胸付き 出撃 前編
2065年 5月5日 時刻12:09 中部エリア19ブロック ポイントD地点
ポイントD地点での自衛軍と反政府組織「NRAC」の交戦は勢いを増した。
戦鋼人による疑似的な人対人の、いやディテールを拡大させただけの銃撃戦が森林地帯で起きているのだ。引き金を絞る事で数十ミリの銃口から火を吹いて弾丸が飛び、向けられた先へと進んでは触れた対象を穿つ。
弾丸の口径は軍人が持つアサルトライフルとは比較にならない程の質量を持ち、場合によっては砲弾と見紛うことも無理はない。それが発射されれば周囲に被害が広がるのは安易に予想できる。
反政府勢力「NRAC」が強奪した機体――自衛軍が配備している第一世代相当の瑞雲――が樹林の間から放つ90ミリカービン銃の弾丸は、密集する森林の幹を抉り、次々と倒壊させる。相手が国外からの襲撃であれば幾分か対応できるが、国内の反政府勢力とあっては些か厄介となる。
元々、強奪した機体には国内で運用していたものが数機含まれている。各地で勃発する反政府勢力の活動は枚挙に暇がなく、政府の方針に反対する者がいればその中に紛れてテロリズムを行う者もいる。国内でテロリズムを行おうする者は後を絶たず、海外で頻発している国際テロと比べれば規模は小さいものの看過できない状況にある。
国家、民族、思想、宗教。それらに相当或いは準ずる者が、敵対する「相手」にテロリズムを行う事自体は最早珍しい事ではない。国家間が戦火を広がらせているのであれば尚更だ。世界は各地で紛争の芽を育ててしまっている。
その芽は当然ともいうべきか日本の地にも生え出でていた。
度重なる震災で衰退した日本は国力の増強、経済の復興、国土防衛の強化を唱え、保守的な体制と経済中心の社会を形成した。
徐々に下落する経済状況と激化する民族紛争(或いは冷戦とも例えられる睨み合い)。
その中で立場や解答を曖昧にしてきた日本が取る選択としては妥当と云える。しかし、
その判断と徹底的な体制の強化が、反発的な感情を源とした紛争を萌芽させてしまったのだ。
「NRAC」は日本国内で反政府組織として活動し、その勢力を年々増やしている。当初は昔年からの革新的思想を持った集団でしかなかったが、政府が保守的な体制を固めると共に活動の幅を拡大し、世間に知られるようになった。世界各地で暗躍するテロ組織と呼応し、現在では自衛軍でも手に負えなくなっている。
その人員構成として多くが無法者と見做されているが、老若男女を問わず様々な出身や事情を抱える者が参加しているという。別々のメンバーが纏められて集合しているという事もあり、烏合の衆ながら厄介でいくら検挙しようが参加する者は後を絶たない。
ポイントD地点において自衛軍を相手に発砲する、NRACのパイロットもその中の一人に過ぎないのである。
「リーダー!! 自衛軍の奴ら、俺たちに恐れ慄いて姿を隠しましたぜ!! いい気味っすよ! どうします、このまま追撃しますか!」
前面モニターに自衛軍が駆る戦鋼人の後退する姿が映り、徐々に遠のくのを確認して悦楽に浸った。気にならない敵を自身の手で排除すればさも当然か。
JTAF-17TM瑞雲のコクピットで操縦桿を握り、モニターの通信映像を見る。
「いいや、俺達の出番はここまでだ。他のポイント地点に置いた仲間がやられた。こちらの戦力が削れてしまっては意味がない。この地点から脱出するぞ」
NRACが強奪した戦鋼人の一機―JATF-19 機体識別名「烈風」―に乗ったパイロットが通信の相手だった。おそらくはこの男がリーダー格なのだろう。パイロットスーツの上から鍛え上げられた体格がはっきりと露わになっている。
彼の他にも幾つかの機体からの通信回線が開く。男女が混交しているが共通して十代の若者たちであった。
彼らはリーダーの言葉に不満を感じ、異論を唱え始める。
「しかし……リーダー、自衛軍の奴らがおめおめと逃げているんですぜ! アイツらを蜂の巣にしてブチのめさないと気が済みません! リーダー、追撃の許可を!」
