第四話 初めてのお仕事
翌日、俺はまたしてもクレーネにいた。理由は勿論鉱物の発見である。製造方法の理由からかなりの量がいるため、一昨日の分では店なんて開けないからである。
「しかし、ここには狼しかいないのかよ……」
洞窟内にはカンッ、カンッと金属と岩が当たる音が規則正しく響いている。そして俺の周りにはグレイウォルフの死体がいくつも転がっている。
採掘作業の途中で襲いかかってきた狼たちだ。村の近くのクレーネには狼意外にも、蟲やら蛇やらいたんだが、ここでは全く遭遇しない。
確かにそのほうが採掘している際は楽なのでありがたいのは確かだ。昔、気がついたときには大量の蟲に囲まれていた時はマジで死んだかと思ったからな。
「ん? なんだ」
岩を削っていると、変な手応えを感じた。
「これは……蒼炎の輝石か!? いや、そんな馬鹿な……」
削った隙間から見えた蒼い光を鈍く放つ鉱石。いや、でもこんな区域にあるはずがない。一年ほど前に、とある依頼人が蒼炎の輝石で短剣を作って欲しいという依頼が親方のとこに来たのだが、その時は村の鍛冶師総出でクレーネの地下三十階まで潜って小石程度の大きさのモノを見つけたというのに……
そのまま傷つけないように慎重に削っていくと、人の頭ぐらいはあろう輝石が出てきた。色合いから、この質量から、そしてなにより人の目を惹きつけて離さないその美しい輝きから、間違いはない。
「嘘、だろ。こんなの見たことねーよ……」
俺はその美しさから、目を話せなかった。それはまるで夜空に輝く恒星のようで、神秘的かつどこか恐ろしさを内包した輝きだった。
このまま見続けるのは少し危ないかな。そう思い、新しく袋を取り出して輝石をそこにしまった。そういえば親方が言ってたな。
「7大輝石は、その美しさから魅了される人間が多く出てくる。そのせいでもともと数が少なかったところをめちゃくちゃに採りまくって今じゃめったにお目にかかれん」
やべぇ位いいものだけど。これは売ってはいけないだろう。多分いろいろ問題が発生してくるはず。となると素材とするしかないかな。
古い文献にはその高純度ゆえ、武具に使用すればいかなるものも貫き、通さないであろう。ってかいてあったしな。
「それでも、客は選んだほうがいいか」
こんなものを入手してしまったのだ。状態の良いまま保存したいので、今日は引き上げることにした。
鍛冶区に戻り、家までの道のりを歩いていると、店の中から見知った人物が出てくるのを見つけた。
「あれ、ユーリか? どうしたんだ」
「ああ、シンですか。久しぶりだね」
声をかけるとあいも変わらずの爽やかフェイスで返事をしてくれた。……地味にムカつく。
「どうしたんだよ、こんなところで」
「実はですね、昨日は近隣の魔物を退治に行ってたんですがね、帰る途中で【銀月】の盗賊団に遭遇しましてね。対峙したら剣が真っ二つ折れてしまいまして、どうにかならないかと……」
【銀月】か。確か指名手配度Sランクの人だっけ。かなりの知名度を誇っている。やってることがねずみ小僧とほぼ一緒で、巷でも義賊なんて呼ばれている。ほぼなのは自分たちの取り分もあるわけで……
「そうなんだったんだ……あ、良ければその剣を見せてもらってもいい?」
「いいですよ」
どうぞ、と渡される。鞘から抜くと、確かに途中から折れている。
(へぇ、結構いいものだな。……このタイプならいけるかな。後はユーリの腕次第だけどまぁ、【銀月】と対峙できるなら問題ないか)
お礼を言い、ユーリ剣をに返す。
「えっと、真っ二つに折れてるからまず修復は不可能だね」
「そっか……結構思いでがある剣なんだけどなぁ」
かなり落ち込んでいるみたいだ。
「で、ユーリが悩んでるのは多分いい剣がないからだろ?」
「そうなんだよ。どこに行ってもこれっ! ってのがなくてね」
やっぱりか……交渉してみるか。素材は足りてる。
「なら、俺が作ろうか?」
「え、シンが?」
少し驚いているようだ。俺は、コクリと頷く。
「勿論、完成品を見てもらってから買うかどうか決めてもらっていい。少し時間もかかるし、結構な金額になるけど、俺の最高の出来にしてみせるからさ……」
どうかな? と、問うとしばらくして頷くと、ユーリはわかった、と言った。
「それでいいのなら、僕は構わない。そうなると、いつ頃見に来たらいいのかな?」
「どうだなぁ……明日から三日後でどうだ?」
「了解したよ」
それじゃぁ、と別れを告げてユーリと別れた。
さて、初めての俺のお客さまだ。気合入れて行くか。
俺は走って家に向かった。早速仕事しないとな。