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代用品たちの舞踏会 3

日付が変わって、お城にある隠れた一室にて

「今日は。王さま」

 レストが手を振る。

「おお、レスト元気そうだな」

 王もレストに手を振った。

「面会のアポを取ろうとしたらこんな部屋に食事に呼ばれて驚きですよ。何か話しておきたいことでもあるのですか?」

 レストが言いながら長方形のテーブルに座る。

 幅の短い方をレストと王が向かい合う形で座る。

 長さは一・五メートルくらいあった。

 テーブルの上には食事がすでに用意されていた。

 王以外の者の姿はなかった。

「そうだな…。サウについて聞きたくてな。

 君の目から見て彼はどのような男に見える?」

「まだわかりませんとしか答えられません。

 とりあえず世間知らずであることは間違いないでしょう。

 しかし、時々予想も出来ないようなことを知っていたり、気づいたりします。

 普通のものなら気づかない姫の力を初対面で見抜いていますし、わが国の最高魔術『神獣召喚』についてもよく知っているようです。

 また、フォメノのことについては一切喋ろうとしないようです。

 姫が会話が成り立たないと嘆いています」

 王が楽しそうな表情をする。

「ほう、娘は仲良くしようとしているのか」

「あまり上手くはいってないようですが」

「どうかね。上手くいってないのならこの縁談を取りやめてわが国の優秀な他の誰かと縁談を組ませてもいいと思っているのだが…

 今からでも心変わりする気はないかね?」

「お戯れを」

「戯れなどではないのだが…」

「王さま、早く食べないと食事が冷めてしまいますよ」

「そうか、わかった」

 王はうなずいて、口をつぐんだ。

「そうだ王さま。今日はお願いを聞いてもらいたいのですが。よろしいですか?」

 レストがさっきまでの話をなかったことにして、今ちょうど思い出したかのように話し始める。

「何だい?出来る限り聞いてあげよう」

「姫の外出の許可がほしいのです。またその時、私が警護から外れても大丈夫でしょうか?変わりにクロトとルリを同行させますので」

 王が食事する手を止めてじっとレストを見つめる。

「なぜ?」

「サウも一緒だからです。いままで散々外に一緒に行っていましたが、彼が来た今、他の男が付いて行くと色々とよからぬ噂が立つでしょうし」

「娘には話したのか?」

 レストが苦笑する。

「このお願いは姫のものですよ」

「なんと、それまで…」

 王が驚きの声を上げる。

「姫は本気ですよ。」

 レストが王の言葉を引き継ぐ。

「それくらい本気の覚悟がなければなせないでしょうから」

 王がふーと深く息を吐く。

「そうだな」

「そうですよ」

 レストが飛びっきりの笑顔で重ねる。

「レストよ」

「なんでしょう?」

 レストが首を傾げる。

「今までありがとう。

 そして、これからも娘を頼むぞ。

 私はお前を信じておる」

 王が頭を垂れる。

「僕にはもったいないお言葉です」

「よもや娘に王座を継がせることが出来るようになろうとは…

 少し前まで思いもよらなかったぞ」

 王がこめかみを抑える。

「それでは三日後に外出するので、その許可をいただけますか?」

「許可を出さんわけなかろう」

「ありがとうございます」

 レストがやっと食事に手をつけようとしたところ…

「誰か?誰かおらぬか?酒じゃ。酒を持てい」

 王が大声を出す。

「王さま!?」

 レストがガタッと席を立つ。

 これでは何のためにレストを隠された部屋に呼んだのかわからない。

「お止めください。何をしているのですか?」

「うるさい。わしはお前と今すぐに酒が飲みたいのだ」

「午後の政務に支障が出ます」

「なら夜だ。今夜は全ての予定を白紙にし、酒宴にするぞ。

 そうだ、ゴアリスとあと三人いる騎士全て呼ぼう。