「そうです! 右翼のアイツらを一泡吹かせてやらなければ!」
「いいや徹底的に潰さねば! 老害どもに犬以下の扱いしかされない畜生の我等の存在意義を見出す為にも! 」
「そうだ! 経済中心主義に塗れた官僚共や犬を蹴散らすんだ! 一人残らず!」
各員の怒号が通信映像で飛び交う。それをリーダーは制止することなく聞くだけで、寧ろそれを聞いて笑みを浮かべていた。
「お前たちのその心意気は理解できる。俺もお前たちと同じだし、出来ればそうしたい……が、焦っては何も得られんし何も変えられんぞ」
「そんな事、わかっています! ですが!」
「第一お前たちがいてこその組織だからな。官僚主義が蔓延した政府に対抗できる力を持つのはお前たち若者なのだ。これはお前たちの為の戦いでもある。だから一人たりとも命を粗末に扱うわけにはいかん。自衛軍に臆する性分ではないが、侮ってはならんぞ」
「リーダー……!!」
「なぁに、この戦いは今に始まった事ではない。長期に渡る我等NRACの正当な戦いなのだ。俺達が官僚や保身に走る老害共を排除すれば、いずれは賛同者を得られよう。一人一人の力では微小なものでしかないが、集まれば何かを変え得る巨大な力となる。現にNRACがそうであるように。だからこそ俺達は結束して戦うのだ、価値のある人間としてな」
リーダーと慕われる男の言葉に多くの部下が酔い痴れ、一斉に「はい!!」と応答する。皆、彼にある程度の信頼と敬慕を寄せているようだ。彼らの感情はリーダーの口から紡がれたものの一つ一つによって一気に興奮へと高まっている。それが彼らにとって良い効果を齎すのだろうが、狂気ともいえなくもない。
この地域で起きているNRACの活動は自衛軍の手で徐々に鎮まりつつある。複数の地点で自衛軍に対しゲリラ的な攻撃を繰り返していた者は、機体が戦闘不可能となり投降している。陸上部隊の――今となっては機動性に遅れをとる10式戦車――支援砲撃もあり、鎮圧は目前までに達しようとしていた。
各国の技術的な思惑もあるが、人型兵器には戦闘機のような緊急脱出のための装置は取り付けられていない。構造上としてそのような装置を取り付けるのが困難にあるからだ。兵器の運用思想によっては可能ではあるが、それはまた別の姿形を取ることになるだろう。
今回のNRACの攻撃は暫くすると徒労に終わってしまうだろう。味方の機体はまだそこまで被弾しているわけではないが、自衛軍は此方を上回っている。まともに相対すれば一溜りもない。
「俺達の目的は既に成った。官僚主義の犬に噛まれた同胞には悪いが、俺達は戦略的撤退をさせてもらうとしよう。なぁに志を同じくする同胞は後から何人でも現れるのだ。いずれは貴様らの切実な願いも届くであろう。その時まで戦い続けるのだ」
何人が途中の路道で倒れようが問題ない。同志は幾らでも現れるのだ。今はここを退散するだけで良い。どうせ命令の主に咎められることもないのだから。
男は退却する旨を皆に伝えることにした。
「いつまでもここにいないでさっさと退却するぞ。自衛軍の奴らに居場所を察知されないようにな」
「了解しました。早速……ん?」
自分を慕う部下との通信から聞こえた懐疑を逃さず、リーダーと呼ばれる男は「どうした?」とすぐに問うた。
だが部下の返答が届く前にそれは己の聴力と視力を以てして瞬時に判断した。センサーに何らかの反応が感知され、警告音が喧しく鳴ったのである。
男が確認すると、三面モニターのセンサーに表示された赤色光点は高速で此方に向かっており、その距離を確実に縮めていた。しかも信号は「UNKNOWN」と示しており、機体のデータバンクにないという事実を示していた。
「二時の方向から熱源の移動を確認、未確認の不明機が一機だけ移動中!」
「行方のわからぬ不明機か、それが一機でこの地域をうろついている? 妙だな」
全員がセンサーに映る行方不明機を訝しんだ。
