胎動する者達
本当に遅れて申し訳ないです。ヒロイン設定に時間がかかり過ぎてなんとか形にできました。
しかしここまででようやくプロローグって・・どんだけ更新遅いのやら。
今度はもう少し早く更新できるようにしたいです。
では・・どうぞ!!
世界は動き出そうとしていた。
「トライアル育成はどうなの?」
とある会議室で一人の少女は告げる。
ふわふわとした金色の髪をした少女。まるで陽だまりのような優しいきらめきを放つ彼女。
まるで羊のようにふわふわ、そしてもこもことした優しくも温かい彼女。
歳は・・二十代手前といったところだ。
「・・・私達のように一芸に秀でた者達はトライアルへの移行がスムーズだといえる。まったく・・・・エレメンツと気を覚えるのは大変だったが、それでも似た部分があるから何とかな。」
そんな彼女に応えるのは水色の髪をした女性である。端正な顔立ちでまるである彫刻家が作った究極の美のように見える。だが、その内から黒豹のようなしなやかさが身体から、そして野生じみた獰猛さが瞳の光から出ている。
金色の彼女の名前はミラ・エクシア・ガイスバード。
ミラージュエレメの三大連合国の一つであるガイスバード王国の姫君にして、前の大戦の総司令を務めた才女。エレメンツの腕前は最近になってメイガスになった。
そんなすごい経歴を持って入るが、本人はのほほんとしている。
そんな彼女は首にかけていた翠の宝石を埋め込んだペンダントを手にする。
――――あなたの理想・・私はどこまでできているのかな?
そのペンダントにまつわるある人を想いながら、彼女は決意を新たにする。
――――――あなたの悲願・・絶対に私が叶える。だから・・力を貸して。
そして、水色の女性の名前はアクア・スターライト・ハイミナンツ。
コロニ―のある天才科学者の妹にして・・「閃光の刃」の異名を持つコロニ―最強の女子にしてカテゴリーRランクのナノリストでもある。
彼女は率先してコロニ―を守るために戦ってきた。兄と弟分の理想のために。
―――――二人とも・・見ていて。私はまだ戦えるから。まだ・・立ち上がれるから。
二人は世界の復興に尽力した。
それぞれの大切な人が亡くなるという事に会いながらもだ。
自身も心を崩壊させかねないほどの痛手を受けていたのに、それを押し殺して立ちあがって彼女達は頑張っている。
「・・・・・本当に健気だねえ。」
そんな二人を、いつの間にか現れた一人の男があえて軽い口調でいう。
黒い羽のような短髪。そして、来ているスーツも黒。下に来ているカッタ―は白いが、それが逆に他の黒を引きたてている。
それはまさに・・鴉のような男。
「・・・レイブン。」
彼の背中には鴉の黒い翼。彼はレイブン。鬼と同じく地球の希少種――天狗と呼ばれる者で、そして今はある組織を束ねる長でもある。
「帝国と企業の動きは?」
「・・・きな臭い匂いはするけどねえ。まだ有力な何かは掴んでいない。でも、色々な国家間の問題に両者がわりこんでいるが、解決というよりあれは・・。」
「・・・自分の陣営に引き込む・・・か。」
「ああ。それにこの二つが妙に仲がいいのも気になる。それに加えて、そこに組織も加わっている。」
帝国。それはミラージュエレメの巨大国家・・・グレムガント帝国の事を指す。魔王軍が現れるまで、統一国家を目指して侵略戦争などを進め、世界に戦乱をもたらしていた。
魔王軍出現から戦争は止まっていたが・・・水面下で色々な策謀を張り巡らせていた。
そして企業は、コロニ―であらゆる分野に手を出していた超巨大企業・・BBU。
コロニ―内の軍需産業まで握っており、政治にも大きな影響をもたらしていた。
彼らはたびたびコロニ―で大活躍していたある科学者に依頼を出し・・そしてそのまま彼を取り込もうとするが、彼はうまくそれをかわし続けていた。
