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代用品たちの舞踏会 4

 ハクアの南側にある教会の鐘が鳴る。

 サウがビクッと音のするほうを向いた。

「あれは時刻を知らせる鐘ですよ」

 ルリがコロコロ笑いながら、サウに説明する。

「ちょうど正午になりました。そろそろお昼にしましょう」

 ルリを先頭に一行はお昼を取るための場所を探そうと歩き始めた。


 コン


 クリクリとした緑の目が家と家の間の隙間から一同を見ていた。

「きゃー、コン太、久しぶり。ちょっと痩せたんじゃないの」

 尖がった耳が二つに、身体はフサフサとした毛で覆われており、尻尾の先端が白いキツネがいた。

 ルリが小走りでコン太に寄っていく。

 野生の動物なら一目散ににげているだろうが、コン太は人馴れしているのだろうか、首を傾げて、ルリが来るのを待っていた。

「コン太ぁ~。フサフサー」

 ルリがコン太を抱きかかえ頬ずりする。

 コン太は大人しくされるがままだ。

 ルリがコン太を連れて、三人の方へ向かう。

「サウ様、この子がコン太。レストの命の恩人であり、家族ですよ。

 レストの前でこの子をペットって紹介したらとても怒りましてね」

 ルリがコン太の頬を手でフミフミする。

「ほう、賢そうなキツネだな」

 サウとコン太が目を合わす。

「ん」

 サウが何かに気づいて難しい顔をする。

「どうかしました?」

 ルリがサウの顔を覗き込む。

「私は動物とある程度の意思疎通が出来るのだが、この子とは上手くできないようだ」

「凄い、そのようなことがお出来になるのですね」

 サウの顔がしまったとゆがむ。

「そんなに嫌がらなくてもいいではありませんか。あなたはここで長く暮らしていくのですから。一生全てを隠し通すことなんてできませんよ。

 それに私たちはあなたたちの国と友好な関係を築きたいと考えています。

 あなたの国だってそうでしょう?

 まずお互いのことをよく知り合わなければ仲良くなんてできませんよ?」

 ルリがサウに微笑みかける。

「はい、触ってもいいですよ」

 ルリの腕の中で丸くなっているコン太をサウに近づけた。

 サウが小さな額をなでる。

 コン太が目を細めて気持ちよさそうにしている。

「あなたもどうぞ」

 そう言ってルリはサウの腕にしがみついているハーウェイの左腕を取り、コン太に触れさせた。

 突然腕をとられたハーウェイは最初驚いて身体を強張らせた。

 手が毛皮に触れるとビクッと一瞬腕を引いたが、もう一度手を伸ばしてそのフサフサの毛皮をなで始めた。

 時間が経つと腕の強張りが取れ、

「あったかい」

 その温もりを確かめるように長い間コン太に触れていた。

 コン太はその間ずっととても大人しかった。

 ハーウェイの気が済んで、コン太から手を離す。

「レストにこんな家族がいたのですね」

 ボソリとつぶやかれた一言にルリが目を見開く。

「彼から何か聞いてないの?」

「いえ、特に何も」

「そう、聞いてないのね」

 思わずといったところだろうか、ルリは意図せず声に喜色を混じらせていた。

 ハーウェイが怪訝な顔をしてルリに尋ねる。

「何かあるのですか?」

「レストが何も話していないのなら私からも何も話さないわ」

 ルリがぴしゃりと回答を拒絶した。

「気になるならレストに直接聞きなさい」

 ルリがそこまで言って、複雑な顔をする。

「あー、でもあなたにならきっと教えてくれると思うわ」

「では聞かない方がいいのでしょうね」

 ルリが意外そうにハーウェイを見た。

「どうして?

 気にならないの?」

「気になります。

 でも、今聞いて教えてくれることならば、いつかきっと向こうから話していただけるでしょうから」

 ルリはハーウェイが知らないレストのことを知っていたという事柄に対して感じた優越感を恥じ、顔を真っ赤にした。

「仲の良いもの通しでも隠し事はするものだよ。

 知らない方が無用なトラブルを避けられて、より円満な関係を築けることもあるからね」

 サウが皮肉を言う。

「あっ、無用なトラブルで思い出しました」

 ルリが軽い感じでサウに話し始めた。

「数は少ないと思いますが、この町であなたが意思疎通の出来ない動物と出会ったら、接触を避けた方がいいでしょう。

 無用なトラブルを引き起こす原因になると思いますよ」

 ルリが真顔で、口元だけに笑みを貼り付けたようななんともアンバランスな表情をサウに向けていた。

 サウはゾワリと鳥肌がたった。

 季節は春、今日の天気は雲一つない快晴だったが、気温が急激に下がったような錯覚を覚えていた。

「さて」

 ルリがコン太を地面に下ろす。

 いつもの雰囲気に戻っていた。

「昼食を食べる場所を探しましょう。

 コン太がいるので店内に入ることは出来なくなってしまいました。

 露店で食べることになりますが、よろしいですか?」

「ああ、問題ない」

 ルリは迷うことなく市の中を進み、焼き鳥屋の前で立ち止まった。

「いくつ食べますか?」

 ルリが後ろを振り返り、尋ねる。

 サウが三本、クロトが二本、ハーウェイが一本食べるとルリに伝えた。

「九本下さい」

 とルリが店に頼み、がま口の巾着から代金を支払った。

『三本も食べるなんて食い意地張ってるわね』

 クロトが呆れたというようにルリを見る。

「違うよ。コン太に一本あげるんだよ」

 ルリが慌てて否定した。

クリスマスまでにもう一話か二話更新できたらなと思ってます

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