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スノーマン

 次の日はルリと一緒に三人で町の東側を探したが見つからなかった。


 次の日は町の西側を探したが見つからなかった。

 その日は陽が暮れてから捜索を打ち切ることにした。

 帰る段階になってレストが言いにくそうに話し始めた。

「ハーウェイ、シュン、すまない。

 明日は手伝えそうにない」

「えー、どうして?」

 ハーウェイが不満げな声を上げる。

「町にちょっと用があってな」

「そうなの」

 ハーウェイが努めてそっけなく答える。

「レスト、シュンを持ってきて」

 そう言って彼女はレストから離れ、腕を前に出した。

 レストがシュンを見る。

 シュンがレストを見上げる。

「いいかい?壊さないように慎重にね?」

 レストがうなずき、シュンを持ち上げる。

 そのままハーウェイに近づき、伸ばした手に触れさせた。

 ハーウェイは手探りでシュンの形を確認し、抱きかかえた。

「やっぱり明日の用事はどうしても外せない?」

 ハーウェイが伺うようにレストに尋ねる。

「すまない」

「あのね、あのね。

 シュンがねどんどん小さくなっていくの。

 早く探さないと…」

「ハーウェイ、シュンを放して。

 手の跡がついちゃうよ」

 レストがシュンを受け取り、地面におろした。

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、明日は僕一人で探すよ。

 また、見つからなかったら次の日の朝にいつもの場所にいつもの時間で待ってるから」

「すまない」

 レストがもう一度謝る。

「いいよ、最初から僕一人で探そうと思ってたんだから。

 それじゃあね」

 シュンが二人から離れていく。

「ねえ、レスト。シュンの探し物見つかると思う?」

「…難しいだろうな」

 生まれたときからこの町に住んでいたレストが心当たりのある場所をほとんど当たったがのだ、もう探している木自体がなくなっている可能性が高かった。

「溶けてしまう彼のために何かできないかな…」

 ハーウェイが呆然とつぶやいた。

 その日はお城に帰った。


翌日


 コンコン


 ハーウェイの部屋がノックされた。

「誰かしら?」

「僕だよ」

「シュン!?

 どうしてここに?」

 ハーウェイが部屋のドアを開ける。

「どこにいるの?」

「ここだよ」

 ハーウェイがしゃがんで、手探りでシュンの位置を確かめる。

 シュンがハーウェイの手に当たるように動く。

「ほんとにあなたなのね?」

「うん」

“入ってもいいわ”

 ハーウェイが許可を出すと、シュンはハーウェイの部屋に入った。

 ハーウェイがすばやくドアを閉める。

「一体どうやってここまできたの?」

 ハーウェイは信じられないといった面持ちでシュンに聞いた。

「昨日、別かれた後、君たちのあとをつけてたんだ。

 お兄ちゃんは最初っから気づいてたみたいでね。お姉ちゃんを送った帰りに『何か用があるのか?』って聞いてくれたんだ。

 僕は『お姉ちゃんと二人でお話がしたい』って言ったらね。

 町からお城まで続く抜け道と、ここまでの経路を教えてくれたんだ。

 それよりもお姉ちゃん、ちょっと無用心すぎないかい?」

「そうだったのね。

 後、私は大丈夫よ。

 この部屋には私が招き入れない限り入れないようになっているし、この部屋で私に危害を加えようとするものにはありとあらゆる術式が妨害を行うはずだもの」

 ハーウェイが自信満々に言う。

「まあ、レストくらいになるとこの部屋に勝手に侵入できるのだけれど…」

 ハーウェイが苦笑する。

「それでお話って何?」

「あのね。

 クリスマスの話なんだけど。

 お兄ちゃんと一緒に過ごすんだよね?」

「そうよ。

 彼から聞いたの?」

「うん。

 この前、お兄ちゃんと二人で町を歩いてるときにルリ姉ちゃんとクロトさんに会ってね。

 お兄ちゃんはそのときにお姉ちゃんと約束があるってルリ姉ちゃんのパーティーの誘いを断ってるんだ」

「ええっ、私と過ごすためにルリのお誘いを断ったの?」

 ハーウェイの顔から血の気が引く。

「ど、どうしたの?急に?

 お姉ちゃん大丈夫?

 顔色が悪いよ」

「大丈夫よ。続けて」

「お兄ちゃんはルリ姉ちゃんの前でお姉ちゃんの名前を一回も口に出さなかったから、ルリ姉ちゃんはお兄ちゃんがお姉ちゃんと過ごすことを知らないよ」

「よかった。ほんとによかった」

 ハーウェイが安堵のためいきをはく。

「それでどうしたの?」

「それでね、お願いがあるんだけど、お姉ちゃんにはお兄ちゃんと一緒にルリ姉ちゃんのパーティーに参加できないかな?」

「無理よ」

 ハーウェイが諦めにも似た表情をし、即答した。

「どうして?」

「一番の問題は私がいると彼女がクリスマスを楽しめないからよ」

「…お姉ちゃんとルリ姉ちゃんの間に一体何がったの?」

「それは教えられないわ。

 ただ、昔私が取り返しのつかない失敗をしたそれだけよ」

「そっか…、わかったよ。

 僕の話はこれだけさ。

 ドアを開けてくれないかな?」

「もうちょっとここにいることはできない?

 お話し相手がいると退屈しないですむのだけれど」

「ごめんね、お姉ちゃん。

 僕には暑くて長くはいられないんだ」

 そこでハーウェイは気づいた。

 この部屋の気温は外よりもずっと高かったことに。

 ドアを開けようと部屋の中を歩くと、


 バシャ


 さっきまでなかった水溜りを踏んだ。

「速く出てって、溶けちゃう。溶けちゃうよ」

 ハーウェイが急いでドアを開け、シュンに催促する。

「ありがとう」

 シュンも急いで部屋から出て行く。

 シュンを送り出したハーウェイはそっとドアを閉め、いつも座っているベッドの定位置に座り、シュンが自分の体を溶かしてまでこの部屋に来たことの意味を考えた。

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