そして、地球の裏で暗躍していた組織とよばれる者達。
色々な国家の裏に彼らはおり、世界の危機にも反応が薄かったのだが、復興の際は色々と関与してきたのだ。
名前はわからない。あるのはただ・・組織という言葉だけ。
謎に包まれたそれと・・・帝国、そして企業の間に何かのつながりができつつある。
「僕は・・・以前からつながりがあったとみているけどね。何となく・・だけど。」
「・・・それってほんと?」
「確証はないよ。でも・・そんな感じもある。」
「ようやく三つの世界の技術融合も出来てきたというのに・・。」
「それでも嘆いている暇はない。」
そこにもう一人男が現れる。
「俺達はこの世界を助けたい。そう思っている。」
それは二十代手前くらいの若者である。
薄い青のジーパンに同じく青いジャケットを着た彼はいう。
「・・・生意気だが、あいつらは確かに勇者だった。それは俺も認める。俺に出来ない事をやった。そんな奴らに負けっぱなしじゃ・・・悔しいだろうが。」
彼の名前は神鋼嵐。
「そうだな。最強の男・・・いや・・最強の兄貴。」
「おいおい・・人をなんだと思っている?」
レイブンの言葉に隼人はツッコミを入れたくなる。
「いや・・魔王以外であなたみたいな規格外は初めて見ましたわ。」
「はい・・・。聖痕と魔印・・そして紋章を同時にもつ男なんて・・・。」
三つの世界の共通の事例がある。
それは右目が青く輝く聖痕
それは左目が赤く輝く魔印。
そして、それ以外のどこかに浮かび上がる紋章だ。
聖痕は精霊たちの祝福。
魔印は異能の目覚め。
そして紋章はある領域に達した証。
それぞれ特異な力を発揮するのと先天的、後天的など色々な事例でなる点は同じである。
「はあ・・あのな。こっちはまだ修行中のただの料理人だというのに・・。って・・おっと・・・。もうすぐ店の時間か。」
「学園食堂・・今日もにぎわうわね。」
ミラも彼の料理が楽しみらしい。
「そっ・・///・・・そうだな。」
そしてアクアは少し顔をそむけている。少し顔を紅くして・・・。
「やれやれ・・・・大変だねえ。」
とそれを見たレイブンは軽く笑う。
「それで・・俺の妹とその友達はどうした?俺があんたらに協力しているのも・・。」
「今・・ある場所で救助用の任務をやっている。君の妹とその友達が新人だからその研修も兼ねてね。」
「彼女達にはあの四人が同行している。勇者と共に世界を救った彼女達が・・・。」
突然の爆発事故。
『・・・・・・・・・。』
その中で二人の子供が取り残されていた。
女の子だと・・それよりも小さな男の子だ。
二人は燃え盛る炎の中歩き回っている。
「ひっ・・・お姉ちゃん・・・。」
「大丈夫・・・大丈夫だから・・・。」
男の子を女の子は必死で慰めながら歩く。彼女自身も怖いのにもかかわらず。
そんな二人に崩壊した天井の瓦礫が落ちてきて・・・。
それを彼女は男の子を庇おうとした。
「よくがんばったね。」
だあ、その瓦礫が光と共にその空間に固定される。
そして、それと共に彼女達を守るように白い翼をはためかせた少女が降り立つ。
ウェーブのかかった長い茶色の髪。それが火災の熱で軽くはためいている。
纏っているのは白い甲冑。だが、中世の騎士がまとうような全身鎧(フルプレートアーマーのような重厚感もなくスマートである。
厚手のワンピースドレスの上に装甲をつけたような鎧である。
「・・・・天使?」
「天使じゃないけど助けにきたよ。」
彼女の名前は神鳥 唄翼
まるで純白の天使のような彼女は女の子に安心するように笑いかけた時だった。
壁の破壊と共にある存在が姿を現す。
それは全身を炎で包んだ巨大な獅子のような怪物。
怪物の首の下には蒼く輝くコアのような物があり、そこから蒼い幾何学模様のラインがはしっている。
