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スノーマン

クリスマスの時期にクリスマスの話を書きたかったので

ハーウェイとレスト、二人の過去編を書きました

「ちょっと、あなた。起きなさい。起きなさいよ」

 ハーウェイがレストの頬をペチペチと叩く。

「んあ」

 レストが寝ぼけ眼で反応する。

「私のベッドで寝ないでもらえるかしら?」

 ハーウェイの青い瞳がレストの瞳を覗きこむ。

 レストはハーウェイが着替えるというので、その間ベッドに座り、待とうとしていた。

 しかし、部屋の暖かさと、午前中いつも行っている鍛錬の疲れもあり、ベッドの上に上半身だけ横倒しに載せ、眠ってしまったのだ。

「この布団はとても柔らかくて気持ちがいいんだ。それにとっても良い匂いがする。あと五分だけ」

 そう言ってレストは掛け布団を身体に巻いた。

 レスト巻きの完成である。

「ギャー、ちょっと離しなさいよ」

 ハーウェイが悲鳴を上げ、レストから布団を引っぺがそうとする。

「いやだ。離したくない。あと五分だけだから」

 レストとハーウェイの布団の奪い合いが始まった。

 数十秒後、ハーウェイが布団を奪い取ることに成功した。

 ハーウェイが肩で息をしている。

「君の父上が君にプレゼントした最高級の寝具だ。国中の職人が集まり腕によりをかけて作られている。どんなにお金を積もうが決して手に入れることは出来ないものなんだ。

 少しだけでいいから貸してくれると嬉しいのだけどなあ…」

 レストが伺うかがうようにハーウェイを見る。

「うっ…、そこまで言うなら…」

「やった、ありがとう」

 レストがすぐにでもベッドにダイヴしようとする。

「ちょっと、今はダメよ」

 ハーウェイが襟首を掴み、レストの行動を阻止した。

「どうしてだい?」

「忘れたの?今日は外に出られる日ですもの。私が外に出られる時間は限られているの。

 早くこの部屋から出たいのよ」

「そうだね。そうしようか。

 でもその前にもう一度着替えた方がいい」

 レストが苦笑しながらハーウェイの両手を握る。

「見てごらん。両腕の袖の長さがちぐはぐになっているよ」

 ハーウェイが視線を落とすと右腕は二の腕の真ん中あたりから、左腕はひじから袖がなくなっていた。

「ああ、もう。あなたのせいよ。

 さっき暴れている間に消してしまったんだわ。

 お気に入りの服だったのに」

 ハーウェイがイライラしながら言う。

「ごめんよ」

「いいわ。とりあえずもう一度、着替えるから服を選ぶのを手伝ってちょうだい」

「わかった」

 レストはハーウェイの手を引き、クローゼットを開けた。

 レストは備えつけられている大きな鏡の前にハーウェイを立たせ、自分が鏡に映っていることを確認した。

 そのあと、ハーウェイに似合いそうな服を探し、渡す。

 ハーウェイはそれをきることはせず、鏡の前で合わせただけで、

「これは色がダメ。

 これじゃあ渋いわ。

 デザインがダサいわね」

 と切って捨てる。

 レストは気にせずどんどん服を渡す。

 結局、白いポンチョと緑のプリーツスカートに黒のレギンスに決まった。

「着替えるわ。出て行って」

「わかった」

 レストがうなずいて、クローゼットの扉を閉め、ベッドまで戻った。

「待たせたわね」

 ハーウェイが目を瞑って戻ってくる。

「レスト。そこにいる?」

 ハーウェイが聞く。

「うん」

 レストが答えるとハーウェイは目を開いた。

「どお?似合ってるかしら?」

 ハーウェイがくるりと一回ターンをする。

「大丈夫。よく似合ってるよ」

 ハーウェイが「ふふふ」と笑う。

「ありがとう。

 敵国とはいえアーバニティの作る服は素晴らしいわね」

「あそこは魔法は使えないけれど、その代わりに機械の技術が発達しているからね。

 僕たちには作れないものを作れるのさ」

「仲直りできればいいですね…」

「難しいだろうな。

 もう少し魔法を認めてくれればいいのだけどなあ…」

 部屋が重苦しい雰囲気に包まれる。

「そうだ、遅くなってしまったね。

 町に出よう」

 レストが重苦しい雰囲気を振り払う。

「そうね」

 ハーウェイがうなずく。