彼らが顔を傾げるのも当然で、NRACであれ自衛軍であれ機体が味方なら青、敵なら赤と判断できる。センサーには敵機の反応を示す赤色光点が表示されている。誰の目でも明らかに敵機と理解できるだろう。
しかしセンサー内の赤色光点には「UNKNOWN」の単語が先程から表示されている。本来であれば機体名が表記される筈だが、データバンクにはない以上機体が判別できない。
不明機の正体が何なのか判別しようがないのだ。
NRACの機体かそれとも自衛軍の機体が此方に向かっているのかさえ、此方には一切の情報が伝わらない。前者であれば他のポイント地点から辛くも逃げてきた機体か、後者なら増援として移動中の敵機であろう。どちらにしても奇妙である。
仲間の一人が驚愕を交らせた声を漏らした。
「こ、このスピードは……時速1000km以上!? は、速い! 速すぎます!!」
「何っ!?」
通信映像に映った部下の表情に動揺が走り、不安が漂い始めた。余裕を打ち消されたリーダー格の男は、それを払拭しようと怒号を放った。
「落ち着け、そんな事は俺のセンサーでもわかっている! それよりも未確認機のデータを詳細に確認しろ!! いくら何でも速すぎるぞ! 航空戦闘機の類じゃないだろうな!?」
「いえ、戦闘機にしては高度が低すぎる! 高度40メートル、森林地帯をスレスレで通過! どう考えても戦闘機とは思えない!」
「それに! 今回の戦闘には自衛軍の航空戦闘機は含まれてないはずです!」
「じゃあ、何だ新手の自衛軍がやってきたとでもいうのか。データバンクにない機体だぞ、ASF(Airlift support fighter―空輸支援戦闘機)や雲龍などではないというのなら何と説明すればいいのだ!」
その間にも「UNKNOWN」と示された不明機の赤色光点は距離を徐々に詰める。数秒もかからずに縮める速度は刹那とさえ云えた。
不明機の正体が露呈されたのは、彼らが機体のセンサーの警告を察知してから間もなくだった。
「来ます!! どうしますか!」
味方か敵か。
それさえも判断できない状況下で操縦桿を動かし、自身が搭乗する機体を警戒態勢に身構えさせた。
「これは友軍機ではない。お前ら、迎撃態勢を構えろ、不明機が何の応答もなしに近づくようであれば撃墜も辞さない!」
その後――ズズゥン、と。僅かながら地鳴りが轟いた。
NRACの一員が搭乗する戦鋼人を取り巻くように、UNKNOWNと示された人型の機動兵器――まさしく戦鋼人が降り立ったのだ。それは戦闘機が水平に滑るように着陸するのではなく、まさに天から人ならざる者が降りたとしか例えようがなかった。
どこからともなく飛来した戦鋼人は膝を屈めていた状態から立ち上がり、その全姿を土色の粉塵の中から晒す。
「何だ、アレは……戦鋼人か? それにしても……あの姿は一体……」
不明機はNRACが搭乗している機体とはこれまた異なる姿を象っていた。
黒鉄の彩色、エメラルドのデュアルアイ、頭部の後ろから伸びる髪のような繊細コード、ふくよかな胸部、ほっそりとした体躯に装備された装甲、二つの膨らみのある胸部、推進機関としての役目も持った鋭角な形状のサイドアーマー、背部のバーニアの上の背骨の様な形状、女性が履くヒールに似た足部――誰が見ても明らかに一線を画した姿の戦鋼人であった。
熱を帯びた機械でありながら排熱口は見当たらず、生物との中間に位置している。
まるで鎧を身に纏った女騎士か戦乙女のどちらかに捉えられよう。何よりも女型の戦鋼人だという事実がNRACには信じ難かった。
「お、おおおおおおお女の姿をした戦鋼人だと……そんな機体、データバンクどころか一度も見た事もないぞ!?」
そうNRACの人員が言う通り、誰一人として「女性型の戦鋼人」を目撃していないのだ。
存在するとされる天才学者「御内瀬戸」が図案・設計し、エステル・インダストリー社が開発した人型機動兵器。そう名称付けられた以上、「人型の兵器」である概念は既に根付いている。
