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閑話 副隊長の日常

 僕はユーリ・トレイス。トレイス家の三男として生まれてきた。トレイス家は代々、騎士として王族の方々に仕えている一族だ。


 僕もそのうち王族の誰かに仕えるだろう。そのことを父の口から聞いた日だった。彼と出会ったのは。


 はじめは、ただ、えらく若い鍛冶師の人だと思っていた。それがまさかこんな名刀と言っても過言ではないモノを作り出せる人だとは全く思いもしなかった。


(その分、値段が破格だったけど)


 

「よぉ、ユーリ。久しぶりだな」


 騎士団の宿舎を歩いていると、後ろから声をかけられた。


「ルーネス隊長……お一人ですか? そうですね、お久しぶりです」


 一見、チャラチャラしているこの男、ルーネス・フォード。彼こそ僕の所属する近衛隊の隊長なのである。


「いや、私もいるのだけどね」


「っ、クラウス騎士団長もですか。これは失礼しました」


深々と頭を下げる。


 この方、レイン・クラウス騎士団長。珍しい女性の騎士でありながら騎士団長にまで上り詰めた方だ。キラキラと光るような金髪、海のように澄んだ碧眼。プロポーションも抜群で、周りの騎士からは「戦場の華」と、言われている。


 逆に、盗賊たちからはその強さ故に恐れられている。


「いや、気にすることはないよ」


そう言って少し微笑む騎士団長。女性には不自由したことはなく。いろんな人を見てきたが、この人はどこか高嶺の花という感じがする。


「そうですか。ところで、お二人はどうしてこちらへ?」


「ああ、俺? 俺は今日、お前の剣が届くって聞いたからどんなかなって。あの剣(・・・)にかわる代物だろ? 気になってな」


「私はルーネスに誘われてね。君のことは以前から知っていたしね。騎士団ウチでは二つ名もちの盗賊とやりあえる騎士は近衛隊の隊長か、君くらいなものだし」


「ありがとうございます。そう言っていただけると光栄です」


「で、その剣はその腰にあるやつか? ずいぶん変わった剣だな」


目ざとくルーネス隊長が僕の【蒼天】を見つけたようだ。


「……剣ではないですね。刀、と言うそうです」


「ふぅ~ん。とりあえず、抜いて見せてくれない?」


ルーネス隊長が「頼むよ、ね?」と笑いながらも言ってきたので、渋々抜くことにした。


「分かりました。ただ、忠告しときますよ。驚かないでください」


「なにそれ? りょーかいした」


「うむ。私も問題無いと思う」


「では」と、僕は【蒼天】を鞘から抜く。やはり、何度見ても綺麗だ。窓から入ってくる光でキラキラと輝いているように見える。その刀身はやはり人を魅せる力を持っているようで、隊長も、騎士団長も、目を見開いて驚いているようだ。


 その様子を確認すると、僕はゆっくり鞘に収めた。


「どうですか?」


最初に口を開いたのは騎士団長だった。


「……すごい。これほどに美しいものはほかに見たことないよ」


「ああ、俺もだ。……ユーリ! その刀? とやらは一体どうしたんだ!」


「これですか? 友人の鍛冶師が作ってくれたのですよ。付き合いは本当に短いんですけど、すっかり意気投合してしまってですね」


「…………その人、紹介してくれない?」


「いや、紹介とかは勘弁して欲しいと本人が言っていたので無理です」


 そう言うと、ルーネス隊長は「え~」と声を上げた。


「まじで?」


「ええ、本気で」


「……ほんとに?」


「…………ええ」


「え~~~」


 と、駄々をこねる子供のような隊長を見かねたのか、騎士団長が動いた。


「駄々をこねるなルーネス。私もその人に会ってみたいと思うが、本人が嫌だと言っているのだから仕方ないだろう? 気になるなら自分で探せ」


「そうか! 早速探してきまーす!」


そう言うと、ルーネス隊長は走って消えてしまった。


「すごいですね」


「そこまで君の剣が素晴らしいということだよ。でも、その剣を本当に実戦で使うのかい? もったいないような気もするんだけど……」



 それなら、と。シンに見せてもらったことを同じようにして団長にも見せる。一度、驚愕の表情を見せるが、暫くすると、「本当にすごいね、その剣は」と賛辞をくれると、仕事があるからと去っていった。





 後に、この騎士が【蒼鬼】の二つ名を持つことになるのはまだあとのことである。

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