変態の導入語り ※プロローグです
このお話は読まなくても物語の進行に差支えありませんので、主人公の変態ぶりを見たいという方でなければスルーして頂いて構いません。
俺――安城刹也には、四歳差の姉がいる。
確かあの時は俺が十八歳だったから、二十二歳だな。
いきなりなんだとは思うが、まあ聞いてくれ。これが、もうとんでもねえ美人なんだよ。
身長は女性にしちゃかなり高い、一七○センチ後半。
もちろん脚はスラッと長くて、細すぎず、太すぎず。いい感じに肉のついたしなやかな脚。
腰周りはまるでモデルなんじゃないかって思うくらい細くて、胸もデカイ。ほんで顔は、ちょっと可愛らしさが残りつつも、目が若干垂れ目だから大人の女性って雰囲気も出てる。パーフェクトだ。
ただし、料理だけはてんでダメ。勉強もできてスポーツもできてあの容姿だってのに、料理だけは絶望的なほどにヘタ。ま、それが可愛くもあるんだけれど。
でもさ、正直な話。これだけだと俺が何の前触れもなしに語り始める内容にしては少しおかしい、って言う奴もいると思うんだ。
だって、言ってしまえばただの美人な姉ちゃんの話、だろう? はたから聞けばただのシスコン。
血の繋がっている姉をそんな目で見るなんてどんな変態だよ。そう思う奴だって当然いるさ。
でも、ここで冷静に考えてみてくれ。男なんて生物は、みんな変態だろ?
自分の好きな女の子の身体を妄想したり、ちょっとエッチなシチュエーションを考えてみたり。
生物ってのは本来、本能的に子孫を残したがるんだ。だから変態的思考はある意味で本能のままに生きているという証拠になる。
本能のままに生きて何が悪い? 俺はそう叫びたい。
うおおおおおおおおおおお――――――
……すまん、脱線したな。話を戻そう。
俺はさっき、「血の繋がっている姉をそんな目で見るなんてどんな変態だよ」と言ったが、実はアレ、俺も同じことを思ってる。事実ちょっと気持ち悪いじゃん。
それなら何故、俺がこんなに自分の姉を女性として見ていると思う?
…………。
まあ、難しいよな。
よし、それじゃあ答えを教えよう。
っと、その前に。いいか? これを聞いた奴の中には俺を殺したくなる奴も出てくるだろうから、逃げるなら今のうちだ。特に、自分を二次元オタクとして自負している奴ら。
これから言うことは、全て本当のことだ。嘘なんて言わない。こんなところで嘘言ったってしょうがないからな。
いいか? 怖気づいた奴はもう全員逃げたか?
……よし。それじゃあ言うぞ。
俺の姉は…………義姉なんだ。
正真正銘、"血の繋がっていない"姉だ。
俺が確か、十歳の時に家にやってきたんだ。俺に何の承諾もなしに親たちが連れてきた。「刹也が一人で寂しいだろうから」ってな。正直あの時は「ふざけんな」って思ったね。
養子として家族が一人増えるのはいい。でも、それを実の息子である俺に何の報告もなしに勝手に連れてきたことに腹が立ったんだ。
でも、それはもう昔の話。
今じゃ俺と姉は仲がいいなんて言葉じゃ言い表せないくらいのあんなことやこんな…………
……コホン。
どうだ? どうせ俺の忠告を聞かずにこの文章を読んでしまった奴だっているだろう。残念だが、俺はもうそいつの責任を取れない。
……いいか、もう一度だけ言うぞ。俺の姉は、義姉だ。
戸籍上は姉弟として登録されているものの、実際に血は繋がっちゃいない。
もし俺と姉が結婚して子供を産んだとしても、血縁的には、安城家と姉の家の血が混ざった子供が生まれてくることになる。
……こんなの、画面の向こうでしか起きないと思ってただろう? 実際俺だってそうだ。
でもな、これは現実なんだ。
興奮だよ。興奮しかしねえよ。
それであのスタイルだぞ? しかも向こうは俺にデレデレと来ている。
これは男として、興奮しないのはむしろ失礼に当たると思わないか?
そうだ。俺はただ、こっちに好意を向けてくれている女性に対して礼儀を貫き通しているだけだ。何も悪いことはしちゃいない。
それにこう言っちゃなんだが、俺はまだいっさい手を出していない。ただ頭の中で妄想しているだけなんだ。
想像の自由が約束されている現代日本において、何も間違ったことなんてしちゃいない。
そうだ、俺は間違ってなんて…………
……おっと、少し感傷に浸っちまったようだな。まあ、気にしないでくれ。
え? 気になる?
――安心してくれ、その気がかりならこの後解決するさ。
さて、そろそろ時間だ。俺の過去話はこれくらいにして、早速物語を始めよう。
でもまあ、いま思い返してみれば、俺にあんな美人な姉がいなかったらこんなことにはなってなかったんだろうな。そういう意味じゃ、この話も全くの無駄ってわけでもない。
……よし、それじゃあ準備はいいか? これから始まるのは、ある一人の男が歩んだ短い命の物語。
でも男は、その人生を後悔しちゃいないかった。やりたいことを全てやったわけじゃないが、最期はとても達成感に満たされていた。そんな人生だった。
俺の案内はここまで。後は、お前自身のペースで、この物語の行く末を確認してくれ。
――――それじゃあな。