表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/155

涸澤村(3)

 そして隊列が、河床から来た道を戻り始めた時に4号が叫び声がヘッドセットから聞こえた。「何かが来る。でかいぞ」やがて涸れた河の向こうから現れたそれは、お椀をひっくり返したよう形をしていた。まるでダンゴ虫と天道虫を足して2で割ったみたいだと彼は思った。ただはそれは生物ではなく機械であり、外部を覆う装甲は見るからに頑丈そうに見える。近づいてくるそれに向かって友軍は各々火気を構えた。

 「隊長あれですか?」誰かの声が入ってきた。

 「いや、違う機械のようだ。あの機械に関する報告は受けていないな」しかしどこかで見たような気がする。と彼は思った。

 実際にあれに遭遇した訳ではないが、何か本だったかネットの中のことだったかと思い出そうとしている間にも近づきつつあるその機械が、結構大きいものであることが分かった。高さは建物の2階くらいまでありそうだ。装甲の周囲には赤く光るセンサーらしいものが配置され、歩行は底部にある短いが沢山ある触手のようなものでウニかヒトデのように移動しているみたいだった。

 それは、隊の手前で停止した。やがて妙な雑音がヘッドセットに入り込んできた。そして止み、また雑音、それが数回繰り返し起こった。隊の中でざわめきが起きた。撤退すべきなのか攻撃を仕掛けるべきなのか、隊長自身考えあぐねているようだった。

 「距離を取って様子を見る。」と命令が出た途端の事だった。その機械は、今までののろい行動とは思えないほどすばやく前進したかと思うといきなり上体を持ち上げで、触手だらけの腹部を見せたかと思うと先頭に居た1号の上に覆いかぶさった。

 1号の悲鳴が電波となって広がった。条件反射のように、各自の火器が火を吹いた。しかし弾丸はその機械の装甲を貫けず、ビームは磁場によるシールドがあるのか目標に命中したときに発生する光さえそこに発生しなかった。その間にも1号の泣き叫ぶ悲鳴が何度も何度も彼らの耳を打った。

 やがて、連続する火器の攻撃が続く中、1号のさらに大きな悲鳴が空気を振るわせた。


 巨大な機械は、対峙している軍の存在に気づかないようにじっとしているだけだった。そして時折、金属を砕くような重い不気味な音が漏れてきた。

 「あれは・・・なんだ?」隊長の声だけが不安げな震える声で聞こえてきた。そして暫くの間をおいて再び威厳のある声に戻った

 「あれは、動作が遅いようだ。各自あれに遭遇した場合には、敏速に撤退しろ、これより各自別行動とし、捜索を続ける。また目標を発見した場合は、速やかかに連絡をしろ。相手はブリーフィングで説明した通りに細い足を持った多脚型の機械だ。13号は保護した男と共に、俺の傍に来い」



 「行こうか、今度はあの大きな機械が保護してくれる」バイオリン弾きは、八色に言った。

 「そっちの方が安心そうだけど、とんでもない所だな」八色は、恐怖に怖じげた風もなく、それどころか好奇心の目でまだ動かないままの機械を見ると、鞄からカメラを取り出してシャッターを押した。

 「もし戻れても、誰も信じないだろうけどね」八色は、独り言を言いながら、再びカメラを鞄に戻した。バイオリン弾きはそれを自分に対する問いかけのように捉えた。

 「なら、どうして写真を撮るのだい?」八色は、問いかけられた事に一瞬ためらった。

 「好奇心かな。見たこともないことを見たいし、できればそれを自慢したい。」八色は、カバンを外からぽんぽんと叩いた。

 「そして、これはなにより真実を残すからね加工したなんか言わせないためにフィルムを使っているしね」二人は、隊長の傍に並んだ。

 「行くぞ」隊長は彼に一言だけ言って、前進を開始した。



 バイオリン弾きの一行は、瓦礫の街の中を急いで進んだ。他のメンバーは建物の中に入ったり、わき道に入ったりして探査を行っていた。

「私は、街の中央にある広場に行く。あれが居たらそこに誘きだせ」隊長は、全員に連絡をした。

「最もそれ以前に、奴がこっちを見つけてくれるかもしれないが」

 街路を進んだ先には、広い広場があり平行に進んでいた全ての道路が一旦そこに

終結し、再びその先には廃墟となった街が続いているのだ。その広場の真ん中にある涸れた噴水の前で3人の行軍は終わった。

 「なんだ?待ち合わせでもするのかい」七色は、疲労のためなのかさっさと噴水の縁に座ってから言った。

 「いや、餌だよ」バイオリン弾きは、男の横に座った。

 「何の?」

 「かつてこの街を全滅においやった機械をおびき出す餌だよ。僕らはね」彼は、肘を膝の上に置き掌で顎を支えたまま周囲を見回した。

 「何故逃げない?」八色はカメラを引っ張りだした。

 「先ず、この世界自体逃げ場がない、そして味方の怖いお兄さん方が直ぐに捕まえに来る。逃げるだけ体力の無駄だ」

 「確かにそうだな。でもなんでお前が餌にされたんだい、犯罪でも犯したのか?」八色は、一枚一枚丁寧に写真を撮っていた。

 「いたって、真面目に生きてきたさ、ただ所詮、僕はよそ者だからね。放浪者なんてさ」 陽炎のような物が、あちこちに立ち昇って人の形を取り出した。

 「幽霊か」八色はじっとファイダーを覗いた。

 「残留思念だ。かつてここでは住民が一夜にして一人の男に、ほぼ全員殺害されたからね、その思念がこの閉じた宇宙では霧散できないんだ」

 「一夜に全員・・・するとやはり此処が涸澤か、本当にあったのか」

 「涸澤かどうかは知らない、そしてその殺人者を作った機械をこうして待っている。」幽霊はゆれながら公園内を巡っていた。

 「何故、たった一人でそこまで出来たのだろう?警官とか居なかったのか?止められらなかったのが不思議だ」

 「居たさ、警官も軍もマフィアも、ただ男は不死になっていたんだ。殺すこともできなかった。最後は完全にミンチになるまで叩き潰したようだよ。聞いた話だけどね」そしてその不死者となった男は・・・彼はふと口にでかかった言葉を飲み替わりの言葉を口にした

 「この話は、あんたの世界でも知られているのか?」

 「いや、地方のひどく古い新聞記事に載っていたんだ。一夜にして、村人全員が虐殺された記事をね。俺はオカルト系のライターをしていたからさ、なにかとてつもない猟奇事件でもあれば、そこには幽霊話もある筈だからね。だが調べてみると、全くそんな事実を掘り返すことは出来ないんだ。変だろ?しかも続きの記事も訂正の記事も無いのさそうこうしているうちに、あのキーを手に入れて此処に迷い込んでしまった。ま、最も家出してまでこんな稼業に入ってしまったから心配する奴もいないけどね」男は、から笑いをしてみせた。

彼は、「そうか」とだけ言った。ヘッドセットから悲鳴が聞こえてきたからだった。

 「凄い数だ!!」ヘッドセットから別な声が聞こえた

 「逃げろ!」そしてまた悲鳴、悲鳴


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