代用品たちの舞踏会 2
ハーウェイ「ここからずっと私のターン(ニヤリ」
サウが来て十日目
サウ以外の四人がハーウェイの部屋に集められていた。
「退屈よ」
いつものようにベッドに座っているハーウェイが開口一番にそう言った。
「退屈なのよ」
四人はすぐさま互いに目配せをする。
「姫様、どうなさいました?」
レストがかしこまって問う。
「サウが私を腫れ物のように扱うわ。まだ会って数日だけれど私に好意を持っていないことだけは確かよ。毎日彼と昼食を一緒に食べているのに話が弾んだことなんていちどもないわ」
そこまで言ってハーウェイはちょっと考えるそぶりを見せた。
「確かに私も仲良くなるために何を話せばいいのか。どんな話題を振れば会話が滞りなく進むのか。流行っている事柄とかは知らないわ」
ばつの悪そうな顔をする。
「でもあたり障りなくフォメノの気候の話を聞いたらなんて答えたと思う?
彼『天気なんていつも変わっているのにその質問に意味はあるのか?』って言ったのよ。信じられないわ。
他にも色々会話をしようと努力してみたわ。
そのたびにわけのわからない受け答えを返されるのよ。
『年は?』
『数えることに意味はあるのか?』
『好きな食べ物は?』
『赤い宝石』
『物じゃなくて食べ物ですよ?』
『ああ』
『……』
『フォメノでは何をされていましたか?』
『何とはなんだ?』
『あなたのやってきた仕事でもいいし、趣味などでもいいので教えてください』
『寝ていた』」
おかしな答えはまだたくさんあったが話している相手がレストなのでこれくらいで止めた。
一息ついて。
「でも彼はアーグラフの王都、このハクアの町を見物してみたいそうです。この町について私に質問してこないのが癪なのだけれど、あなたたちに案内をお願いできませんか?」
「かしこまりました」
ルリがお辞儀をする。
「それから…」
ハーウェイの歯切れが急に悪くなる。
四人はここからが本題なのだなと身構える。
「サウを案内するときに私も連れて行ってもらえないでしょうか?ここのところずっと長い間外に出ていないので息抜きがしたいのです。もう暇なときに本を読んでくれる人もいませんし」
「もちろん、いいですよ」
レストが間髪入れずに答える。
思っていたよりも無茶な要求ではなかったので身体の緊張を解いた。
「あんまり退屈ならサウに本を読んでもらえばいいのでは?」
「それはダメよ。それじゃあ、あなたの代わりをサウにやらせているみたいじゃない」
「僕の代わりをサウにやらせることはいけないのかい?」
「ちょっとあなたは黙ろうか」
ルリがレストに笑みを浮かべる。
レストはルリから発せられる気迫に引きつり笑いを返す。
「えっと、話を戻します。私が外出するときにレストとルークを護衛から外してもらいたいのです。出来そうですか?」
レストが意外そうな顔をする。
「王に頼んでみよう。クロトが護衛につくなら許してもらえるだろう。
しかし、なぜ僕たちを外すのかな?」
「あなたと町を歩くとほぼ確実に彼が付き人扱いされるでしょうから。
それから、これから一緒に外に出ることは控えたほうがいいでしょう。私の王位継承を反対する立場のものからサウとの不仲を疑われるかもしれませんし」
「わかった」
レストがうなずく。
コンコン
ハーウェイの部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
ハーウェイが入室の許可を出す。
ドアが開かれると、三十代後半に見える家庭教師が入ってきた。
「今日は。ミラ」
レストがさわやかに挨拶する。
「あらあら、皆様いらしていたのですね。出直してこようかしら?」
「いえ、大丈夫です。話はもう終わりましので。私の方からお願いしたのに、こちらこそ時間を過ぎてしまって申し訳ありません」
ハーウェイがお辞儀する。
「それでは僕たちはこれで」
レストを先頭に四人が部屋から出て行く。
「レスト頼みましたよ」
ハーウェイの声が後ろから追いかけてくる。
「わかってる」
とレストが返事してドアが閉まった。
部屋の中で今日勉強する科目をミラが告げた。
どうやら計算のようである。
ハーウェイの「ええ~」と言う声が聞こえる。
それを聞いてレストがクスリと笑う。
目の見えないハーウェイにとって計算は難敵だった。
(時間を見つけて今日習ったところを教えてやろう)
なんてレストが考えていると、
「よかったのか?」
ルークがレストに聞いてくる。
「何が?」
「何がって…
いや、気にしてないのならいい」
「最近僕に何か気を使ってないかい?」
レストが眉根を寄せて尋ねる。
『ハーウェイが結婚するっていうのにあなたが何も変わらないからよ。
ハーウェイが結婚するって聞いてあなたはどう思ったの?
それが私たちにはわからないのよ』
クロトが真剣な表情でレストを見据える。
「うーん」
レストは考える。
「嬉しかった…かな」
「は?」
クロトとルークが唖然としている。
声を出すと寿命の縮まってしまうクロトも声を出してしまっていた。
そんな二人を見て彼は答える。
「彼女の選んだ道だから」
彼は誇らしげに胸を張り、ここからは見ることの出来ないどこか遠くの景色に視点を合わせてそう言った。
クロトとルークが顔を見合わせる。
レストはそんな二人を見て、今度は踵を返し、歩いて行った。
ルリがその後をトコトコと小走りでついて行く。
残された二人は驚いた顔のまましばらくその場に固まっていた。
更新遅いし短くてすみません
でも絶対に途中で止めたりはしません