「・・・この火事の原因・・・やっぱりトライシードの仕業だったのね。」
トライシード。それは三つの世界が一つとなる際に現れた怪物。
それは三つの世界で起こっていたそれぞれの災いによって生まれた怪物や魔物と同じ特徴を持っていた。
その特徴の一つが精霊の力を暴走させること。
二つ目は生物・非生物問わずに何かを媒体とし、その体に必ず種と呼ばれるコアを持っていること。その種の成長具合でさらに強力になる。
三つ目はコアから光のライン・・ブラットラインが全身に走り、そこから力の供給を行っていることである。
炎の獅子はゆっくりと唄羽に狙いを定め・・飛びかかる。
―――――来て・・私の盾。
彼女の思いと共に光が急速に集まり、白い翼をとじ合わせたようなカイトシールドへとかわる。
これが彼女の力。彼女の誰かを助けたい、そして守りたいという思いが具現化した聖なる盾。
その盾は炎の獅子の爪を接触。爪がその盾をなぞるように滑って受け流される。
そのことで獅子の巨体の体制が崩れる。
その隙を彼女は見逃さない。そのまま盾で爪を受け流しつつ・・そこから一気にタックルをしかけるようにして殴ってきたのだ。
思いのほか強力な打撃に炎の獅子は吹っ飛びながらも空中で体勢を整え直す。
そして着地したと同時に口から炎の渦をはきだしたのだ。
後ろにいる女の子を守るべく翼の盾でそれを受け止める唄羽。
「ひっ・・・・ううう・・。」
怯える子ども達に彼女はいう。
「安心して・・。貴方は私が守るから。」
それは彼女の盾の本質である思い。
「どんな事があっても・・絶対に!!」
其の言葉と共に・・・盾の翼が開いた瞬間であった。
壁を突き破ってきた何者かが手にした棒で獅子の巨体をふっ飛ばしたのだ。
「やっとみつけた!!」
現れたのは軽快なオレンジ色のアーマーに身を包んだ唄羽と同じ歳の少女であった。
スパッツの上から履いたショートスカート。その上からオレンジ色のアーマーを纏っているのだ。
アーマーというよりも戦闘服といった方がただしい。
唄羽より動きやすさを重視した鎧。
快活さと温かさを兼ね備えた力強い声。
唄羽が天使なら彼女は太陽であった。
白のリボンでツインテールにした亜麻色の髪が収穫前の稲穂のようにゆれる。
「照香!!」
彼女の名前は神鋼 照香。
両端が金属で補強された棒を肩に担いだ状態で獅子と対峙する照香。
「私からいくわよ。」
獅子が動き出す前に照香が先に動く。棒を肩に担いだまま低い姿勢で急に接近してきたのだ。それを炎の獅子が爪で切り裂こうとするが、それを肩に担いだ棒を右手だけで突きあげる形でうけとめたのだ。
あいていた左手に黄金の光が集まる。
―――――白虎爪撃。
そしてその手で相手の首元にあったコアを貫いたのだ。
獅子は悲鳴をあげる。だが、照香の攻撃はこれだけで終わらない。
肩に担いでいた棒を両手に持ちながら旋回し、獅子の爪をうけながしつつ獅子を突きあげ、そこから棒をさらに回しながら一緒に飛び上がり、突きあげられた獅子を上から旋回させ、遠心力を乗せた棒の渾身の振り下ろしをたたきつけたのだ。
獅子はその渾身の一撃を受けて地面に叩きつけられ・・そのまま動かなり、炎へと分解して消えていく。
「相変わらずすごいね。」
「いえいえ。まだまだ未熟ですよ。」
獅子を片づけた照香に少し興奮気味の唄羽。
当の本人はまだまだだと謙遜している。何しろ彼女は兄を初めとするもっと強い存在を知っているからだ。
「さて・・あなた達・・お姉さん達が外に連れて行って・・。」
照香がそう言って子ども達に手を差し伸べた瞬間であった。
炎の中から別の炎の獅子が二体も突然飛びかかってきたのだ。
『!?』
唄羽と照香は驚き、武器を構え直すが、出遅れておりその爪が二人を切り裂く。