各国の運用思想によっては腕部や脚部が人間とは異なり、武器との併用・換装の都合上必ずしも人型とは言い難い。それでも定義として「人型機動兵器」と分類されているので、設計思想は人間のそれと似たものになる。
とはいえ只の兵器に男だとか女だとか性別を意識させるデザインやフォルムなどない。
だが今まさに降り立ったばかりの戦鋼人は、「女性型」と捉えても良い程に象っており、美麗な女性の彫刻像を思わせた。実物を直接見た者は彼らの中にはいないが、ミロのヴィーナスやサモトラケのニケを想起させる。
不明機の存在に圧倒され、硬直を続けていたNRACの人員の一人が震えながら言葉を紡ぐ。
「ま、まさか! あの女性型の戦鋼人、独立機動小隊F-IGHTの戦鋼人……イノセントなんとかなんじゃないの」
「ええっ!? じゃあ噂は本当だったっていうのかよ!? 自衛軍とは別に設立されたっていう、少数精鋭の私設軍隊の噂!」
「新ソ連の精鋭部隊連中を単機で渡り合ったって話も聞いたぞ! ヤバイ奴じゃねぇか!?」
「じゃあ、アレはその私設軍隊の中で最も優れた戦鋼人の……最強の人型兵器……!!」
「胸付き」「イノセント・ハダッサー」と。
タイミングでも合わせたのか、口を揃えて女性型の戦鋼人の機体名と俗称を口にした。
共有する情報では「女性の姿を象った戦鋼人が存在する」というものが含まれていたが、あくまで噂という形でしか聞いていない。そもそも自衛隊と志は同じくしても行動を別にする私設組織など、存在すら怪しかったので俄かには信じられなかったのである。
日本政府への反乱活動の過程で、度々そのような組織との存在と交戦を行った者の情報を取得しようが懐疑的であった。だが、それはこの瞬間を以てして疑いようのない事実と化した。
周囲を敵機で囲まれながらも平然とした状態で「胸付き」は静かに佇んでいる。臆するどころか、まるで余裕とでも言わんばかりに佇んでおり、敵機の害意を煽っているようにも思える。
「胸付き」の俗称を持つ戦鋼人のコクピット内で搭乗者――すなわち上総井瀬音は操縦桿を握り締めて全面モニターに映る敵機を見つめた。
「烈風、瑞雲、ガニ・エスター、ガングード、武威……自衛軍が送った機体データの通りだ。全て該当している」
自衛軍から送信された、NRACの使用する機体はどれも強奪、或いはテロリストから受領されたと窺える物ばかりである。NRACに潤沢な資金があるのかは計り知れないが、国外からの機体も入手している。
例えば瑞雲と同時期に開発され、人型機動兵器としての存在価値を見出したFD-EI02――識別名称「ガニ・エスター」は、現在アメリカ合衆国を中心にNATO軍などで配備されており十数年の月日が経った現在でも各地で運用されている。最新鋭機の配備により若干の性能劣化も見られ、エステル・インダストリー社が開発したということもあって鹵獲された事例もある。瑞雲とは違い、盗用された技術で生み出された機体もあってか有名性・汎用性はそれなりに高い。
中でもЦио-Tго79(NATO軍登録コード Tsi-1)「ガングード」はガニ・エスターの技術を引き継いでいると云える。新ソ連のツィオルコフスキー設計局で開発された当機は、瑞雲とガニ・エスターが開発・量産された翌年にその姿を晒している。エステル・インダストリー社が確立させた技術を真似たような機体で、技術盗用があったとしか思えない程に見事に仕上げられているのだ。
機体の性能差こそ大差はないものの、後に運用されたAK-147アサルトライフルの性能で米軍の人型兵器を相手に圧倒している。
武威は中華人民共和国における人型兵器ではあるが、こちらは技術がまだ確立してなかったのか手部がなく、腕部がミサイルランチャーとライフルを兼ね備えた発射口となっている。
特徴と性能に差異はあれど、増えれば強大な戦力に成り得る数々の敵機を前に「胸付き」は悠然と構える。
その「胸付き」のコクピット――タッチスクリーンのパネル内では、「I-lis」が腕を組んでいた。
