第五話 蒼天
今回はなんにもないですね。
作るからにはなんにせよ本気がモットーの俺達。俺の場合は自身が受けた仕事はこれが初めてなのでやる気は100%さ。
そして今は鍛冶場にいる。勿論、ユーリの剣を作るための段取りを今しているところだ。
「……やっぱり、作るには日本刀でしょ」
この国には日本刀、刀は存在していなかったらしい。らしい、というのは以前に俺が親方と一緒に作ったからである。それまでは見たことも聞いたこともなかったらしい。
ほかの国に行けば似たような剣は見たことあると言っていたけど。
「うし、こんなもんだろう」
必要なものをあらかた持ってきやすいように引き出しておく。ただ、未だに悩んでいることがある。
「どの鉱石にしよう?」
通常は砂鉄を使うのがセオリーだけど、この国には砂鉄はない。俺の時は、ルクリアって金属を使用していたのだけど、今は手元にはない。
「心鉄は……メリア鉄でいいかな。こいつなら問題ないはず。皮鉄はどうしよう」
なるべく良質のものがいい。目利についてはこの十数年間で親方に叩き込まれたので自信はある。けど、なかなか良さそうなものがない。質はもちろんのこと、数的にもだ。
「なにか…………あ、輝石があるじゃん!」
そういえば、輝石があったな。確かにあれならいけるか? 確か輝石の性質に魔力を込めれば成長するってのがあったな。いや、でも待てよ。
「いくら【銀月】相手にできるからって、ただの騎士様に料金払えんのか?」
輝石を使うんだ。そりゃ、値段は一気に跳ね上がる。払えるの? あいつに。
「まぁ、その時は内蔵売らせばいいか」
問題は解決したな。じゃ、早速作るとするか。
まずは、メリア鉄を一つにまとめるところから。大型の釜の中に入れて熱する。幸いにも? なぜか、炭は存在していたので炭を使用している。
そいつで熱して、数分ごとに少しずつメリア鉄を足していき、約二十分位でノロ(不純物の塊みたいなもの)抜きをする。
その工程を何度も繰り返すこと八時間。あたりはもう真っ暗ですとも。ようやく本体を取り出し、水につけておく。ちなみこの作業を他の職人に言うと馬鹿にされるらしい。親方が言ってた。
こちらの職人さんたち(ドワーフを含む)は高温で焼き上げるらしい。炭なんてので焼き上げるなんてバカのやることだと言われるらしい。バカはどっちだよって話ですけどね。
低温で焼き上げて不純物を出すのがこの作業の理由の一つでもあるのにさ。ああ、ちなみにドワーフの武具が評価されているのは特殊な加工をするかららしい。企業秘密ですが。
そこからは大概の人が連想されるあれ。そう、ひたすら叩く! こちらの世界には機械なんてないのですべて手作業。
時折、水打ちをして水蒸気爆発で不純物を飛ばしたり、泥やらワラの灰をつけて火の中に入れて溶かしたりするけど、作業工程は割合させてもらう。
こんな男が汗水たらしながら金槌ふるってる姿なんて見たくないでしょ?