そう思われた瞬間・・獅子たちは突如飛来した無数の氷の槍に貫かれて動けなくなった。
「油断大敵って言わなかった?全く訓練のメニューを考え直そうかな?」
そしてその獅子を隣からわりこんできた鋭い細剣の眼にもとまらぬ連続突きによって駒切れになって消えて行った。
現れたのは姫であった。
一人は紅い髪をポニーテールにしてくくった姫。凛々しく赤と白を基調としたアーマーを身に纏っている。まるで銃士隊が身に纏うような衣装である。手には細身の両刃の直剣を持っている。
燃え盛る炎のような熱さと毅然とした気品を同居させた彼女はミラージュエレメの三大連合国の一つ・・・・グランファールの姫。
その名はアリアマデル・レイ・グランファール。
行動派にして一流の剣士としられた姫。そして今でも世界のために最前線で戦う戦姫である。
もう一人は蒼い髪をした姫。水色の葉を花のように重ね合わせドレスにしたようなアーマーを纏っている。
流れる水のような穏やかさと静かさ、そして確かな知性を持った彼女もまたミラージュエレメの三大連合国の一つ・・・エイズアクアの姫。
その名前はリリアンジュ・テラ・エイズアクア。
若干十五歳にして賢者とメイガスの称号を持つ姫。その知恵を皆のために使う賢姫である。
「うう・・・アリアの指摘が厳しい。」
「まあまあ・・・アンジュの指摘も正しいのだし。」
ちなみに唄羽と照香の二人はこの二人の姫を愛称で呼ぶほどの仲である。
「唄羽。あなたもその盾の力を解放しかけましたね?私いったわね?あなたの盾は守りの象徴にして、強力すぎる兵器なのよ?迂闊に解放しないように心をもっと穏やかにもつようにって・・。」
「あう・・・説教がきついよ。」
アンジュ・・・結構口うるさいところがあるようだ。
「四人ともなにやっているの。」
「はあ・・・世話が焼ける。」
そんな光景にまた二人。
一人は巫女の服を来ていた長身の黒髪の少女。
清楚な雰囲気と共に強い意思の宿った瞳を持つ彼女は歩くだけで、神聖さがにじみ出ている。
もっとも・・そんな彼女が肩を落として今はため息をついている辺りは結構気さくなのかもしれない。
彼女の手には無数の札とそしてお払いのための棒がにぎられている。
彼女の名前は七神木 瀬戸菜
この地球で古くからあらゆる妖怪達を監視する七神木の家の戦巫女。
もう一人は瀬戸菜とは対照的にシスターの格好をしていた小柄な少女であった。
クシャトリカと呼ばれる巻き毛の犬のようなフワフワの金色の髪。
「はあ・・浄化の方はもう終わったみたいでよかったです。」
彼女の手には十字架をもじった銀と黒の大型拳銃と小さなフォトンナイフが握られている。
口調こそは冷めたもので表情もほとんど変わっていない。無表情に限りなく近い。
だが・・長く付き合っていたら、微かだが、口元が笑っている事に気付くだろう。
彼女の名前はエリナ・レイ・バランジュ。
シスターの格好をしているが彼女はコロニ―の出身である。向うのコロニ―でも同じような格好をしていたので、アーマーもシスターなのである。
元々彼女はシスターでもあったが、陰である存在を追うハンターでもあった。
また彼女はコロニ―の代表である大統領の令嬢というとんでもない裏の顔も持っていたりする。
「早く撤退するわよ。今日は早く帰って明日の入学式・・・万全の状態でいくわよ!」
「あなたはもう少し落ち着きなさい。」
「でも楽しみだよ。みんなで一緒の学校なんだし。」
アリアの言葉にアンジュは冷静に突っ込むが、そこに照香が乗ってくる。
「みんな・・みんな一緒だもん。」
一緒という唄羽の言葉に、アリア、アンジュ、瀬戸菜、そしてエリナの表情が曇る。
「・・・一緒・・か。」
「あいつらも生きていたら一緒にかよっていたんだよね。」
「・・・・・・・・・私ならいやがるあいつを引っ張っていく光景が思い浮かぶわ。」
