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変態の仲間

 次の日、俺はある行動に出ることにした。


 その行動とは、昨日の女生徒グループの動向を観察することである。


 昨夜はジェシカにまで心配を掛けてしまったが、一日経過して随分と頭もすっきりした。

 そしてそのすっきりした頭で考えついたのが、女生徒グループの動向を観察する、ということである。


 エレカは俺に対して何かを隠している。それは間違いないだろう。そして、昨日あの場でペンダントを取り返さなかったのには、何か理由があると思う。

 俺は女生徒グループの動向を調べ、彼女たちが何を企んでいるのかを見極める。そうすれば、彼女(エレカ)も今回の件に俺を加わらせることに同意するだろう。

 正直いまでも俺がエレカに対してこんな感情を抱いている理由がしっかりと分かっているわけではないが、そんなことを考えている暇はない。とにかくいまは、自分が決めたことをしっかりとこなすだけだ。


 とは言えその間にパーティメンバーも集めなくてはならないから少々大変ではあるが。


 とりあえず、まずはあの女生徒グループをしっかり監視してと……。


「ようよう、セツヤさんよ。どうしたんだい?

 そんなに彼女のこと見つめちゃって」


 俺が改めて女生徒グループに目を向けると、横の席に座るエリックが話し掛けてきた。

 彼には今回の俺の行動について言っていない。そもそも隠れて彼女らを観察するわけだから、彼女らにはもちろん、他の誰にも見つかってはならないのである。


「……ん? いや、別に見てないぞ」

「いやいや、思いっきり見てたじゃんか」

「見てないって。そもそも彼女って誰だ?」

「誰ってそりゃあ……」


 言って、エリックが指差した方を見れば、エレカが授業を真面目に受けている。教官の言ったことを頻繁にノートに取り、一言も聞き漏らすまいと集中力を全開にしている。


「俺がエレカを? なんで見る必要がある」

「だって、ねえ?」


 ねえ? って言われても。そもそも俺はエレカなぞ見ていない。見ていたのはその近くの席の女生徒グループだ。

 エリック、どうやらお前はまだまだ人間観察がなっていないようだな。


「もういいだろ、授業に集中しよう」


 これ以上エリックに何か言われるのも面倒くさいのでさっさと話を切り上げることにする。

 非常に自然な態度エリックの意識を授業に向かせる。


 ちなみに俺は他人に心を図られないようにすることが得意である。それ見ろ、俺のこの迫真のシラ切り&話題逸らしでエリックも何の疑いもなくスルーして…………


「ふ~ん? あっ……なるほどね、そりゃそうかぁ」


 何故か一人でに納得している。……いやいや、まさか俺の演技に落ち度があったとでも? そそ、そんなわけあるまいて。


「ま、頑張れよ」


 にこやかに笑いながら背中を叩かれた。……こいつ、まさか気付いているんじゃなかろうな? 気付いている上で気付いていないフリをし、さり気なく俺の観察の応援をして……


 ……いや、さすがに考えすぎだな。あのエリックがそんな高度なことを考えているハズがない。


 ――それから時は刻々と過ぎていったが、問題の女生徒たちに不審な点は見受けられなかった。それは同じくエレカにもだ。

 強いて言うとするならば、いつもは後半の実技の時間にこっちまで来ているエレカが、その実技の時間になっても一向に来る気配がなかったことくらいだろうか。





 しかし放課後、動きがあった。

 女生徒グループが、そそくさと教室の外に出ていったのだ。

 しかし昨日と違うのは、その中にエレカはいないということだ。


 俺はエリックがいつものようにパーティメンバーたちとの集まりに出向いたところを見計らい、教室を出た女生徒グループを追った。


 本学舎を出てすぐ彼女たちは、入学試験も行われた広大な中央広場の中心に存在する小さな噴水に設置されたベンチ周りで話を始めた。

 俺はそれを木の陰から観察する。この位置ならば、ギリギリで彼女たちの会話が聞こえそうだ。


 グループ五人の内、ベンチにはあの水色髪の女生徒が堂々と座り、残りの四人はその周りを囲むようにして立っている、という構図だ。


「ミレイ。あんた、あの女捕まえてどうするの?」

「どうするのって、前に説明したでしょ? クリシー」

「あれであの女を二年の学内ランキング戦まで味方に付けようって話?

 私はそれ、無理だと思うわ。どうせすぐ取り返されるわよ」


 いま話しているのは、リーダーである水色髪の女生徒――ミレイと、緑に近い碧いショートヘアーの女生徒――クリシーだ。


 すると、


「クリシー、もしかして、ミレイの立てた作戦に何か文句でもあるの?

