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スノーマン

翌日、公園にて

「よう、見つからなかったか」

 レストがシュンに声をかける。

「うん…ダメだったよ。

 あれ?お姉ちゃんは?」

 シュンが振り返りながら答える。

「今日は彼女は城から出られない」

「もしかしてお姉ちゃんって偉い人なの?」

「内緒」

 レストが笑いながら人指し指を立てて口に当てた。

「それでどの辺を探したんだ?」

「ここら辺一帯は夜通し歩いたけれども見つからなかった。

 覚えてそうな場所までわからなかった。

 元々ほとんど覚えてないのに、僕のいたときと町が変わってるんだ」

「お前が死んでから今までどんな風に過ごしてたんだ?」

「最初は真っ暗の中を歩き続けてた。

 精霊と会ってからは暖かな光の中で色々なことを少しずつ忘れながら眠ってた」

「公園のそばに住んでいたわけじゃあないんだな?」

「うん、公園なんて見たことなかったよ」

「どんなツリーだったかは覚えているな」

「えーっとね。すごく大きかった」

「何年くらい寝てたか分かるか?」

「ごめん…全然わからないや。

 とりあえず僕のパパとママはもう死んでしまっているよ」

「なぜわかる?」

「寝ているときに夢で二回、光の玉が空に昇っていくのを見たから。

 たぶんあれはパパとママで間違いないと思う。

 どうして?」

 ツリーに関する情報が得られずレストが渋い顔をする。

「お前が何十年も眠っていたんなら、その木だって何十年も生長するだろう」

「あっ」

「今、お前自身がお前の探してるツリーを見て分かるのか?」

 シュンが動きを止めて考える。

「うん、分かるはずだよ。

 家の庭に植えられていてね。

 その木には僕の身長を記してあるんだ」

「ほう、なるほど。

 庭があるということは貴族か郊外に住むそれなりに身分の高い者なはずだ。

 その上、身長を記せるほど大きなクリスマスツリーか。

 貴族の住む地域を探そう」

「ほんと何も覚えてなくてごめんね」

「いいさ、行こうか」

 レストとシュンは町の中心部へ上って行った。


貴族の住宅街にて

「ここまでにどこか見覚えのある場所はあったか?」

「うんうん、全然わかんないや」

 レストとシュンは貴族の屋敷の並ぶ地域を歩いていく。

「…お前本当にこの町に住んでいたのか?」

 レストが呆れ顔で尋ねる。

「うん。ここまでの町並みでほとんど見覚えのある場所がなかったけど、あの大きな時計台と町の中心に建つ立派なお城ははっきりと覚えているからね。

 お城の方はだいぶ変わっちゃってたけど、時計台はそのまんまだからね」

 レストがその答えに苦笑いした。

 シュンが辺りを見渡す。

「大きな家。大きなお庭。それに大きなクリスマスツリーがある。

ここら辺はさっきの場所とは全然違うね」

「そうだな、ここら辺に住んでる人とさっきの場所に住んでる人では収入も生活水準も価値観も全く違う。

 クリスマスにはより大きなツリーを豪勢に飾りたてるのが貴族の一種のステータスなのさ。

 この町のほかの地域に住んでいる人たちには理解できないよ。

 同じ国に住んでいるのにおかしいだろ?」

「うーん、そんなことはないと思うな。

 何せ記憶をほとんど失った今、僕は僕のパパやママが生前何をプレゼントしようとしていたか?

 わからないんだ」

「それがどうした?」

 レストが当然のことのように聞く。

「いいかい?これは極論だけどね。

 もしも僕とパパとママが全く同じものの考え方をしていたとしよう。

 するとパパやママが僕に渡そうとしていたプレゼントを僕はもらう前に知っていたはずなんだ。

 でもプレゼントは何がもらえるかわからないからドキドキするんだ。

 たとえそれがほしいと思っていたものでなくとも。

 それに同じものの考え方をしているなら、パパとママは僕がほしいと思っているものが分かる。

 そしたらきっと同じものを僕にプレゼントするはず。

 でも僕は欲張りだから。

 一番ほしいものは一つだけでいいから。

 きっと一つ手に入ればそれは一番ほしいものではなくなってしまうから。

 一つ手に入れば、また他のものがほしくなるから。

 だから違っていることがおかしいとは思わないんだ

 あと、家族でさえ違っているのだからもっと大きな人数をひとくくりにして、それぞれ比べることのほうがおかしいいんじゃないかな?」

 レストが目を丸くしてシュンを見つめる。

「ごめん。気を悪くしたかな?」

「いや、そんな風に考えたことがなかったから驚いただけだ。

 そうだな。その通りだ。

 別に貴族とその他の地域だけが違っているわけではないし、その他の地域通しでも共有している価値観もあれば違っているところもある。

 またその地域内、一つの家の中でも共有しているところ違っているところがあるか…」

 レストが思考の迷宮に沈んでいく。

「あくまで極論だからね。

 その地域地域で住む人の根底に似たような価値観を持つことは確かだと思うし」

 雪だるまがフォローする。

「大丈夫だ。

 気を使わせてしまってすまない」

 レストが雪だるまの気づかいに気づき、謝った。

「だがお前がさっき話したたとえ話で一つ間違えているところがあると思うぞ」

「何がまずかったかな?」

「子供が望まないプレゼントを親がすると思うか?」

「そりゃあ、することもあるでしょう。

 だって僕とパパとママは血は繋がっていても全くの別人なんだから。

 僕がほしいと思ったものを当てたり、聞き出したりするのは難しいと思うよ」

レストは意地の悪い笑みを浮かべた。

「お前は親からもらえなかったプレゼントの中身が何だったらいいと思ってた?

 というか覚えてる?」

「覚えてるけど、内緒」

 シュンがレストをマネた。

「教えたくないならそれでいい。

 とりあえずもらえなかったプレゼントは二分の一の確立でほしいものが入ってたな」

「どうしてわかるの?」

 シュンが不思議そうにレストに聞く。

「まず家族の仲の良さそうなお前の親がお前のほしいものの一つや二つ分からんわけがなかろう。

 そしてあとの二分の一の確立でその時ほしくはなかったものの、遠い将来ほしく、大切に、または、宝物になるものが入っていたはずだ」

「そんな風になるものが入ってたの?」

「ああ、絶対にそうなる。

 お前が親のことを愛していればいるだけ、親がお前のことを愛していればいるだけそれは、遠い将来に必ずもらってよかったと思う。

 断言できる。

 ただ、それをもう体験することの出来ない『君に』言うのはなんだか切ないな」

遅いですがあけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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