「学校で好き勝手するイメージがある。」
「あっ・・・。」
そこで二人は思いだす。
この四人は世界を救った者達。そして、世界を救った勇者達の仲間であったのだ。
世界を救った三人の勇者達の犠牲。
それは彼女達の心に深い痛みを残している。
「・・・いや、くよくよしてもしかたない。笑っていこう。キザなあいつはそういう。」
「ええ。キザですが・・そういたところは本当に純粋な人でしたし。」
アリアとアンジュはある怪盗の事を・・。
「うん・・あいつもがさつだけど私が落ち込んでいる姿を見て励ましてくれたわね。不器用だったけど。」
瀬戸菜は共に戦った鬼の少年の事を想う。
「・・・あの人は変な人でした。でも・・同時にどうしようもなく恥ずかしがりがりやでしたね。からかうのが楽しかった。」
エリナもまた照れくさそうに笑うある天才少年を想う。
今でもどうしようもなく彼女達は勇者たちが好きなのだ。
それを思うと悲しくもなるし、同時に立ちあがれる強さを持てるほどに。
「私にもそんなひと・・・いたか。あの馬鹿が。」
照香はある人を思い出していた。
「・・・あんたにはいるの?そんな人。」
そして照香は気を取り直しつつ、意地悪な笑みを浮かべ唄羽にも声をかける。
からかいやすい性格をした唄羽のわたわたと慌てる姿を想像しての行動だったが。
「いるよ。私にも。」
唄羽の言葉は毅然としたものであった。
「今の私がいるのはあの子のおかげだから。」
唄羽は今でもその事を想っている。
―――――あなたは今・・どうしているのかな?
彼女に手を差し伸べた同じ歳の少年のことを。
―――――私もがんばっているよ。だからあなたも自分に負けないで頑張って。
胸に手を当ててその少年の名前を浮かべる。
――――――勇斗。私は今でもあなたを応援している。私もがんばっているから!!
唄羽は思ってもいないだろう。
明日・・その少年と再会することに。
「あれから三年になるのか・・・。」
それは暗い闇。
その闇の中に無数の白い仮面が浮かび上がる。
「忌々しい・・せっかくの計画を台無しにされた日でもある。」
彼らは三年前・・・ある目的を達成させる寸前であった。
「魔王達が抵抗したのも大きいが・・一番の誤算はやはり・・勇者か・・・。」
雄牛の角が生えた仮面の男の言葉に皆は口々に告げる。
「三大勇者・・あれのおかげで計画の大幅な修正をしないといけなくなった。」
「・・・・魔王軍にいたころから厄介だとは思っていた。だが・・・あそこまでは流石に想像も・・。」
魔王軍にいたとされる三つ目の仮面の言葉。
「・・・・・おまけに死んだと思っていたのに、最近になって生きていることが分かってしまった。しかも・・あの者と一緒におる、」
そして、彼らを助けた事を知る長い髪とひげを生やした仮面。
「三つの世界の災厄をすべて受けたあの者か。普通ならとっくに死んでいるはずというのにまだ生きていたというのか?」
その報告に雄牛の仮面が驚く。
「・・・生きていた。しかも、三大勇者と竜の勇者を助けたのもあの者だ。あれは今第五の勇者となった。普通の人なら生まれ落ちてから万は軽く死んでいるはずの災いをくぐり抜け、なおかつ勇者達を助けたのは本当に信じられん。一体どれだけの力を身につけているのか想像もできん。」
「・・・龍の子。あれも厄介な存在だった。あまつさえ勇者に覚醒したおかげで第四の計画もつぶされた。」
龍という言葉に龍の仮面をかぶる者が唸る。
「勇者達は学校に入る。監視をつける。頼むぞ。」
「・・・はい。わかりました。」
彼らの監視をサクラの花をあしらった仮面が引き受ける。
勇者達の傍に・・魔の手は迫っている。
「裏切りのトリックスター。あいつの始末をうまくできたのが唯一の救いか。」
