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「花瓶(または箒乗りの物語)その1」

 昔、昔、あるところに、3人の魔女が大きな洋館に住んでいた。家の背後は木の生い茂る林が広がり、前には年がら年中実を付けている葡萄の木と、冬ですら青々した葉が萌える色々な野菜が育つ畑が遠くの道まで続いていた。

 時は春、畑には多くの新キャベツがまるまると太り、この辺りでは秋に実る麦が金色の穂を重そうに垂れていた。そんな季節を度外視したのどかな風景の中を一台の車がのんびりと土煙を立てながら走っていた。

 車は、黒塗りのタクシーであり、鼻髭を蓄えた太った運転手が片手で大きな洋館を指した。

「あれが、魔女の家さ」

「魔女、ですか…?」後ろのシートに座っていた少年が不思議そうに言った。子供用のスーツを着てまるで披露宴にでも行くような姿だった。

「なぁに、単に町の連中がそう言っているだけさでもな、畑をずっと見てみな」

「この辺りはあまり暖かい地方で無いのに、もう麦が実っていますね、それに葡萄も」

少年は、車窓に顔を付けて口をあんぐりと開けていた。

「な、不思議だろう。でもここだけは年がら年中なにかしら実を付けているし、外の街で雪が降ってもここだけは雪が降らないのさ」

「本当におかしな所なんですね。」少年は未だ畑を見ていた。

「でも、ここで農業をやると儲かりそうですよね」

「そうだな」運転手は、笑いながら言った。

「でも、生憎とこの辺り一体は、街の不動産屋が全部買いとったらしくてね、来年には大きな宅地になるらしい」

「じゃあ、魔女の家も?」

「さあね、立ち退くしかないのじゃないのかなぁ」車は、畑の中の一本道を走り続けていた。正面には、古い洋館の姿が見えた。凹凸の激しい道に体をゆさぶられながらタクシーは、静かに走り続け。やがて玄関の前に静かに停止した。

「坊主、魔法にかけられてカエルにされるなよ」料金を受け取った運転手は、そう言って来た道を戻っていった。


 さてと、と少年は首に巻きついた蝶ネクタイをゆっくりと締めなおして、ドアのノッカーを背伸びをして掴もうとしたとき…

 突然ドアが開いて、箒を大上段に構えた背の高い女性が出てきた。

「てめぇ!何しに来た・・・え?あれ?」後ろから

「用なんかねぇ!!おや?」と太った女性が背の高い女性にぶつかった

「ねぇさん、箒、私のよ!!え?」と小柄な女性が背の高い女性が持った箒に手を伸ばし、そのまま動作を停止させた3人の女性は、視線を一人の少年に向けた。

「おや?僕、何か用かい?」と背の高い女性が構えた箒をそそくさと後ろの小さい女性に渡して言った。小さい女性はそれを大事そうに両手で持った。

「こんにちわ」と少年は、一枚の封書を差し出した。

「博士の依頼でお姉さん達の所に行くようにと言われまして」

「博士だって?」と背の高い女性が、封書を受け取って封を手で切ると中に入っている便箋を取り出した。3人の女性が顔をくっつけるようにしてその便箋の字を追った。

「拝啓、プリモンド、ダイモンド、トリモンドのお嬢様方へ、最後に逢ったのは10年前のことだったと思いが、今は如何お過ごしでしょうか。貴女達のご協力により、私の研究もかなり捗りまして現在は、多くの資料を纏め上げている次第であります。本当に感謝をしております、。さて、ご依頼のあった件でありますが、現状の多忙ゆえ、私自身が直にお伺いすることができません。その代わりに、かなり若年でありますが、私の研究を日頃から手伝ってくれるモーリィを派遣することにいたしました。

 不束者ではありますが、役に立ちますのでなんなりと、彼に御用を申しつけください。

   ドクター・ウルフガング」


      *


「あー?あの変態博士か?」思えば、3人とも老齢のその博士に研究の為とか言われて、胸や尻を散々触られたのであった。背の高い女性は、便箋を封書に戻すと少年に渡した。

「助力を頼んだ覚えはないの、僕、折角で悪いけど帰ってくれるかしら」

「えー!」少年は、後ろを振り返った。広大の畑の向こうではタクシーが砂煙をあげて帰途についている。

「おねえさん達お願いします。折角ここまで辿りついたのに返さないで」モーリィは、背の高い女性の手を両手でしっかり握った。

「ごめんなさい」背の高い女性は小声で詫びるように言った。

「あの…おねえさん」と小さい女性が、小さい声で囁くように言った。

「なあに、トリモンド」

「あの、まだ小さいし、せめて今夜だけでも泊めてあげたら?」

「スケベ博士が役に立つというんだ、小さくてもなんかできるのじゃないか?。」太った女性が横から口を出した。両手を握られたまま背の高い女性は、後ろの二人の女性を睨んだ。

「なあに」

「本当は優しいのに」と少年は口を挟んだ。「秘密が漏れるのが不安なのでしょ。秘密の事は、博士から聞いてますから、その事は気にしなくていいんです。」

「やだこの子!」背の高い女性は、少年の手を振り払った。

「心を読むわよ」

「はい、心のほかに物に宿る残留思念も読み取れます」少年は、背の高い女性に挑むように下から見上げた。目が真剣だった。

「だからなあに?」背の高い女性は両手を両方の腰に当てて言った。

「あの」と小さい女性が脇からまた声を出した

「ごめんなさい、私なの」

「何かあるのかい?トリモンド」と小太りの女性が間に挟まりながら聞いた。

「私が博士に手紙出したの」

「えー!」と背の高い女性と小太りの女性が思わず声をあげた。

「なんてことを」背の高い女性が天を仰いだ。

「だって、いいかげん花瓶の謎が解けなくってもう面倒なんだもの、だからそういう能力のある人がいたらなぁって、手紙を出しちゃったの、それに、この家もそろそろ追い出されるとなると早く解決したいじゃない」

「ああ、お前はお父さんの置手紙を覚えていないのかい?」

「覚えているわ、私達3人の最後の力は花瓶に隠してあるから、3人で協力して探しなさいって…」

「おー」背の高い女性は、上を向いた。

「でも、確かにそうかもなぁ」小太りの女性が言った。「私達には、この子のような力は無いからさ」

「ダイモンド、あんたまで」背の高い女性は、二人の女性を交互に見てから、ため息をついて、少年の頭をポンと軽く叩いた。

「そういうことらしいわね。私の負けだわ、仕方ない、宜しく頼むわ」

「はい」と少年は、笑みを湛えて返事をした。

「私は、プリモンド、そしてこの子がダイモンド小さいのがトリモンドよ、えーとモーリィだったわね」

「はい、とりあえず、中に入って。トリモンド、この子のお部屋、用意できる?」

「2階の空き部屋はどうかしら?」

「そうね、じゃあ掃除はトリモンドがやってね、虫避けはダイモンドお願いね。私は、その間にこの子にクッキーでも焼いてあげるわ」はい、と返事をして二人は奥に駆けると、各々箒と鉄鍋を持って2階に上がって行った。

「さて、私達はちょっとティータイムにしましょ」モーリィは体には大きめのトランクをヨイショと持ち上げ、プリモンドの後ろをちょこちょこ歩きながら付いていった。


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