第十話
俺が気がついたときは、既に太陽が真上に来ていた。どうやら俺は鍛冶場の隣にある自室に寝かされていたようだ。
「気がついたか?」
隣には銀糸のように綺麗な髪の女性――――ミサさんが椅子に座っていた。ほのかに顔が赤いのは気のせいだろうか?
「その、思いっきり殴ってすまなかったな」
そう言って頭を下げるミサさん。
「いえ、気にしなくていいですよ」
そうそう。悪いのは俺なんだし。まさかそこまで花が嫌いだったとは。金品じゃなかったこともあったのだろう。
「そ、そうか。ところで、あの花束についてなんだが」
「はい、なんでしょうか?」
椅子に座りながらもじもじしているミサさん。はて、どうしたのだろうか?
「お、お前の気持ちは確かに受け取った。しかし、私たちは会って日も浅いし、何より弱い男とはな……」
おお! 素人なりに頑張って採ってきた俺の心がわかってもらえたのですか。ええ人や。
「だ、だから。お前には強くなってもらう!」
「はい? 強く、ですか」
話の流れが読めない。えっと、努力は理解してもらえた。会って日が浅い⇒信用がない? 弱い男⇒戦力外。ということだろうか? いや、俺は元々鍛冶師だし。戦力外でもいいような気が。
「ああ。この先、困難がいくつもあるだろう(盗賊として)。だから、お前は強くならないといけない」
「なるほど。分かりました。俺に稽古を付けてください」
確かに。俺はクレーネに潜るし、困難もいっぱいあるだろう。何故こんな話になっているかすごく疑問だが、素直に嬉しい。…………しかし、修行ねぇ。なんか既視感だな。
「ああ。まかせろ」
ミサさんは満足気に頷いた。
あれから4日が経過しました。うん。早い!
ま、それは置いといて。俺は、ミサさんの刀を作りつつ、稽古を受けていた。
「ハッ!」
上段からの一撃。しかし、簡単に避けられる。
「甘いぞ! その程度か?」
ミサさんの袈裟斬り。
「くっ、そ!」
俺はそれを少し、体制を崩しながらも袖打ちで返す。が、これも避けられる。でも、距離を取ることができた。
さて、間合いには入ってないがこの距離だと簡単に詰められる。ミサさんの間合いに入ると呼吸してる暇もないし、離れていても緊張感を常に保ってないとやられてしまう。
そのおかげか、俺は肩で呼吸している。
「……今日はここまでか」
ミサさんがそう呟くと、瞬間に姿が消え、気がついたときには一撃をもらい、動けなくなった。
「はぁ、はぁ。あ、ありがとうございました」
息絶え絶えになりながらもお礼を言う。最低限の礼儀だ。姿勢は激痛で正せないけど。
「ああ、おつかれさん。調子はどうだ?」
「そう、ですね。少しは見切れるように、なったのではないかと」
「そうだな。でも、私はまだ全力じゃないぞ?」
「……少しずつでも、強くなりますよ」
俺がそう答えると、ミサさんは優しく笑うと俺の頭を撫でてくれた。
「しっかり強くなれよ」
その後、呼吸が整うとミサさんと共に朝食とった。あの花束渡して以来、すごく優しい気がするのだが、気のせいだろうか?