 レストお前は騎士長だろう?今夜までに全員呼び戻せ」

「はあ…」

 レストは国の各地に遠征している騎士を呼び戻すために、王は残っている仕事を夜までに片付けるために、用意されていた美味しい食事をがっついて食べた。

 夜になると王と仲のよい貴族たちと騎士がちゃんと集まり、宴会がつつがなく行われた。


サウが来てから二週間

 ハーウェイとルリ、クロトがサウを連れてハクアの町を案内していた。

 王都ハクアは周りを巨大な壁で囲まれた城壁都市である。

 おわんをひっくり返したような地形をしており、その頂点にお城が立っている。

 お城の北側はお城から城壁までの半分くらいまで森で覆われており、その中にぽつんと真っ白な古城が建っている。

 お城の周り、東、南、西側には貴族のお屋敷が立ち並んでいた。

 身分によって住む場所が土地の高さによって決まるのはここまでで、壁に近づくにつれ身分が低くなったり、生活が貧困になっていくということはない。

 現に治安の悪いスラム街は西側の貴族の住む区画のすぐ隣にある。

 貧しい暮らしをしている最も人数の多い層の人間は東側の貴族の住む区画に隣接している。

 それよりも収入が多く、人口の少ない中流階級の人間がいるのは南側だ。

 別に誰が決めたわけでもないがこのルールを破ろうとするものは稀だ。

 このあたり一帯の気候は温暖で雨に恵まれているが冬には降水量が少なくなる。

 春、夏、秋、冬の四季があり、今の季節は春である。

 今、ハーウェイたちは南側の大通りを歩いていた。

 石畳の大通りは馬車や人が行きかっている。

 大通りに沿うようにレンガ造りの建物が立ち並び、市が開かれていた。

 ハーウェイはサウの左腕を両腕でがっちりと掴み、身体をべったりと密着させていた。

「どうですか?私の町、ハクアは?」

 少し誇らしげにハーウェイが聞く。

「どうって…」

 サウは考える。

「汚い町だな」

 ハーウェイがサウの顔があるであろう辺りを見るように顔を向ける。

「何が汚いのでしょうか?」

 ルリが拙いと思い、口を挟む。

「なぜ道や建物のいたるところに魔方陣が書かれているのだ?」

「えっと、フォメノではどのように魔法を使うのですか?やはりアズールのように詠唱を?」

「我々は魔法を使わない」

「そうですか。私たちは魔法を使うとき魔方陣を使います。一つの魔法に一つの魔方陣があります。一度書いた魔方陣は消えない限り何度でも使えます。

 また、魔力を注ぐとなくなるまで効力のあるものと、効力を維持するには魔力を注ぎ続けなければならないものがあります」

 ルリが言葉を切って、建物を指差す。

「あそこに書かれているのが建物の強度を強化する魔方陣で魔方陣が消えてしまうか、注がれた魔力がなくなるまで効果を発揮します。

 しかし、人間を強化する場合、また違う魔方陣を使わなければなりませんし、強化し続けるためには魔力を注ぎ続けなければなりません」

 ルリが別の魔方陣を指さす。

「あれが転移の魔方陣です。

 この国の交易の要です。

 こちらと行きたい場所、両方に同じ陣が書かれていないと転移できません」

「そんなものがあるのなら馬車はいらないのでは?」

「転移の魔方陣は魔力を注ぐとずっと使えるタイプですが、転移の魔方陣に魔力を込めたままにしておくと人ならざる悪いものがよってくるので、普段は使った後、魔力を捨てているのでそうそう誰もが何度でも使えるというわけではないのです。それに行きたい場所に対の陣がなければ使えません。

 でも急ぎの用があるときや、馬車で運ぶと壊れやすい高級品などを運ぶときに重宝しています」

「そうか、考えて描かれているのだな」

 サウが感心して辺りのそこかしこに魔方陣が描かれている建物を見回す。

 ハーウェイが不満げな顔をしていた。


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