「・・・・あの者は危険すぎました。十六年前・・彼が裏切るとは思いもしませんでしたし。我らの計画に反旗を翻しただけでなく、宗主様達に次ぐ恐るべき才能を持っていたのですから・・。ある要素が足りてしまったら宗主様達と同じ存在に・・・。」
仮面達が各々語っている中であった。
―――――どんな事があろうと・・我らを止めることは出来ぬ。
彼らの上に巨大な三つの仮面が現れたのだ。
『宗主様・・。』
彼らの登場に皆は静まりかえる。
一つの仮面は怒り、喜び、悲しみの三つがくっついた異形の仮面。
彼の名前は宗主の一人・・アシュ。
二つ目の仮面は仮面の左右に四枚の白と黒の翼が生えている。
宗主が一人・・メリエル。
三つ目の仮面は炎を纏った灼熱の仮面。
宗主が一人・・タイラント。
まだ他に宗主はいる。
彼ら宗主は仮面の組織を率いる大幹部であった。
――――――――我らが君の眠りはまだ解けぬ。
――――――この世界が邪魔をしてな・・。
―――――どうやったらその戒めを破壊できるのだろうか?眷族達は復活して暴れまわっていると言うのに・・。
彼らはある目的があって古より暗躍している。
それは・・世界という名の枷の破壊。
―――みな・・・新たな計画の発動まで頼むぞ。我らが主の復活のために・・。
―――そして、主の復活は新たな世界の始まり。
――――新たな世界を我らが楽園とするために・・・・。
『・・・新たな世界を我らが楽園とするために・・・。』
暗躍する組織その名は「エデン」
「魔王どもがいないだけまだ救いがある。あいつらが生きていたら真っ先我らに牙をむくだろうからな。」
『ハハハハハハハハハハ!!』
彼らはかつて自分達が利用した魔王達を笑う。
だが、彼らは不幸にも知らない。
その魔王達が・・・生きていることを。
「いよいよだな・・・。」
一人の男がある学園の上で告げる。
「ああ・・・勇者達がやってくるのだろ?」
身に纏っているのは黒の鎧を纏った男。
顔を隠すフルフェイスの兜。黒い鎧には木を模した刺繍が鎧に施されている。
その上から羽織っているマントは白。
手には穂先に翠の宝玉が埋め込まれたハルバードが握られている。
彼の首には翠の宝石が埋め込まれた木のペンダントがかけられていた。
彼はミラージュエレメにてその名を轟かせた魔王・・・大樹の魔王ライバーガル。
「・・・彼らには迷惑をかけた。こちらのしりぬぐいをさせるために命を賭けさせてしまったのだから。」
彼は絶大なカリスマと統率性を持ち、その力を持って魔王軍を率い、人間達の大規模な戦争に介入してきた。
彼が率いる軍は強力で。人間達は戦争をやめることとなり、その脅威にみなが揃って立ち向かう事となる。
「やれやれ・・あんたは真面目すぎてこまるわ。いい男なんだけどねえ・・。」
そんな彼の後ろには紫の着物を着崩した大柄の女性が白い扇子を持ちながら現れる。顔には白い能面をかぶり、黒く絹のように繊細でなめらかな髪。そしてその髪からまるでティアラのように三本の角が生えていた。
その腰には徳利。そして酒を飲む大きな杯がくくりつけられている。
「でも・・気持ちは私も同じよ。ふざけた連中のおかげで色々とめちゃくちゃになった。せっかくあの子のために色々とやっていたのに・・・。」
彼女の名前は鬼神女王・・・バサラ。
その名を聞くだけで皆は彼女を恐れるだろう。破壊の権化として・・・。
「・・・友も多くがうしなってしもうた。本当に・・忌々しい・・・・。」
まあ・・彼女の素を知る者は彼女を別の形で評価する。
「・・・お前は本当に愛情深いな。部下ではなく・・友か・・。」
彼女は愛情深いのだ。
「・・・・・・ああ。家族と言ってよかったよ。其れを・・失ってしもうた。」
「まだ・・私達がいるのですけどね。」
そんなバサラの元に現れる影もある。
