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箱入りみかん

わんこの一日。

作者: 白縫 綾

飼われているの心情ってどんなかんじなんでしょう。



 わたしは、小さいときにリコさんに貰われました。

リコさんというのは、わたしの飼い主の名前です。

 小さいときといっても生まれたばかりだったのでほんの少しも覚えていませんがそうだったらしいのです。リコさんがそういっているのだから間違いないのだとわたしはそう思います。


 リコさんは、毎日をとても“たぼう”に過ごしています。

 わたしには“たぼう”の意味を分かりませんがリコさんのお母さんがリコさんにそういっているのを聞きました。

 今、リコさんは家にいません。多分“たぼう”だからです。

 いるのはわたしとリコさんのお母さん。でもそのお母さんもときどきどこかへ行ってしまうのでたまにさびしくなります。リコさんのいない家はとても静かです。


リコさんのお母さんもわたしには優しいです。でも一、二回くらい頭をなでるだけなのです。

たとえ気分屋でも、やっぱりわたしはリコさんが好きです。

 リコさんは色んな顔をします。優しかったり、怒っていたりします。さびしそうにぼんやりしているときもありますし、悲しくて泣いているときもあります。

 でもそんな気分屋さんでも泣いているのは見たくありません。でもそんなときでもわたしが得をするのは、リコさんがわたしをぎゅうっと抱きしめてくれるからです。ちょっぴり嬉しかったりもします。


 一番いいのはリコさんの機嫌がとってもいいときでしょう。

 そういうとき、リコさんは“たぼう”の中から少しの時間をくすねてわたしの相手をしてくれます。昨日もそうでした。わたしとリコさんは散歩に行きました。雨があがって遠くに虹が見えて、リコさんはきれいだねといいました。


 コースはだいたい決まっています。

 車という危ないものが通らない小道はリコさんの家の前の田んぼぞいにあります。首の紐をはずされたわたしはそこを駆け回って遊びます。上の青色から水が降ってきたときは最高におもしろいです。ぬかるんだ泥を転ばないように走り抜けて、疲れるくらいに走ったらまたリコさんのもとに戻ります。

 リコさんが笑ってみているからうれしさも二倍です。

 だからわたしは走ります。走って走って、リコさんを笑わせます。

 だってリコさんは、“たぼう”なんですから。



うつらうつらしていると、がしゃんという音が耳に入りました。

 わたしは耳がいいので大抵の音は聞き分けられます。

 軽い足音はリコさんの。重くてどすどすした足音はリコさんより“たぼう”な

お父さんの。ふわふわしたスリッパを履いてぱたぱたする足音はお母さんの。

 わたしが聞いたのは軽い足音でした。

 まるで反射のように目がぱちりと覚めます。


 わたしは走ります。ぬかるんだ泥道を全速力で走るときよりも早く、早くと走って玄関まで行きます。

 そういうときに限ってわたしは転んでしまうのですが。

 転んでしまうのは、家の床がふろーりんぐというつるつるした素材でできているからです。

 わたしは足を滑らせて転びます。

 リコさんはそれを見て笑いただいまといいます。

 わたしはヒトではありませんからおかえりはいえません。

 一回吠えるだけで十分なのです。リコさんにはわたしがおかえりといっていることを知っています。だからわたしは一回だけ吠えておかえりといったつもりになるのです。


 今日はリコさんは遊んでくれませんでした。

 「後でね」といって机に向かいました。リコさんのいう「後で」は本当ではないことをわたしは知っています。


 それでもちょっぴり嬉しかったのは、

 寝るときにわたしを布団の中に入れてくれたことです。

 リコさんはそれをするとお母さんに怒られます。それを知っていてするのです。


 少しだけ胸のなかがほんわりとしたような気がしました。

 わたしは目を閉じます。

こうしてわたしの一日は終了するのです。



これを読んでくれたあなたに感謝の言葉を。



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