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スノーマン

クリスマス

 レストが目を覚まし、食卓へ降りると、すでに朝食が用意されていた。

「おはよう。ルリ。

 祭日なのにこんなに早くから起きてたのかい?」

 ルリが目を擦る。

「うん。

 祭日でもレストがいつもの時間に起きるの知ってるから」

 窓の外にはまだ日は昇っていなかった。

「ありがとう。

 そうだルリ、今日は君のパーティーに参加していいかい?」

「あれ?

 約束があったんじゃなかったの?」

「急に予定がなくなった」

 ルリが握りこぶしを固くしめ、飛び跳ねて喜んだ。

「やった。もちろんいいよ」

「いきなりですまない。

 パーティーに参加するために何か必要なものはあるか?

 店が始まればすぐに用意しようと思う」

「うーん、プレゼント交換するときのプレゼントとレストが何か食べたいものを買えばいいよ」

「わかった」

 レストはルリの用意した食事に手をつけようとした。

「あのさ」

 ルリがレストから視線を逸らしながら話しかける。

 レストは食べようとするのを止め、ルリの顔を見た。

「もしよければなんだけど、私も一緒に行きたいな。

 ダメかな?」

「いいよ。

 二人で行ったほうが楽しいし」

「そう、よかった」

 ルリはほっとした様子で花の咲くような笑顔を見せた。

 レストがその表情に見とれていると、ルリから叱責がとんだ。

「こら、早く食べて町へ行くよ」

「へ?

 今町へ出てもどこもお店やってないよ」

「いいから、早く食べるの」

 ルリが自分の作った料理を口に突っ込み、ハムスターのように頬を膨らませている。

「そんなに急がなくても」

「――」

「はいはい、口にものを入れてるときは喋っちゃダメだよ」

 レストは何故か急いでいるルリを尻目にいつも通りの速度で食べた。

 先に食べ終わったルリが恨めしい表情でレストを見つめていたが、レストはそれを無視した。

 レストが食べ終わるとすぐにルリはレストを引っ張って、まだどこの店も開いていない町へ行った。


その日の午後

 レストが町から自分の屋敷に帰ると、クロトとルークが暖炉のあるリビングにいた。

「よう」

 レストが声をかける。

「おお、家主がおかえりか」

 ルークが大仰に答える。

『どうしてあなたがここにいるのかしら?』

 クロトが不機嫌な様子を隠さずにつっかかる。

「ん、ルークから何か聞かなかったのか?」

 クロトがルークを見ると、ルークは左上に視線をずらした。

『何があったのかしら?』

 クロトが醒めた目でレストとルークを交互に見る。

「頼むから俺をそんな目で見ないで」

 ルークが情けない声を出しつつ、目でレストにヘルプを出す。

「あー、昨日だな。

 ハーウェイが夢で僕に会いにきた」

『あーら、いつの間にそんなに仲良くなったのかしら?』

 クロトが目を細めてルークを見る。

「ち、違う。

 昨日は召喚されて。

 夢を渡らせてほしいって頼まれて…」

『へ~、いつの間にか自身の召喚の術式を渡したのね』

「いや、えっと、それは…」

 しどろもどろになっているルークを見てクロトはため息をついた。

『まあいいわ。

 それでお姫様はなんて?』

「明日は、つまり今日はルリのパーティーに出ろと」

『それだけ?』

「ああ、それだけ」

『あなたは何も言わなかったの?』

「何か言う前に切られた」

『直接会いに行った?』

「いや」

 クロトが右手でこめかみを押さえた。

「どうした?」

『いや、何でもないわ。

 ただ彼女が何故夢を渡ってきたのかちゃんと考えてあげることね』

「o.k.」

 レストが何も考えずに答えたのを見て、深いため息を吐いた。

「もうこりゃどうしようもないな」

 ルークがつぶやく。

『そうね。

 さっきはあなたをにらんでごめんなさい。

 あなたには何の非もなかったわ』

 クロトはレストを見ながらルークに謝る。

「そ、そうだよな。

 今回は俺全然悪くないよな」

 ルークが便乗する。

「何故話の一部だけを聞いて僕が悪者にされるのか納得がいかないな。

 ハーウェイにだって何か事情があったのかも知れないじゃないか」

『話の一部だけを切り取れば悪者になってる自覚はあるのでしょう?』

「ぐっ」

 レストが言葉に詰まった。

『それでルリはどうしたの?』

 クロトがレストにおぶさって、寝ているルリを指差す。

「パーティーに参加してもいいか聞いたら二つ返事で答えてくれた。

 僕の分の食事を買いに行くことになって、一緒に行くことになったあたりから急にはしゃぎ始めて、昼に入ったカフェで昼食を食べた後、疲れて寝ちゃった」

『それでここまでおぶって帰ってきたわけね』

「そう」

 クロトがレストに近寄り、ルリの肩を叩く。

「いい匂いがする、もうちょっとだけ待って」

 ルリが半分覚醒した状態で寝言を言う。

 クロトがさっきより強めに肩を叩く。

「うーん。

 あれ?クロちゃん?」

『おはよう、ルリ』

「あれ?レストと買い物にいって…」

「お昼を食べた後寝ちゃったんだよ」

「うそ」

「あんな朝早くから飛ばしてたら疲れるよ」

「あああああああ、失敗した」

 ルリが落ち込んだ声を出し、顔全体を両手で覆う。

「どちらにしても昼までには帰らないといけなかったんでしょ?

 七面鳥の最後の仕込があるって」

「あああああああ、失敗した」

 今度は悲鳴を上げる。

「レスト、降ろして」

 レストがルリを地面に降ろすと、ルリは急いでキッチンに駆け込む。

「クロちゃん、やばいよ。へるぷだよ。

 手伝って」

 クロトは黙ってキッチンに向かい、夜のご馳走を作る手伝いに行った。

 リビングにいるのはルークとレストの二人だけとなった。

 レストがルークを見つめる。

「な、何だよ」

 ルークが若干怯えて身構える。

「いや、話しておけよ…」

「ムリムリムリムリ」

 ルークが首をブンブンと横に振る。

 しばらくルークとレストは見詰め合って、はあーと同時にため息をついた。

 二人とも部屋の温度がいつもより寒く感じた。

次の更新でスノーマンはおしまいです。

次の次の更新は代用品たちの舞踏会 5です。

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