それもドヤ顔で。
「フッフーン、NRACの奴ラ瀬音とアイリスのカッコいい登場に驚きヲ隠せズ、一歩も動けないミたいネ。それトも私のイノセント・ハダッサーに見惚レて、投降すル前に華麗な姿ヲ見納めヨうとしてルのかしラ?」
「僕の考え得る限りでは後者ではないと思うけど」
「えェ、そうなノ? 舐めまわすような視線がアイリスとイノセントに注ガれてるヨうな気がしタけド。こういうノって視姦トいうやつヨね? 怖イ~」
それはNRACが搭乗している戦鋼人のメインカメラが注視しているからであろう。敵機が目前に現れたとなれば猶更だが、彼女の言う行為とは違う。
緊急事態に対応し、NRACの駆る戦鋼人がそれぞれのアサルトライフルの銃口を女性型に向ける。口径によって威力は異なるが装甲を貫通する威力は備わっている。
「胸付き」の出現でたじろぐ部下に対し、リーダー格の男が冷静に指示を告げる。
「お前ら、落ち着けよ。敵はたった一機なのだ、何も恐れる必要はない。たかが一機だぞ? エステルなんとかカンパニーなんぞが開発した、最強の兵器だろうが所詮は単機。優れた性能を持とうがそんなものは戦場では量産機と変わらんよ。戦いは数で決まるものだ」
「しかし……相手は独立機動小隊の戦鋼人『胸付き』!! 我々の戦力だけで太刀打ちできるでしょうか?」
「馬鹿が! 相手はたったの一機だぞ! こっちは敵機の倍以上もいるのだ! それにあのイノセントとかいう機体は、武器を所持していないではないか! 頭部オプションのバルカン砲だけだ、手ぶらで何が出来るというんだ! 一機を戦闘不能に追いやることぐらい造作もない!!」
「それはそうですが……敵はあの戦鋼人、『胸付き』ですよ? 勝算が――」
「弱音を吐くな! いいか、臆するなよ。奴はたった一機だ、発射態勢を維持しろ。奴が戦闘の意思を見せるようであれば即座に発射しろ」
NRACの戦鋼人が全機アサルトライフルでの発射態勢を構えた様子を、当然ながら瀬音とアイリスは確認していた。
武装はそれだけではない。敵機の中には四連195mm短距離誘導弾筒――つまりミサイルランチャーや、HG-3A炸裂手榴弾、対装甲振動剣「斬鋼刀」と様々であった。威力や効果は性能や状況によって左右されるが、相手にダメージを与えられるのは違いない。
しかし、敵機から戦鋼人を屠る威力を持つ銃口を向けられて尚、瀬音とアイリスは動揺を素振りを見せない。
「フーン、NRACの奴ラ、私達を相手に抗戦するツもりらしいネ。どうすル、瀬音? 敵は諦めるつもりないよ?」
「最初から投降するなんて考えてない。NRACだって遊び半分で戦っているわけじゃないんだ。必死にもなるし抗戦だってする」
「でモ、私達ダって~任務ニ就いてイるワケだかラ~。気を抜クワケにはいかないヨね~」
「僕だって生半可にやってないさ。 このままNRACの奴らをみすみす逃すわけにはいかない……必ず捕える!」
黒髪を靡かせ、中性的な容貌に明確な意思を醸す。
独立機動小隊F-IGHTの一員として務めを果たす為、瀬音は操縦桿を強く握り締めて前に押し出す。同時にコクピットが全面に押し出された。
「じゃア、戦闘開始ってコトね!」
駆動音とコクピットの震動を感じ、瀬音に宿る戦闘の意思を汲み取った彼女の瞳が爛々と輝いた。
「胸付き」ことイノセント・ハダッサーの駆動はNRACからも瞬時に判断できた。機体の右足が僅かではあるが雑草に覆われた土を踏み鳴らしたのだ。
それを確認したNRACのリーダー格が再び笑みを浮かべ、通信映像に映る部下に合図を下した。
一斉射撃の刻だ。
「今だっ!! あの戦鋼人に目にものを見せてやれ!! 戦闘は質ではなく量で制するものだという事をなァ!! ぜぇん弾発射っ!!」
「了解!!」
――ズダダダダダダダダダダダダダダダダンッッッ!!!
アサルトライフルの銃口が吠え、確実に仕留めんと「胸付き」の装甲目掛けて90mmの銃弾が放たれた。