 前にも言ったけど、文句があるなら今すぐ消えてもらっても構わないよ?」


 リーダーのミレイに食い下がるクリシーに対して皮肉げに割って入ったのは、他の生徒より明らか背の小さい女生徒――セリアだ。

 この学院には、学年関係なく年齢様々な生徒が在学するが、あの背の小さい女生徒は年下にも見える。


 ……確かあいつ、昨日エレカのペンダントを持ってた奴だな。


 クリシーはセリアを鋭く睨み付け、セリアもまた、クリシーを睨む。


「やめなさい、あんたたち。

 身内争いなんて、見てるこっちが恥ずかしい」


 ミレイは争いを止めようと声を掛けるが、二人の睨み合いは一向に収まらない。


「ミレイ、本当にいまのままで行くの? 私は絶対に……」

「しつこいよ、クリシー? だから文句があるなら……」


 二人は引く気がない。

 そして、こらえていたミレイが口を開いた。


「――やめろって言ってるんだけど? 分からない?」


 瞬間、凍りついたように止まる空間。いままでの会話に入っていなかった残りの二人も、固唾を呑んだ表情である。


 ……まるで女王だな。やめろ、の一声で言い合いを制してしまう。なんたる能力だろうか。集団ってコワイ。


 そのまま観察を続けていると、ミレイが小さな溜め息を吐き話を始めた。


「……クリシーの言うことは尤もよ。

 あの女は恐らくこの学院の一年……いや、もしかしたら二年以上も凌駕する実力の持ち主だわ。

 でも、私がそんな相手に対して『大切な物を人質に取る』程度のことで終わらせると思う?」


 蛇が獲物を睨む時のような鋭い視線を送られたセリアは怯んだように萎縮してしまった。


「なら、他にどんな策を用意しているって言うの?」


 碧髪の女生徒、クリシーが言った。

 それに対しミレイは、


「これよ」


 と、服のポケットから小さな"何か"を取り出した。

 しかしその"何か"はあまりにも小さく、俺の位置からでは視認することができない。


「これを使って、あの女の魔術を封じるわ」

「魔術を……? ど、どうやって……」

「詳しいことは実はあたしもよく分からないのよ。

 ただ、これを使えばあの女の魔術を封じれるっていうことだけは確実よ」

「そんなすごいもの持ってるなんて、さっすがミレイ!」


 萎縮していたセリアは跳んで喜ぶ。


「ミレイ……何もそこまでしなくたって、私が……!」


 そんなセリアに対し、クリシーは取り詰めた表情をミレイに向けていた。

 しかしそんな彼女(クリシー)の眼差しがミレイに届くことはなかった。


「それでなんだけど、後封じるべきはあの女の武器。それについては……」

「はいはーい! 私の出番だよね!」


 はいはい! とセリアが手を挙げる。


「そ、明日あなたのあの魔術であいつの注意を逸らしている間に、武器に壊れやすくなる細工をしてもらうわ。

 やり方はあたしが教えるから」

「うん!」


 ミレイに頼りにされることがそんなに嬉しいのか、先ほどまでのクリシーとの言い争いがまるでなかったかのように笑顔を浮かべている。


 なるほど、それじゃああのセリアって女生徒がその魔術を使ってエレカのペンダントを盗んだのか。


 しかし、これはいよいよまずいことになってきたんじゃないか? 武器も封じられ、魔術も封じられとなれば、いくら強いエレカでも五人同時に相手にするのは不可能に近い。そうなると、エレカがミレイたちの言いなりになるのは必至だ。