その作業を十数回繰り返し、心鉄は完成。
皮鉄もほぼ同様にして鍛える。
後は、皮鉄で心鉄を巻き、切っ先を作り、刃を打ち出しつつ鍛えればほぼ完成だ。あとは、波紋をつける作業をし、柄、鍔をつければ…………
「おし、完成したーーーーーー!!!」
我ながらよく褒めてやりたい。全ての作業を失敗することなく、見事にやり遂げたのだから。日にちも約束していた三日後の朝である。太陽も登っている。
「いや、ほんとによくやった俺! 三日も徹夜なんて良く出来たな俺。……あ、やばい。気ィ抜くとすぐにでも堕ちそう」
ダメだ。こいつを渡すまでは。って、あいつがいらないって言う可能性もあるのか。うわ、こんなに頑張ったのに? まぁ、いらないなら俺が使うか。
ユーリが来るまで暇なので俺は後片付けをすることにした。
太陽が真上に来た頃、そして、俺の片付けが終わった頃にユーリはやって来た。
「やぁ、見に来たよ」
「おっす。待ってたぜ」
「どうしたの? すごい顔だよ?」
会ってすぐさま言われるとか、どんだけすごい顔してるんだ俺。まぁ、そんなことはいい。後で寝るから。
「そんなことはいい。早く見てくれ!」
俺が力強く言うと、ユーリはそんなに自信があるの? と笑っていた。
奥の部屋から俺の渾身の力作を持ってくる。
「へぇ、変わった形をしているんだね、その剣は。」
「まぁ、な。とりあえず抜いてみてくれ。欲しいならそいつの使い方を教えにゃならん」
こいつらが使ってる剣と刀じゃちっとばかり技術が違うんでね。
と、ユーリが刀を抜いた瞬間、表情が一転した。それまではニコニコとしていたのに、急に恐ろしいくらい真剣な顔になった。
俺が何度見てもやっぱり見とれてしまう。刀身は淡く、空のように澄んだ蒼色をしていて、更にその波紋がなんとも言えぬ美しさを引き出している。それはもはや芸術と言ってもいいレベルだと思う。
…………しばらくの間硬直が続く。
…………、
…………長くない? え、どうなの。気に入ったの?
「えっと、どうかな? 一応、今作れる最高のものだと思うんだけど……」
俺がそう言うと、ハッとした表情をすると、刀を鞘に収め、こちらを向いた。
「いや、こんなに美しい剣を見たことがなくってね。これ、王族が所有している神剣かと思うほどの美しさだね」
「その神剣がどんなかは知らないけど、正真正銘、戦うための武器さね。切れ味はそうだな……あ、お前が腰にさしてる鈍、そいつでいいや」
ユーリは? と表情をしていたが、剣を両手で支えるような形で持った。
「よし、そのまま持っててくれよ。…………ハッ!」
カキィン!
上段から一気に振り下ろすと、剣が真っ二つに割れてしまった。ふふん、どうよ!
俺が得意顔でいると、ユーリは更に驚いていた。
「すごい。一応、騎士に配布される剣だからそれなりのものなはずなのに。いともたやすく」
「だろ? どうかな。一応ユーリのために作ったんだぜ。お前はこっちに来て初めての友達だからさ」
「僕はいい友達を持ったのかな? ありがとう。その剣、いただくとするよ」
「あ、こいつは刀だぜ。そこんとこ間違えんなよ」
あんなのと一緒にしないで欲しい。こっちは最も美しい武器だぜ。
「そうなのか。じゃぁ、その刀を僕に売ってくれ」
「了解。あ、こっちの書類にサインして」
俺は一応、ユーリが刀を買ったという証明の書類にサインさせて、俺のサインも書き、わたす。
「はい。これで契約完了。えっと、全部でお代は2457万5400メルになります」
「…………え?」
「なに驚いた顔してんのさ」
「いや、だって高くないかな?」
笑顔が引きっている。
「だってよ、特殊な製法で、特殊な金属ふんだんに使ったんだぜ? そんなもんだよ。いくら騎士だからってまけないぜ?」
「…わ、わかったよ。その値段でいい。後日持ってこさせるよ」
「毎度あり~」
「あ、それと。この刀に名前ってあるの?」
「何で?」
「いや、名刀には皆、名前があるしさないのかなぁ、と。」
それもそうか。こいつの親としても名前をつけてやりたい。
「じゃぁ、【蒼天】ってのはどうだ?]
「うん。いいと思うよ。ありがとう」
俺たちは最後、握手をするとユーリは店を出ていった。さて、寝るか。俺は戸締りをすると、ベッドの上で気を失った。
後日、執事服を着たご老人が大量の金貨を持ってきたとさ。
アイツ、おぼっちゃまだったの!?
シンはユーリが騎士としてそれなりの身分だと気づいていません。