の髪が目元を隠していて表情がうまく読めない少女だ。


「今後ともよろしくな」

「お、おう、よろしくな……」


 ……って、流れるように握手してしまった。

 つーかこの四人はいったい誰だ?

 全員見たことないと考えると、レイト教官のクラスの生徒たちだろうか。


 そんなことを考えていると、ケリスが言った。


「――どうやら、アントマーさんとコンカーシュさんが来られたようですよ」


 言うと同時に、学院長室のドアが開かれた。

 奥からエレカとアレンが姿を現す。


 そして、ケリスは俺たち七人を見渡して口を開いた。


「それでは始めましょう。王都立ケルティック学院合宿カリキュラム、選抜パーティ二組の顔合わせを」





「……以上が、今回行われる合宿の内容です」


 数十分後、ケリスの口から合宿というものについての説明がされた。

 要約すると、以下の通り。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

・冒険者合宿とは、一昨日までに申請したパーティたちがそれぞれ、ここダウナートを含めたクリムゼルの主要都市五つのどれかに合宿として赴くことである。


・各主要都市にはギルドと呼ばれる冒険者組合施設が存在し、そこで市民などから出される依頼をこなしたり、都市の外に出てくるモンスターたちを討伐したりと、おおよそ冒険者として必要だと思われることを一通りこなす。


・合宿には複数のパーティに対して一人の技術教官――冒険者として活動するための様々なノウハウを教える役割を持つ教官――が就くが、入学試験で好成績を残した者が中心となっている一部の選抜パーティに関しては、それぞれパーティごとに技術教官が就く。


・合宿の日数は十日間。その中ではもちろん成績も付くし、結果次第では今後の評価に加点がされる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「――それで、あたしがあなたたちのギルドの技術教官になるってわけ」


 サラがびしっと俺たちを指差す。ついでにウィンクもしてる。これで歳がもうちょい若ければ普通に可愛く見えるんだがなぁ……。


「あの時の法螺がいよいよ現実になったってわけか」

「法螺とは何よ、法螺とは!」


 キーっと睨みつけてくるがここはスルー。


「それで学院長、俺たちの技術教官はどこに?」


 トリスが聞く。

 そう言えば、まだこいつらの技術教官らしき人物が見当たらないな。


 すると、


『どうやら、待たせてしまったようだな』


 入口のドアの奥から、男性の声が聞こえた。

 次いで、ガチャリ、とドアの開く音。


「あ、あなたは……」


 後ろを振り向いたトリスが驚いた表情を見せる。

 ドアを開けて入ってきたその男性は、赤い鎧を纏った騎士のような格好をした、堂々たる風格の金髪の男性だった。


「今回あなたたちの担当は、そちらのレオ教官にしていただくことになっています」

「そういうわけだ。よろしく頼む」


 ケリスに紹介されたレオという騎士姿の男性は、トリスたちに軽く頭を下げた。


「……なぁ、誰だ? あの教官」


 まだこの世界にそこまで詳しくない俺は隣のアレンに耳打ちした。


「レオ・ミニスター技術教官。

 代々王族を護ってきた王国親衛騎士団の若手エースで、たまにこの学院の技術教官もしてる。

 ダウナートじゃ冒険者と騎士団は仲が良くない印象があるけれど、実際はレオ教官みたいに冒険者に対して心を開いている騎士もいるんだ。特に、親衛騎士団に関してはそういった人が多いね」

「へえ……お前、物知りだな」

「生まれは別だけど、小さい頃に越してきてからはずっとダウナートに住んでるし、僕も冒険者を目指す前は騎士団に憧れたものだよ」


 騎士団……ここで冒険者という職業に就く以上、やはり頭に入れておかないといけない奴らみたいだな。


 俺がそんなことを考えていると、


「そうか、俺たちの担当教官はレオ教官か……ふふ、これはもらったね」


 トリスが不敵な笑みを浮かべた。

 あのイケメン、そんな顔もするのか。どっちにしろさまになってやがるのが少し腹立つ……。


「トリス、と言ったか。もらったとは何の話だ?」


 彼の発言を耳ざとく聞いていたエレカが問いた。

 するとトリスはその問いに答えるかのように一歩前に出る。


「……学院長。俺たちのパーティとセツヤたちのパーティで、勝負をさせてくれませんか」

「ほう……?」


 ケリスが興味深そうに目を細める。

 ……このイケメン、一体何を言い出す気だ?


 すると、トリスは俺の方を振り向きこう言った。


「僕たちと君たちとで、"成績勝負"をするんだ」

「成績勝負?」

「ああ。成績というのはもちろんこの合宿における成績のことだ。

 各地でこなした依頼の種類や数、それの難易度や達成度など加味したものを、僕が作った成績表に当てはめて計算する。

 分かりやすく、最終的に成績の多い方が勝ちとなるんだ」


 トリスが提案してきたのは、要するにどっちがこの合宿で優秀な成績を残すか勝負をしよう、というものだった。


「こちらが僕の作った成績表です、学院長」


 ケリスの机の上に一枚の紙を差し出す。


「…………ふむ、非常によく練られていますね」

「確かに、これなら公平な評価が付けられそうね」

「成績を付ける役目を私たち教官が受け持てば、何も問題は無さそうに見えるな」


 ケリス、それにサラとレオも差し出された紙を見て互いに頷き合いながら言う。


 そして、


「いいでしょう。その勝負、許可します」

「ありがとうございます」


 あっさりと、承諾してしまった。


「おいおい、こっちの意向は無視かよ」


 そうだ、勝手に話を進められても困る。こっちだって言いたいことの一つや二つ……。


 と思ってみるが、それを許さない二人が俺のパーティにはいた。


「選抜者同士で勝負……ふふ、中々どうして面白そうではないか」

「いいね、こういうのがあるとそれだけでやりがいがあるってもんだよ」


 エレカとアレンは俄然乗り気だった。


「さて、これで味方はいなくなったみたいだけど。どうする? セツヤ」


 トリスは窺うような視線をこちらに向けるが、その顔には「逃げられまい」といった自信の表情が見て取れる。


「……はあ、分かったよ。やればいいんだろ」

「よし、決まりだ」


 こいつ、どうせ俺が首を縦に振るのを分かってたろうに。

 まあ、モンスター討伐系ならこっちにはエレカがいるから問題ないし、その他の市民からの依頼も常識人の俺とアレンがいるから特に問題は起きないだろ。

 トリスたちの実力が分からない以上、こっちはこっちの全力を出すしかない。


「さて、話も纏まったところで、そろそろ向かってもらいますよ。

 他の選抜パーティはもうあなたたちよりも前に説明を終えて出発しています」


 そうか、俺たち以外にも二つ選抜ギルドがあったんだっけか。そことは交流があるのだろうか。


 すると、俺の顔を見ながらケリスがこう言った。


「残念ながら他のパーティとの交流はいまの時点ではほぼ無いと言っていいでしょう。

 このダウナートを含めた主要都市五つににそれぞれ一パーティずつ選抜組が配属されるので」

「何だ、そうなのか」


 他の選抜ギルドも気になるが、交流ができないならしょうがない。

 それにケリスの言い方だと、後に交流できる機会はありそうだ。


「他に質問のある方はいらっしゃいますか?」


 ケリスの問いに、誰も反応はしなかった。


「それでは、また十日後にお会いしましょう」

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