 武器の細工、魔術の封印、どちらかだけでも俺が防がなければ……。


 どちらなら防げるかを考えていると、不意に背後から俺の肩が叩かれた。


「うわ――っ!?」


 いままでミレイたちの話を一言一句漏らさず聞こうと集中に集中を重ねていたため思わず声を上げそうになったが、上げる直前に何者かの手で口を塞がれた。


「声出したら聞こえちゃうよ、彼女たちに」

「……!?」


 俺の口を手で抑えていたのは――灰色の髪の男生徒だった。

 髪色に合わせるかのような白い肌に細い腕。まるで女性のような肉付きである。

 顔もどちらかというと中性的で、雰囲気的にはこっちの世界の俺に似ている気がする。

 そして、美しいまでの琥珀の瞳。……アンバーアイなんて初めて見たぞ。


 てか、この手をどけろ。これじゃお前が誰なのかを問うことも出来んじゃろがい。

 そんな俺の意図を察したのか知らないが、白髪の男生徒はスッと手をどけた。

 解放された俺は瞬時に誰かと問う。


「……っ、あんたは……?」

「いきなりごめんね、僕は君と同じクラスのアレン・コンカーシュ。

 自己紹介の時一番最初だったんだけど、覚えてる?」


 苦笑いしながらそう言う男生徒。

 しかし、アレン、自己紹介のトップバッター、と聞いて思い出した。


 ……そうか、確か読書と武器の手入れが趣味とか言ってた奴だな。

 それに、白い髪なんて前の世界どころかこっちの世界でも珍しそうだ。


「……いや、目立つ白髪だったからな。言われてみりゃ記憶にある」

「そう、それは良かった」

「んで、俺に何か用か? いま忙しいんだが……」


 と言っても俺が次にやるべきことははっきりとしたわけだし、もう退散してもいいと思ってた頃合だけど。

 するとアレンは、少し恥ずかしげに、目を中空で泳がせながら言う。


「実は……僕、前から君のことが気になってて」


 ……え? え?

 ハイ?


「それってどういう……?」

「え、えっと……なんて言ったらいいんだろう……」


 アレンはやたらと恥ずかしがっている。見た目の大人しそうな雰囲気からして知的で優しいイメージを持っていたんだが……。


 ……おい、嘘だろ? ここでまさかの、HでOでMでOな展開? いやいや、俺がそもそもそういう趣味じゃないんで、全然女の子が好きな変態なんで。


 アレンはしばらく思考を巡らせた結果、俺が思い描いていた言葉とは全く違う言葉を言い放った。


「……君と一緒に、パーティを組みたいなって」

「…………は?」


 予想外の言葉に、俺はそれ以上の言葉が出なかった。

 アレンはいまだ恥ずかしげにしている。

 しかししばらく俺が放心状態で返事をしなかったためか、慌てて話し掛けてきた。


「あ、あのー」

「えっ? あ、ああ。それで、何の話だっけ?」

「君とパーティを組みたいって話なんだけど……」 


 よ、よし。頭の中を整理しよう。


 まず、この白髪の少年が俺に対して「前から気になっていた」と発言。

 それを受けて俺は真っ先に"そっち"的な展開を想像してしまった。

 しかしよくよく話を聞けば、彼は俺とパーティを組みたいだけだった。


 つまり……、


「俺とパーティを組みたいってことか?」

「最初からそう言ってるんだけど……」


 変な目で見られてしまった。


「……ふう、それで。どうして俺なんだ?」


 俺は落ち着いた頭で浮かんだ疑問をアレンに投げた。

 そう、彼が俺を選んだ理由を聞きたい。


「君がメンバーを探してるって風の噂で聞いたから」


 包み隠すことなく、アレンはそう言ってみせた。


「お前もパーティ作成の波に乗り遅れたのか」

「まあ、そんなところかな」


 ……見たところ、特に問題もなさそうだ。話している感じ常識人っぽいし。


「ま、俺もお前の言う噂通り、パーティメンバーが集まらなくてどうしようか悩んでたところなんだ。俺なんかでよければ歓迎だぜ」

「それは、僕のお願いを受けてくれるってことでいいのかな?」

「ああ」

「そうか…………うん、ありがとう」


 アレンはどこか安心したような表情を見せた。彼もまた、俺のように悩んでいたのかもしれない。


 すると、アレンが思い出したように言った。


「それはそうと、どうして君は彼女たちを観察していたの?」

「……あっ!」


 そうだ、俺はあの女生徒グループを観察していたんだった。

 今日はもう十分収穫があったといえど、まだ話しているなら何か情報を漏らすかも知れない。


 慌てて噴水の周辺に目をやる。が、


「……い、いない」

「少し前にバラバラになって帰って行っちゃったよ」


 噴水の周囲は既に人っ子一人いなかった。


 ……まあ、いないものはしょうがないか。

 それにしても、今後はこいつと一緒に行動することになるのか。……エレカの件、どうしたもんかな。


 俺が少し考えていると、アレンの方から話を振ってきた。


「それで、どうして君はここで彼女たちを?」


 そうだ、俺はまだ質問に答えたわけじゃなかった。


「あ、ああ……」


 いや、もうこの姿を見られてしまったんなら話した方が楽そうだな。幸いアレンは今回の件に絡む奴と別段仲が良いわけでもなさそうだし、話せば協力してもらえるかも知れない。


「いや、実はな……」


 こうして俺は、パーティメンバーとなったアレンに事のあらましと自分の考えを話した。

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