「そうだった。私を含めた四大天はまだ健在だったね、玉藻。」
それは九本の金色の尻尾の小さな狐。其れがいつの間にかバサラの右肩に乗っていた。
「・・・・・それでも失った者は多いです。あの子・・・雪奈と巴はまだ悪夢を見るみたいで・・・。」
玉藻の言葉にバサラは酒を杯に注ぎ、一気に飲み干す。
「・・・あの子達はまだ若いからしかたない。だからこそまた・・・墓参りいこう。また立ち上がってきたとな。」
「だったらその時に私に声をかけてくれ。いい花がある。」
「・・・すまないねえ。あんたの育てた花ならあの子達も喜びそうだよ。いい酒も作ってくれているし。」
バサラはライバーガルにお礼をいう。
「何・・友として、同士としてこれくらいはさせてくれ。酒に関しては鬼としての率直な意見が実に参考になるのでな。それにこちらも同じだ。四天王は生き延びてくれていたが・・国の者達が・・・・・。」
「・・・まったくお主はまさに「王」なのだな。」
「魔王なのだがな。民を想うのは当然・・。」
「やれやれ・・二人とも、浸っているね。」
そんな二人の元にもう一人の魔王がやってくる・
よれよれのスーツの上から白衣を纏い、丸ぶち眼鏡をかけたぼさぼさの銀の髪の男。
「来たか・・変人。」
「いやいや・・奇人というべきじゃろ?」
そんな彼に二人は容赦ない。
「ふふふ・・何を言っているのかね二人とも。」
だか・・・彼は断言する。
「普通だったら普通の物しか生み出せない。だから変人、奇人?そんな言葉は私にとってむしろ褒め言葉になるのだよ!!」
『・・・・・・。』
いささか頭がぶっ飛んだ彼の名は機械王――グレリア・ブリッツ・ハイミナンツ。
彼はコロニ―で、かつてコロニ―で並ぶ者がいないほどの超天才科学者であり、そして同時に稀代の哲学者。そして・・変人であった。
「・・・やれやれ。本当にお前といると飽きない。」
「ありがとう。むしろこちらもこっちの話を理解してくれる者達がいて嬉しいよ。」
「・・・こっちはかなりの歳を生きておるからその経験から分かるのだがな。」
「こっちとしてはその経験も貴重なのだよ。私は生を受けてまだ人並みにしか生きていない。だから年上の・・。」
「ほう・・遠まわしに年増といいたいのかね?」
女性に年齢を聞くのはご法度である。例え鬼であってもだ。
大気を震わせるほどの怒気が彼女から伝わってくる。
「いやいや・・歳を経ることで美しさや教養がみかがれる典型例ではないか。気にすることはない。むしろ誇っていいと!!」
だが、その怒りをあえて受け流し、その上でむしろ称えてきたのだ。
気にするのではなく誇ってくれと。そう言われると怒るに怒れないだろう。
「・・・・・はあ・・・。怒るのが馬鹿らしくなるわ。まあ・・あんたがそんな悪意など欠片も持っていないのが分かるからだけど・・・。」
結構彼は無邪気である。
「・・それで・・そっちの身内を見てどうだ?」
ライバーガルの言葉にグレリアは表情を少し変える。
「・・・うん。この世界の三つの技術を融合させるのにもう成功させている。しかもこっちが思いもしなかった発想を持ってね。あれは驚いたよ。まさか・・あんな方法でこっちも苦戦していた問題を解決させるとは・・ね。」
それは弟子に対する親愛とその成長を喜ぶ顔である。
「こっちも負けていられない。バサラ。あの方法を教えてもらってありがとう。」
「いや・・・でもあの子がやるのは私らが使う術よりもはるかにすごいからねえ。」
「いやいや・・・あれだけでも十分。其れに二人はそのためのある条件を満たしていました。勇者達と同じようにね。すぐにバサラとライバーガルの分も用意しますよ。ふふふふふ・・・。」
彼は本当に楽しそうだ。
「新しい世界をあの子と一緒に作っていく。そんな楽しみがあって本当にうれしいよ。」
彼は栄誉など興味ない。