「目隠ししないとね」

「忘れていたわ」

「それじゃあ、目を瞑って」

 ハーウェイが目を閉じる。

 レストが包帯をハーウェイの顔に巻いていく。

「これでよし。ついでにこれもしておくといい」

 そう言ってハーウェイに赤いニット帽を被せ、首にマフラーを巻いた。

「行こう」

 レストがハーウェイの手を取り、二人とも部屋から出て行った。


ハクアの町にて

「ハーウェイ気をつけてね。少しだけど雪が積もっているから」

 レストが言ったそばからハーウェイは雪で足を滑らせた。

 どうにかレストの腕にしがみつき、転倒は免れた。

「歩きにくくて嫌だわ」

 ハーウェイが怒って言う。

「それにしてもハクアで雪が積もるなんて珍しい」

「珍しいの?」

「ここら辺はとても暖かいし、この時期は雨も少ないんだ。

 だから、雪が見れるのはとても運がいいんだよ」

「そう、私にとっては迷惑極まりないわ」

 レストが苦笑してハーウェイを見た。

 ハーウェイはレストと腕を組み、不機嫌な顔をしていた。

 レストは肩でため息をすると前を向いた。

 二人は市の方へ歩き始めた。

 市へ着くとレストがハーウェイに話しかけた。

「お昼はもう食べた?」

「まだよ。今日はあなたと外に出る日だったから一緒に食べようと思って待ってたの。

 あなたは?」

「僕はもう食べたけど、底なしだからね。

 何を食べようか?」

 ちょうどパン屋の前を通りかかる。

「そうだサンドイッチは?」

「それでいいわ」

 レストとハーウェイは店の中に入る。

 お金を払い、短いフランスパンにレタス、ハム、チーズ、ピクルスの挟まれたサンドイッチ二つを受け取った。

「歩きながら食べよう」

 二人は店から出て、町を歩きながらサンドイッチにかじりつく。

「うん、当たりだね。

 あそこのパン屋は美味しい」

「そうね。

 美味しい」

 ハーウェイがニッコリ笑う。

 二人は食べ終わってから本屋へ行ったり、お菓子屋を冷やかしに行ったりして過ごした。

 不意にハーウェイが足を止めた。

「どうしたの?」

「この歌は一体なんなのかしら?」

 ハーウェイが不思議そうに聞く。

「ああ、この歌かい?

 もうすぐクリスマスなんだ。

 だから教会の子供たちが町中で歌を歌うのさ」

「どうして歌うの?」

「それは知らないよ。

 僕は教会の人間ではないからね。

 でも神様に祈りをささげていると聞いたことがあるかな」

「クリスマス…ね」

「どうしたの?」

「いや、あなたは誰と過ごすのかしらって、思ったのよ」

「えっ?たぶん一人だよ?毎年ルリたちとパーティをしているのだけど、今年はまだお誘いがかかってないからね」

「そう、それなら今日のようにあなたと一緒に過ごしたいなって思うのだけれど。

 いいかしら?」

「もちろん」

 冬の太陽がもうだいぶ低くなっていた。

「んっ、ちょっと休憩していこうか」

 レストが公園の方へ歩き出す。

 ハーウェイは全く抵抗なく体の進む方向を変えた。

「ここにベンチがあるんだ。

 座って」

 二人がベンチに座る。

「疲れた?」

 レストが聞く。

「いいえ、疲れてなんていないわ」

 そう言ってハーウェイはクタッとレストの肩に頭を載せる。

 しばらく静かな時間か流れた。

「今日は」

 ハーウェイがポツリとつぶやく。

「楽しかった」

 レストがハーウェイの顔を見る。

「君はいつでも楽しそうだよ。

 笑ってるときだけじゃない。

 怒ってるときも、不機嫌なときも、退屈な顔をしているときも君はいつでも楽しそうだ。

 楽しくないときなんてあるのかい?」

 レストが冗談交じりに笑って聞く。

「だって…」

 ハーウェイが一瞬逡巡する。

 真っ赤な夕焼けが二人の影法師を伸ばす。

「だってあなたがいるんですもの」

 レストがハーウェイを見つめる。

 ハーウェイがレストを見つめる。

 二人の時計の針が止まる。

「そっか」

「そうよ」

「それじゃあ、そろそろ帰ろっか」

「ええ」

 ハーウェイが照れ隠しに飛びっきりの微笑を返した。


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