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涸澤村(4)

 公園に交わる道路から、仲間の機械が飛び出してきた。そして、後を追う様にゆっくりとあの半球型の機械が、道路から姿を現したそれも一体や二体の話ではない、あの巨体の機械が今までどこに隠れて居たのか、次から次へと湧き出すように、ありとあらゆる道路から広場の中にへと入ってきた。ヘッドセットからは、雑音だけが聞こえた。あの奇妙な雑音だ。そしてゆっくりとした動作とはいえ彼らの周囲は完全に囲まれた、広場はまるで機械に埋め尽くされたようだった。

 5体の仲間達が、寄り添うようにして火器を構えていた。他の仲間達は手遅れか、別な場所に逃げたのだろう。

 「隊長!応援を!」誰かが叫んだ

 「無理だ。各自自力でゲートまで移動しろ」じりじりと機械は包囲を狭めてきた。既にこの機械に持参の火器が有効で無いことだけが分かっているだけに、彼らはゆっくりと

後退し、互いに身を寄せ合う状態になってきた。

 焦りと恐怖だけが、じわじわと寄せてくる。最も前に居た機械が腹部を見せて襲い掛かってきた。それはたまらないとばかりに、その下になる寸前に2号機が飛び上がって、他の機械の背中に乗り移った。そして、そのまま背中から背中に飛び移りながら、包囲の外に向かった。

 「なるほど・・・全員、あれを真似して脱出するぞ」そして残った面々は、次々とパワーアシストの力で、大きく跳躍した。そしてその機械の背中に飛び降りるとすぐさま次の

機械の背中に跳びだす行為を続けた。機械の一体が、それを見越して大きく身をそらしながら捕まえようとしたが、その瞬間見せた腹に向かって隊長の火器が命中して機械はどたんと大きな音を立てて倒れ込んだ。

 「腹は弱いみたいだな」八色は、そっと彼に耳打ちをした。その倒れた機械に向かって同じ機械達が上から覆い被さった。

 「と、共食いをしてやがる」彼はシャッターを押した。

 「脱出しました」と2号機の声が雑音の中で届いた。噴水の周りに残ったのは隊長と生身の二人だけだった。

 「さて」と隊長は言った。

 「連れて行きたいのはやまやまだが、荷物を持って跳ぶのは負荷がかかり過ぎるのでな」

 「いいですよ、その代わりと言ってはなんですが、不死身の殺人鬼になったら真っ先に貴方を探しますからね」

 「生きていたらな」隊長もまた大きく跳躍をして河の中の石を次々と踏んで渡ってゆくように去って行った。




 「なんだ男、二人だけかよ」八色は、一面に蠢く機械達を前にして笑みを見せながら言った。どうにも、逃げるに逃げられない、絶対絶命の状態だと、脳がその状況を回避したがるのか不思議な笑みが浮かびあがるみたいだ。

 「映画なら、ここで正義の味方が現れて大団円なんだけどね、俺達に与えられたシナリオが悪すぎる。」

 機械達は、ざわざわと蠢いていた。こちらに襲い掛かる様子を見せるでもなくただ、その場で少しだけ左右に動いてみたりしている。バイオリン弾きは、じっとその機械達を見ていた。先ほどから話しかけても答えない彼に八色は、手持ちぶたさのままだった。

「そういえば、ちゃんとした名前を訊いていなかったな」と八色は思い出したように訊いた。

 「部族の中ではバイオリン弾きと呼ばれている」彼は憮然としたまま答えた。何かいい方法はないか、考えていたのを邪魔されたからだった。しかし、群れを成す機械は隙間無く公園を埋め尽くし、逃げ込む余地さえない。

 「名前とか無いのか?」八色は、不思議そうな顔をした。

 「それが名だ。」バイオリン弾きは、失礼な奴だと思いながら、八色は許せそうな気がした。言葉の中に悪意の音が存在しないからだろう。

 「変な名だ」八色は、くすりと笑った。

 「この世は、変な名前ばかりさ、それでも多くの想いがそこに込められているものだろう?」

 「そうだな、確かにそうだ。で、バイオリン弾きさんよ、さて、どうする?こいつらを飛び越えて行くかい?」八色は、まわりをぐるりと見回した。

 「それにしてもまぁ、沢山集まってしまって、こんなに居るとなると、共食いでもして生ながらえてきたのかね。それとも残飯漁りでもしていたのかな?」

 「残飯漁り・・・そうか、思い出した。残飯漁りだ」と彼は静かに言った。そして、くすくすと笑い出した。

 「何だい?」八色は、彼が緊張のあまりに気が触れたのかと思う程に彼の笑いは大きくなってきた。

 「こいつら、スカベンジャーだ。」彼は、機械達を指して大声を放った。

 「スカベンジャーって、あの森の掃除屋さん?」彼は、頷いた。

 「みろ、序所に機械達は去ってゆくぞ、食べる機械が無いから興味を失ったんだ」

 「生身の俺達は食わないってことかい?」八色は、確かに包囲が緩くなってきているのを感じた。

 「ヘッドセットから雑音が聞こえていたのは、パワーアシストマシンが生きているか、信号を送って確認していたんだ。それに対してマシンは、そんな信号の事なんか考慮されていないから応答をしない、そこで、スカベンジャーはマシンが死んでいるか故障したものをみなして、分解しようと追いかけてきたんだ。やつらが興味を示すのは、CPUが内臓された機械だけだからね。生物には、全然反応さえしない。だからあのくそったれ隊長どもの機械にえらく食欲を感じていたのさ」

 「なにはともあれ、助かったのは確からしいから、良しとするか。」八色は、大きくため息をついた。

 「八色さんは、河原に出てキーを使って戻った方がいいだろう部隊が居なくなったのは好都合だ。」

 「でも使った覚えは無いけどな」八色はポケットからカードをだしてじっと見ていた。

 「持っているだけでいいのさ、あとはカードに反応してドアが開くからね。もっともドアというかそこは多分空間が開く様な仕様になっている筈だから、見つけるには手当たり次第うろつくしかないと思うよ、一目でドアと分かるものじゃないし、ともすれば光学迷彩がかかっているからね」

 「あんたは?あの部隊に戻るのかい?」

 「どうしようかなぁ、また餌になるのは嫌だし、多分古い密輸ルートが残されていると思うのだけど、それを探してみるさ」

 「密輸?」

 「ここは商業都市だからね、なにも真っ当な道だけしか無いわけじゃない、探せば怪しげなルートもあるのさ、それから隊長の世界へのルートを探して奴をぶちのめしてやる」

 「面白そうだな、それ」八色は、じっとカメラを握りしめた。

 「キーがあれば、また来れるさ」機械達は、ほとんど姿を消していた。

 「行こうか」と八色を促して彼は立ち上がった。しかし道路の向こうからは、蜘蛛に似た機械が素早くこっちに向かって来ていた。


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