「花瓶(または箒乗りの物語)その2」
ダイニングキッチンは広く、そして多くの食器が綺麗に片付けられていた。
「モーリィは、博士から私達の事を聞いていると言ってたわよね」プリモンドは、確認するように言ってから杖を軽くふった。すると戸棚の下の段の戸が開いて、いくつかの袋が飛び出してテーブルの上に並んだ。
「うわーテレキネスですね。博士の研究室にも何人か居ますよ。ぼく、地味なこんな能力より本当はそっちの能力に恵まれたかったんだ」モーリィは、テーブルの上に並んだ小麦粉と砂糖と塩とベーキングパウダーを手に取って目をまんまるにして言った。
「ふうん、以前遇った時に博士もそんなこ難しい専門用語を使っていたけどねぇ、でも心を読むのは、私達の姉妹の誰にも出来ないから、地味って事じゃないと思うわね」プリモンドは、冷蔵庫の戸を手で開いて中からバターを取り出した。
「バターは冷たいのが一番なの、術を使って取り出すと、時々柔らかくなっちゃうのよ何故かしらねぇ」彼女は包丁でバターを切り細かく賽の目のようにした。
そして、小麦粉とベーキングパウダーをふるいにかけてボウルに入れると、そこに少しの砂糖と塩を入れ、そこに小さく切ったバターを落とした。指がそのバターを小麦粉を手早く混ぜていった。
「この作業も魔法じゃ無理ねぇ、バターが溶けないように、てきぱきとそして、まんべんなく粉とバターが混ざって、そぼろのようにするの、手でするから、なんとなく心がこもっている気にもなるものね」モーリィは、じっとその仕草を見つめていた。
「プリモンドさんって、お母さんみたい」
「私はまだ独身です」プリモンドはちょっとだけ少年を睨んだ
「ごめんなさい、何か手伝いましょうか?」
「ん、じゃあ後で型抜きを手伝ってね、それからそこにやかんがあるから水を入れて火にかけてね」
「はい」プリモンドは、そぼろ状になった生地をまとめて一つの塊にすると。ラップにくるんで冷蔵庫に入れた。
*
上の階では、ダイモンドが分厚い本を読みながら廊下で鉄鍋にあれこれ薬草を入れて調合し、トリモンドが箒で部屋の床の埃を掃きだしていた。長い間使っていないこともあり、箒のひと掃きで埃がダマになって固まりを作りその中から小さい虫が隅に逃げていった。そして床に落ちていた本や道具などを動かす度にゲジゲジやムカデやヤスデが下から這い出して来るのでトリモンドは悲鳴をあげっぱなしだった。
「お姉ぇさん、早く虫退治の薬を出してよ、もう嫌ぁ」
「この屋敷の虫の生命力は結構強いからなぁ、そう簡単にできないんだな」
ダイモンドは、鍋の中に丁度小さな骨片を入れた所だった。
「しかも、人と環境に優しくしないといけないしな」
「環境よりも、絶対街で殺虫剤を買いに出た方がいいわよ」トリモンドはまた大きな悲鳴をあげて、そそくさと床を動くムカデを靴で踏んづけた。
「あのガキのせいで、くそ!くそ!」とさらに2度3度踏んづけた。
「何言ってんだ、元を辿ればおまえが呼んだガキじゃないか」
「もっと、ステキな人が来ると思ったんだもの」
「お目当てはそれかい」
「あ・・」とトリモンドは、へへと笑ってみせた
「ま、1/4ぐらいは・・」
そのとき、ガサガサという音がしてベッドの下から大きなムカデの頭が出てきた。
しかも虫サイズの大きさではない、大きさだけみればワニ程のサイズだった。
「ぎゃー!!」トリモンドは大音響の悲鳴をあげて箒にまたがると、ふわりと部屋の中で浮遊した。
「やだ!やだ!なんでこんなのが居るのよ!」
「おやおや、これはオオヨロイムカデだな」ダイモンドは鍋をそのままにして立ち上がると、大きなムカデの一歩手前で中腰になり手を出してひらひらさせた。
「ほれほれ、おいでおいで」
すると、大きなムカデは、ゆっくりとダイモンドの前に進みでて。ふにゃあああと奇妙な声を出した。
「大丈夫なのそれ?」天井すれすれを先回しながら、トリモンドが訊いた
「見た目とちがって、こいつ草食性なんだよ」ダイモンドは大きなムカデの頭をなでてみせたふにゃあああとムカデはまた鳴いた
「しかし、どこから湧いてきたのよ」
「んーこの前、多元宇宙の穴をあける実験をしていたからなぁ、どこか閉じ忘れたかな」
「えーまた、やったの。やめてよ、その変な実験」
「まぁまぁ、どっちにしろこの部屋にこのムカデを置いておくのはマズイなぁ」
「あの子目を回して卒倒しちゃうよ」
「そうだな、地下にでも隠しておくよ」
「大丈夫?喧嘩しないかしら」
「まぁ、どっちも大人しいから大丈夫だろ」
ダイモンドは、ちょっと隠して来るといってムカデを突付きながら移動を始めた
「それまでに掃除を終わらせておいてくれ」
「どうでもいいから早く連れてって!!」小太りのダイモンドが出て行くとようやく
トリモンドは床に下りて、掃除を再開した。すーっと大きな蜘蛛が降りてきて、トリモンドの顔に張り付いた。
「もういや!!」