この一コマが俺の朝の日常になっていた。
ミサさんからの稽古はどっかの騎士様とは違い、スパルタではなかった。毎朝飯の前に型を練習、その後にミサさんを相手に稽古と言った感じだ。
基本的にそのあとは自由。ま、俺の場合は刀を打っているのですが。
「なぁ、シン。今日はどこ行くんだ?」
朝食を済ませて火事場に戻ると、ローズが聞いてきた。俺とこいつは鍛冶場で寝泊りをしている。ローズはつい先程まで寝ていたのだろう。口元によだれの跡が見える。
「久々にクレーネに行くわ」
以前、木を切りに行くときに偶然発見したのである。
「クレーネに? 確かにあれは研究対象やけど、お前は関係ないやろ?」
「何言ってんの? 内部には普通に行くぞ」
名のある人は皆行っていると親方が言っていた。かの有名な工匠、ヴィレッタ・マギナだって潜っていたらしいしな。彼の作った武器は死後もなお、名作として世に出ている。ちなみに、工匠は武器から日用品までなんでも作る人のことだ。ヴィレッタは、ウェアード皇国の皇から工匠として最高の称号――工王を与えられた唯一の人間だ。
「内部に? お前、入ったんか!」
「……当然だろ」
「お前は魔素に当てられて平気だったんか?」
何やらローズが驚いている。魔素に当てられる? どういうことだ。
「それ、どういうことだ」
「王都では、学者がクレーネに潜ってたけど四年前に禁止されたんだ。ある学者がクレーネに潜ってたんだが。ある日のことだ。帰ってきてからそいつ様子がおかしかったんだ。するとその三日後にその学者が魔獣化してしまったんだ」
それ以来、禁止されていると、ローズは言った。魔獣化か、そんなの聞いたことないけどな。俺はなったことないし、大丈夫じゃね?
「ま、大丈夫でしょ。行ってくるわ」
「……まぁ、行くなら無理には止めないけど。気をつけろよ」
その言葉を背に、俺はクレーネへと向かった。
「いくぜ!」
クレーネで、俺はあいも変わらず狼を相手にしていた。何故かこのクレーネではエンカウントが多い。
飛びかかってきたウォルフを紙一重で避け、素早く急所に一撃をぶち込んで倒す。そして次のやつに警戒する。
俺の周りを三匹のグレイウォルフが取り囲んでいる。けれど、相手は狼。若干、腕が上がっている(はず)の俺を相手にしようなんて一年早いわ。
威嚇するばかりで近寄ってこないのでこちらから攻めに転じる。
目の前にいたグレイウォルフの頭を逆袈裟の要領で切り落とし、その勢いでもう一体を斬る。
その間に、残りの一匹が攻撃しようと迫ってくるが、なんとか避けて素早く仕留める。
「ふぅ。意外に多いな。これじゃおちおち採集もできないじゃないか」
刃についた血を専用の布で拭き取りながら考える。この区域は魔獣の出現が多いな。クレーネの内部はすべてつながっているらしいのだが、実際は知らない。出入り口が少ないため、その付近しか探索できないのである。下手すると一週間は出られないらしい。
そう考えると、この区画には階段が近くにあるのかもしれない。階段というのは下の階層、もしくは上の階層に上がるためのものだ。普通に考えて上の階なんて無いだろと思うけど、意外にも発見されている。
まぁ、何故あるのがわかるかというと。そこの魔獣の数が多いとか、少し個体が強いとかで判断するらしい。王都では全くわからなかったが。
「う~ん、どうしようか。採掘ポイントは見つけたけど……階段探してみるか?」
多分、あることに違いはないはず。……とりあえず探してみるか。
血を拭き終わると、俺はウォルフの爪などを取ると階段を探しに出た。
~その頃、とある国で~
「この魔法が成功したら、戦争にも勝てるぞ」
その人物は、とある国の宮廷の魔術師だった。今でこそ大陸には平和が訪れているが、早い時期に戦争が起こるだろう。敵対している国との交渉もかなり決裂してきている。
そこで王が命令を下したのである。
「我が国には大陸に真に平和をもたらす勇者が必要だ」
そう言った王は、この魔術師に命令したのである。勇者を呼べ、と。古来より異界より勇者を召喚する魔術は王族に伝えられてた。しかし、今の王は魔力の保持量が少なく、その魔法を使えなかった。
そこでこの術師が選ばれたのである。王が最も信頼していて、腕も百年に一度と言われるほどの才を持ったこの男が。
「――あとは、ここに魔力を注ぐだけか」
魔法陣についてはもう完成している。あとはここに相応の魔力を注ぎ、起動させるだけだ。
「よし、行くぞ」
男が持てる魔力を限界まで注いだ時だった。魔法陣が輝き、視界が光で奪われる。
ようやく光が収まり目を開くと、そこには見たことのない服を着た女性がいた。男でないのが気になったが、彼女から感じられる魔力は自分よりも多い。そこで男は思った。ああ、成功したのだと。
「はじめまして、勇者様」
そう言って男は笑った。




