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竜の到来 4

 一方その頃、レストとルリはアーグラフの市場にあるケーキ屋にいた。

「クロトの好物は栗のロールケーキでよかったな?」

 レストがルリに確認する。

「うん」

 ルリが答える。

「これで許してもらえるのか…」

「大丈夫だよ。クロちゃんは甘いものには目がないから、これでイチコロだよ」

 ルリが嬉しそうに答える。

 ここまで逃げれたらもうクロトの怒りも鎮まっているだろうと思っていたし、何よりクロトからロールケーキのおこぼれがもらえると期待していた。

「これ下さい」

 レストがロールケーキ丸々一本を指差し、店員に向かって言う。

「四千ギルになります」

 美人な店員が笑顔で返した。

 レストが「ほい」と言ってルリに右手を出す。

「ん?何かな?」

 ルリが不思議そうに首を傾げる。

「二千ギル」

 レストが当然のことのように言う。

「へ?」

「だから、割り勘でニ千ギル」

「お金持ってきてなかったの?」

「いや、あるけど元々の原因はルリだから」

 ルリは渋々お金を払うことにした。

 アーグラフでケーキは貴族の食べ物であり、一般人が気軽に買えるほど安くはない。

 ルリはこの国でそれなりに高い地位についており、このくらいの出費で懐が寒くなるようなことはなかった。

 しかし、ただで高価なお菓子を食べられるという期待を裏切られたルリは落ち込んでいた。

「それにしてもクロちゃんがあんなに怒ったのも久振りだね」

 ルリが気を取り直してレストに話しかける。

 レストはロールケーキの箱を持ち、ルリに背を向け魔法で冷やされたショーケースの中を覗きながら、

「そうだな」

 と生返事した。

「何見てるのー?」

 ルリがレストの視線を追うと、六分の一ピース二千ギルのいちごのショートケーキに行き着いた。

「よし、一ピース下さい」

 とレスト。

 レストは店員にお金を支払い、品物を受け取る。

 ルリがじと目でそのやり取りを見つめていた。

「そのケーキは何?」

「これ?これはハーウェイへのお土産だよ。一人で待たせてしまって悪いから」

「私にも買って」

「へ?」

「私にもケーキ買ってよ」

「よく食べ物をねだってくるじゃないか。あんまり食べると、その」

「なっ」

 レストが歯切れの悪い言い方をするので、ルリが何かを悟った。

 ルリが赤面する。

「なんてこと言うのかね。私は別に太ってなどいないというのに」

「ほう」

 レストがケーキを机に置き、ルリのわき腹をつまむ。

「ひゃあ」

 ルリが奇声を発する。

「おっ、乙女の体をっ」

 と言って、ルリがレストに飛びかかる。

 レストの体は戦士として鍛えられ、たくましい筋肉が付いていた。

 しかし、くすぐったさは感じるらしい。

 レストはルリにわき腹をつままれ笑っている。

 レストがやり返す。

 二人ともゲラゲラ笑ってじゃれていると、

 バン

 と机を思いっきり叩く音が聞こえた。

 音のした方を振り向く。

 すると、カウンター越しに美人な店員がこめかみに青筋を立てている。

 どうやら美人さんなのに独り身だったらしい。

「ケーキ買うの?買わないの?」

 レストはあまりの剣幕に気圧された。

 城への帰り道、ケーキの箱を二つ持ち、ルリが一箱抱えていた。

 ルリは鼻歌を歌いながら軽やかにスキップをしていた。

「そんなに急いだら潰れるぞ」

「んふふ、魔法で固定してるから大丈夫」

 レストも上機嫌な彼女を見て、同じ曲をハミングしだした。

 合ってる、合ってないで揉めたが、最終的にそれなりに合った。

 城まで二人の時間はとても早く流れた。


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