あるのは創造とそこから来る新たな発見、そして・・。
「今度こそ・・・・この世界に絶望ではなく希望をもたらしたい。それがあの子と私・・・師と弟子ではなく、同志としての共通の願いだから・・。」
ありきたりかもしれない。そしてとても小さな善意だった。
「ふっ・・・・・。」
「本当に変なやつじゃのう・・・・。」
そんな彼の一面を二人は友として知っている。
「みなさんも揃ったようだね。」
そんな彼らの元に奇跡使いの魔王が現れる。
「冥王はどうした?」
「彼は今別件で・・・・・・。」
――――でも会話に参加できるように使い魔を送っています。
その言葉と共に月の光のごとく淡い光を放つ蝶が現れ、そこから冥王の声が聞こえてくる。
「大方勇者達の様子を直接見に来たといったところか?」
――――うっ・・鋭いですね。
「やれやれ・・心配症じゃのう。あの子達がいれば世界崩壊の危機クラスでもなんとかなるほどじゃ。ましてや・・・・・。」
―――――それでも心配してしまうのです。世界で間違いなく一番だと断言できるほどの不幸の星の下にいるのに真っ直ぐでお人好しで、それでいて無茶しますから・・。
冥王にとって、見守るべき対象が五人の中にいるらしい。
「まあ・・・こっちの事情はすでにあなた達も知っていますし。」
「・・・ああ。驚いたぞ。」
奇跡使いの魔王の秘密。
「・・・難義じゃのう。」
それを三人はこの三年の間にしる。
「ふふふ・・僕達に秘密を作るなど愚かな行為だよ。まあ・・知れてよかったけど・・。」
何しろ三人とも各世界の魔王となった者達。
色々な意味で普通ではないのだ。特に機械王の天才性は異常すらも通り越している。
それこそ神すらしのぐ程に。
冥王も彼らと同じである。
――――おかげでようやくこっちもフェアになれたよ。一方的じゃねえ・・。
四人の反応に奇跡使いの魔王は肩をすくめる。
「・・・正直あなた達を侮っていました。いや・・本当に何と言えばいいか・・。・」
自身の計画を進める中で自身の素性を明かす事はしなかった彼。
「いらぬ気づかいは無用という事だ。まったく・・。」
「おかげで胡散臭さが一気に払えて清々するわい。」
笑う大樹の魔王と鬼神女王の二人。
「・・・それに意外な事が色々とわかって・・・。」
――――こちらも動きやすい。
機械王と冥王に至っては軽口をたたくほどだ。
でもそれが逆に五人の団結につながる・
「その代わり・・一緒に覚悟してもらいます。この世界に私達がもたらす変革に。」
奇跡使いの魔王・・後に奇跡王と呼ばれる彼を中心に魔王達も本格的に動き出す。
「ふふふふ・・・むしろこちらとしてはあいつらに借りを返せる。この私にした仕打ちをかえせるというものだ。」
「・・・友の仇やからね。思いっきり暴れさせてもらうよ!!」
「私が生きていることは伏せたいですけど・・・こちらもせっかく実現しようとしていたあれをぶっ壊してくれたお礼はしたいとおもっていたのですよ。ええ・・・思いっきり。」
―――――――こちらも立ち上がる理由はある。
「・・・ええ。それでいいです。その動機も分かっている上でもちかけてきた連合。慣れ合いなどとは思っていたのに、ここまで深い結びつきになるのは想定外でした。まあ、それもまた好材料になってしまったのだから面白い。」
奇跡王は改めて言う。
「私が貴方達を世界の楔をして選びました。私が混沌としたこの世界に打ち込む楔としてね。もくろみどおり、その役割はまっとうしてもらいますよ?」
奇跡王はマントを翻して告げる。
「これから私達は魔王連合として・・・。いや・・ふさわしくないですよね。魔王らしくない。うん。こういった方があなた達もしっくりくるはずです・」
魔王達は動き出す
「・・・新生魔王軍・・始めましょうか。」
世界を再生させるために。